第50話 憂鬱と変化と停滞
ジメジメしている。それがこの店の感想だ。陰湿というかなんというか……。
俺達が連れて行かれた店の裏はさらにジメジメしていた。
換気もされておらず、窓さえ数えるほどしかつけられていない。最悪の環境だ。
「とりあえず戦えればいいんですね?」
「まあ最悪、そうだな」
そう言って俺達は裏の奥へ奥へと案内された。
そこには光を無くした屈強な戦士達が檻の中にしまわれていた。
チラッとこちらを見てすぐ目を離すものや、怯えるもの、舌打ちするのも等様々な反応だ。
「使えるのはここいらでは無いでしょうか? もし時間があるなら私が見繕って起きましょうか? 私の方が勝手が分かりますので。それに明後日は入荷の日ですし」
「……あぁ頼む」
そう言って俺は裏を出て、店を出た。
店を出る時に軽く用紙のようなものを渡され、奴隷について何か希望はあるか等の簡易な質問に答えさせられたな。
その時、ミオンはやたらと奴隷の性別を男に推していてな。訳を聞いても詳しく教えてくれなかったのだが、思春期の女心とだけ言っていた。
「案外短かったですね。それにお金の方も安くしてくれるみたいだし」
「そうだな。まだ余裕あるし、しばらく休むとするか」
「異議なし!!」
奴隷商は一週間後に奴隷を用意すると言っていた。
つまり一週間は暇という訳だ。
急に暇となるとすることに困る。
この街には一年ほどいるわけだし、ほとんどの場所を見て回った。
また一年という時間がありながらも、親しい仲の冒険者も一人もいない。
俺達は困ったなぁ、とぶらぶら街を歩き続けた。見慣れた光景、見慣れた街に人、まさに面白くない。結局俺達はファミリアにも入る事もなく、二人でぷらぷらと依頼を受け続けた。
何度か勧誘を受けたが全て断った。
理由は様々だが、単につまらなそうだからという理由だ。
『憂鬱』なんて大層なものじゃない。
だが今の俺の気持ちを表せる言葉を俺は知らない。
それから俺達はうじうじぐだぐだだらだら。寝ては起きては食べてはて寝はの繰り返しの生活を送っていた。
俺達はそんな怠惰な日々を送っていた俺達だが、きがつけばあれから既に一週間が過ぎていた。
時間感覚が狂っていた俺達は慌てて支度をし宿を出た。
向かうのはもちろん奴隷商の所だ。新しい仲間が加わるのだ。のんびりなんてしていられるわけが無いだろう。
幸い宿から奴隷商の所まではそんなに離れていない。俺らは駆け足気味で向かった。それだけおれ達は楽しみにしていたのだ。今日というこの日を。
「どんな人なんでしょうね。生意気だったら私が懲らしめてやります」
「程々にな」
ミオンなら大丈夫と思いたいが、かっとなるとすぐ暴走するくせのあるかミオンは少し心配だ。
しばらくするとあの奴隷商の店に着いた。何度見ても気持ちが悪い店だと思う。
店の中に入ると俺の目には大きな檻が目に飛び込んできた。
だが、その檻は赤い布が被さっており、中身は見えない。
「お待ちしていましたよお客様。ご要望通りの強い戦士をご用意させて頂きました」
「ああ、助かった」
目の前には俺達の新しい仲間。そう思うと手から汗がじわじわと染み出してくる。
「さあこの布をお取りください」
奴隷商にそう言われ、俺は布に手をかける。
新しい仲間、それはすなわち新しい冒険。俺達の新たなる一歩、新たなる力。
そう――これから始まるのだ。何も変わらない。だがそれは停滞ではない。
「さあ、お開けください!!」
俺は檻にかかっている布を勢いよくおりから剥がす。その瞬間、俺の目には一人の人影が飛び込んできた――
今までありがとうございました。これでこの物語の『第一章』は完結とさせていただきます。
『第二章』の投稿は未定とさせていただきます。
これまで読んでくださった読者様にはかんしゃしています。急な完結という形になり申し訳ございません。続編が投稿された場合、その時はどうかよろしくお願いします。




