魔王の運命と思いたくない出会い
「魔王様!?ヤバイ!すっごく魔王に似てる!はっ、今なら限定キャラが出るかもしれない!」
俺の目の前で校則違反なのにスマホを持ってきて立ち上げる、メガネを掛けた女子がいる。
しかも人の顔を魔王みたいとは失礼な奴だ。
「おい、俺が魔王面って失礼「うおっしゃーー!」は!?」
話しかけたら奇声で帰ってくるってどう言うことだ。
俺が混乱していると、スマホを突き出してくる。
画面を見ると、ボブカットの女の子が魔王風の服を着ていた。
メガネ女子が画面をタップすると、ボイスが流れる。
『ニャンニャン』
「………。」
魔王なのにニャンニャン言ってるじゃねーか。というか俺ってそう見えたの?え、俺正統派イケメンの部類だよ?
心の中でツッコミを入れたが、実際には何も言えず。
メガネ女子は拳を振り上げ、ジャンプする。
「魔王キャラゲット!」
目の前で無邪気にはしゃいでいるが、内容が内容。そんなかなり残念な女子を見つめながら、どうしてこうなったのかと少し前を思い出した。
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俺・西条和人は、この花月学園のトップに立つ男だ。
成績優秀、スポーツ万能。とった賞は数知れず。そして日本屈指の会社の、若くして社長に上り詰めた男の息子。皆が俺を尊敬と嫉妬の目で見る。
最初は戸惑い、謙遜していたのだが、次第に面倒になり、当然と言う態度で受け入れた。
そして今日。俺は授業がつまらなくなった為、教師に許可を取り、裏庭をぶらぶらしていた。
ベンチに座り、最近話題のニュースでも思い返す。会社の跡取りとして、常に世情は知っておかねばならないのだ。
「今日○○会社の社長が78で亡くなり、その孫娘が後継と……」
「うわぁぁあ〜!?」
「は?……ぐはっ!」
声がしたと思ったら、突然女の子が降ってきた。
真下にいた俺は見事に女子の下敷きとなり、呻き声が漏れる。
馬乗りになるように俺に落ちた女子はキョロキョロし、
「す、すいませんすみません!………あ」
俺に乗ったまま謝ってくる。早く降りて欲しいんだが、とぼんやりと思う。ようやく顔をあげた女子と目があったかと思えば、徐々に女子の頰が赤くなっていく。
俺は顔を顰めた。普通なら恋に落ちるシチュエーションだが、俺は違う。
自分で言うのも何だが、整った顔をしている俺は、一目惚れされることが多かった。
有名な会社の後継ということもあって、下心から告白する女子の多いこと。
またかと思いながら、降りてくれるよう頼む。
「退いてくれないか?」
すると、まるで小動物のように離れる。
改めて女子の姿を見る。お下げの髪に、細縁の四角いメガネ。
優等生タイプであろう女子が何故授業中裏庭にいるのか。
「……魔王がいる!」
頰をピンク色に染めながら、叫び出した。
「……は?」
冒頭に戻る。
俺はやっと立ち直る。混乱は治っていない。
「待て待て待て。俺が誰だか知っているのか!?」
不思議そうな顔で見てくる。次第に哀れな人を見るような眼差しに…
「自意識過剰とは可哀想な人ですね。」
「お前殺すぞ!?社会的に!」
「まあ、権力で脅してくる人……可哀想に。」
わざと泣き真似しているが、権力って言ったよな!?つまり俺のこと知っているんだよな!?
「お前知ってんじゃねーか!」
「まあまあ、この学園のトップがそんな言葉遣いではいけませんよ。」
確かに声を荒げているのは俺だけだ。よし、冷静になれ。
深呼吸をして、落ち着く。
久しぶりに大きく感情が動いたな……。
そんな俺を見て、メガネ女子は残念そうな顔になる。
「あら、もう終わりですの?」
「ああ。というか何だその言葉遣い。さっきと全然違うだろ。」
「同じです。」
「いや、『うおっしゃゃ』って「同じです。」……。」
笑顔で否定してくるメガネ女子に、駆け引きで負けたことがない俺が黙ってしまう。圧を感じるのだ。言うなよ、という心の声が聞こえる。
「……じゃあ何で授業中にこんな所にいるんだよ。」
「貴方こそ」
「俺は許可を貰った。」
「私もですよ。」
「何その口調!キッモ!」
「……殺して差し上げましょうか?」
「あれ?俺にさっき言った言葉は何だったかな?」
ここぞとばかりに俺はツッコむ。
メガネ女子は悔しそうに俯き唇を噛んだ。
俺はザマァと愉快な気分になる。
しかし顔を上げたと思ったら、とーってもウザい顔を向けてきた。
「まあまあ。トップの貴方がこのような小さい事を気にするわけがありませんよね?」
挑発をしてきた。
額に青筋を浮かべながら、受け流す。
「そんなわけないだろう?君こそキレているんじゃ?」
「私の事をそう見えたのですか?眼科を行くことをお勧めしますよ?」
「自覚していないなんてなんて哀れな。」
何を言っても言い返してくるメガネに段々とイラついてくる。
しかし、ここで火花を散らしていた口論が終わる。
チャリラリーンチャリラーン
初代校長が優雅にという理由で決めたらしい、チャイムと思えないチャイムが鳴る。
俺は警戒を解くと、腕を組む。眉を上げ、挑発的な笑みを浮かべる。
「……良かったな。チャイムに助けられたメガネさん。」
メガネが青筋を浮かべたのをみて、
「貴方こそ良かったですねぇ。負ける前にチャイムが鳴ってくれて。」
「何だと?」
「何ですか?」
しばらく睨んでいたが、先に視線を外したのは俺だった。
次の授業に遅れるのはマズイ。後五分で始まる筈だ。俺は裏庭から退場しようとメガネに背を向け、歩き出す。
こちらを睨んでいるであろうメガネにヒラヒラと手を振る。
「精々授業に遅れないようにしな。」
「あなたに言われるまでもないわよ。」