第46話 一筋の一閃
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一旦整理しよう。相手の攻撃手段を。
奴は素手での攻撃一辺倒。
空気が爆発するようなパンチ力。
空中から物凄い勢いで向かってくる脚力。
どれも人並外れている。
それは防御力も同じだ。ミオンのバーストフレイムを喰らってもそこまでのダメージでは無かった。
だが、俺の剣はどうだろう。
まだ一回も当たっていない。
全て避けられてしまう。
きっと斬撃はどう足掻いても防御しきれないのだ。
化物と言っても所詮は肉の塊。
ミオンもきっと分かっているだろう。
「何考えてるか知んねえが、当たんなきゃ意味ねぇぞ」
悔しいがその通りだ。
やつに攻撃を当てる手段が思いつかない。
幻影を使っても避けられ、魔法も避けられる。
それは地上にいようと空中にいようと同じ。故に厄介極まりない。
「『空波』」
男は突然殴り出した。当然俺に届くはずもない。
すると空気のような塊が俺の腹を勢いよく襲った。
「ぐあっ!!」
「リヒト様?!」
俺は後ろに勢いよく飛ばされる。だいたいミオンのすぐそばまで飛ばされた。10メートルの距離をだ。
空気の大砲、とでも言えるものが飛んできた。
強化魔法を使っていなかったら今のでやられていただろう。
「げほっげほっ……遠距離攻撃も出来んのかよ……」
「リヒト様、私にいい作戦があります!!」
「作戦って……」
俺はミオンに耳打ちで作戦を伝えられる。
別に耳打ちじゃなくてもいい気がする。だが、ミオンの考えた作戦は凄かった。「これなら勝てる」そう思わされたのだ。
「チャンスは一度っきり……」
「絶対成功させます!!」
「作戦会議は終わったかよ。なら行くぞ!!」
男はどうやら俺達の話を待っていたらしい。
なんというか律儀というか。本当に盗賊なのか疑ってしまう。
男は拳を前に出し、先程俺に喰らわせた『空波』という技を打とうとしている。
「させるか!! 『黒耀炎射』」
俺は先程よりも少し上目に炎の斬撃を放つ。
これは空中に移動させないためと、空気の弾への牽制も兼ねている。
予想通り男は上に避けずに、横へと回避した。
準備は整った。あとはミオンが魔法を放つのみとなった。
「我が炎よ 我が魔力を糧とし 熱く斬り裂き 燃やし尽くせ尽くせ 『煉獄』」
ミオンが詠唱を終えると、いくつもの炎の斬撃が現れ、男に襲いかかる。
これは俺がプルーネ戦で見せた『煉獄』、という剣技を模倣した魔法だ。俺がというか多分シリスロギアの技だろうが。
しかし、この炎の斬撃は俺の黒耀炎射程の威力はない。せいぜい雲切り程度だろう。だが、それで充分だ。
この無数の炎の斬撃のおかげで奴は身動きが取れない。
ミオンは炎の斬撃を飛ばし続ける。俺はその炎の斬撃に紛れ、一直線に男に向かう。
防御を捨てた、捨て身の攻撃だ。奴からは攻撃はこない。ミオンが足止めしてくれているから。
俺はミオンを信じ、煉獄と共に進む。
足を止めることなく、自分の今出せる最高速度で。
「喰らえ!! 『煉獄一閃』」
煉獄の刃から現れる凄まじい速度の突き技。煉獄の刃のおかげで、男からは閃光のような速さに映っただろう。
ミオンの刃が無い限り、この男には通用しないだろうこの技。だが俺は一人ではない。
その一突きはしっかりと男の右肩を突き刺す。かなりの致命傷だろう。
だが、それだけでは終わらない。
「がぁっあぁーー!!」
俺の健には黒炎が塗られている。
当然傷口から黒炎が燃え広がり、強烈な痛みが男を襲う。
俺は男に剣を突きつけ、そして炎を消す。
男の右肩は焼けてはいるがまだ何とかなるレベルだ。当然戦えはしないが。
「バカかお前」
「お前と少し話がしたかったからな」
俺がそう言うと男は鼻で笑い飛ばした。
「俺はお前が本当に悪いやつにはみえないんだよ。ただ、戦うのが好きなバカにしか見えない」
俺と戦っている時のこの男は、確かに殺意むき出しだった。だが同時に楽しそうだった。
俺も少しばかり楽しいと感じていた。またやれたらいい、そう考えていた。
「言ってくれるじゃねえか。だが、俺は善人なんかじゃねぇさ。つか、この世に善人なんか一人もいねえ。人が生きてる限り世の中は悪でいっぱいだからな」
「それはどういうことだ?」
男はそういい、左手で自分の肩を触る。
黒焦げ、血塗れの肩を触り、手を地面に置く。
「さあな。邪神にでも聞くんだな」
「邪神て何だ。答えろ」
俺は見せつけるように剣を突きつける。
だがそれも意味が無いのだろう。
「俺は悪人だから教えてやんねぇよ」
「おい、いいかげんに――」
しろ。そう言おうとした途端。男の左手から煙のようなものが吹き出した。
俺はその場から離れ、男から距離をとる。
煙が晴れると、そこには大きな鷹のような魔物が現れた。
「魔物?! なんで急に……」
「何だ、召喚魔獣も知らねぇのかお前」
召喚魔獣。つまり使役した魔物というわけか。
男はこの鳥の背中に乗っている。
どうやら逃げるらしい。
「させるか!!」
「あばよ、またやろうぜ」
そう言って男は、鳥と共に空を飛んでどこかに言ってしまった。
凄まじい速度だった。止めようとしたが、すぐに逃げられてしまった。
「またやろうぜ、か。そのうちまた会えるのか?」
なんだかすぐにでも再会しそうな気がする。
悪いやつには見えなかったし。根は良い奴なのかもしれない。
俺はそんなことを考えながらその場に腰を落とす。
「あー疲れたぁ」
「お疲れ様です」
ミオンがちょこんと俺の隣に座ってきた。
こんなに小さい体で俺を助けてくれたんだ。本当にミオンはすごいと思う。
「なんだかんだいつもミオンに助けて貰ってるな。ありがとうミオン」
「えへへ。私とリヒト様野中ですから当然です」
俺はミオンの頭を撫でてやった。
何故か無性にそうしたくなったのだ。
ちなみにおじさんはと言うと、盗賊が姿を現した時点で気絶していた。
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