第45話 岩場の攻防戦
俺はこの剣に魔力を流す。
それが異能解放だからだ。
薄く鋭く精密に……全ては強くなるために。
剣は黒く輝き、刃先に黒炎を纏う。
「またせたな」
「ちっとは楽しませろよ」
楽しませる気なんて毛頭ない。
男は腕を前に出し構える。どうやら素手で戦うスタイルらしい。
俺はと言うとフォルテート流を使う気は無い。そう言われたからな。だが本気は出す。新しい戦いでだ。
俺と男の距離はだいたい5メートルくらいだ。距離としては充分だ。
俺は剣を構え、意識を剣に集中させる。
久々な感覚だ。上手くいくかは自信が無いがやるしかない。
「『黒耀炎射』」
俺は空間を斬るように斬撃を放つ。
フォルテート流の『雲切り』と同じように。
だが『雲切り』のようにただの斬撃では無い。黒炎を纏い、雲切りよりも威力が高く鋭くなっている。
黒炎の斬撃は大地や岩をも削り、撒き散らしながら男を襲う。
「よっと、あちぃなおい」
俺の黒炎の斬撃は呆気なく避けれてしまう。
余裕そうに空高く飛んで避けたのだ。
直撃すれば一瞬で命を奪う攻撃。だが当たらなければ意味が無い。
男は流石と言っていいほどの身体能力。
内面かなり悔しい。
この一撃で仕留める自信があったからだ。
自分で考えた剣に自信がないわけが無い。だがそれをこの男は意図も簡単に避けやがった。
「おもしれぇ。『破弾』」
空中にいる男は手の平を俺に向け、黒炎の斬撃により斬り飛ばされた岩を足場にし、勢いよく俺に向かって落ちてくる。
落石、いや、隕石とでも言おうか。
だがそんなことを言ってはいられない。
当たったらやばい。確実に死ぬ。
「まじかよっ!!」
俺は今いる場所を素早く離れ、男の攻撃をギリ回避する。
男は爆音とともに着地する。
着地というかそのまま地面に攻撃したようだ。
俺が元いた場所には小さなクレーターが出来ている。少しヒヤリとした。
「中々に中々やるじゃねえか」
「お互い様だろ」
この世界で戦ってきた中でこの男はダントツで強い。あのプルーネよりもだ。
俺は少し、少しずつ焦りを感じ始める。
とりあえず、ミオンやおじさんがこいつの標的にされないようにしないとな。二人が狙われたらかなりやばい。
ミオンは何とかなるかもしれない。だがおじさんは確実に殺られる。
「『ブラック・スピア』」
俺は自分の背後に二本の黒炎の槍を生み出す。
以前は意識をかなり集中させなければ行けなかった。
だが、俺は時間があれば、極小さい黒槍を作って遊んでいた。
その甲斐あってか、この黒槍の操作は上達していた、
「剣の次は槍ってか。そんなんで俺にかなうかよ」
確かにやつの馬鹿力には驚いた。
反応速度も桁違いだ。ならば数を増やすしかない。それしかすることがないのだから。
俺の黒炎はミオンのようにあまり自由が効かない。
ミオンは炎の形をイメージすればある程度のことは出来る。
だが俺はせいぜいこの槍を動かす事しか出来ない。
ならそれを極めるまでだ。
「『ブラック・スライサー』」
俺は背後の槍を高速回転させる。
高速回転する槍はまるで真円。
この真円は速度、威力共に飛躍的に向上する。喰らえば一溜りもないだろう。
「行くぞ!!」
俺は二本の真円と共に男に斬り掛る。
俺の斬撃を避ければ槍の真円が襲う。
槍を避ければまた剣が襲う。
攻撃し続けるしかこいつを止める手段はない。
「『空爆』」
男は槍を殴り飛ばした。すると空気が爆発するような音がする。
何が起こったかはわからない。が、ダメージが無いのは見え見えだ。
このような攻防を何回も繰り返した。
だが一向に致命傷を与えられる気配がしない。
だが、少しずつだが消耗しているように見える。
こいつも人間というかことだ。
「はぁ、これでおしまいか?」
「あと少しだろ。肩で息してるくせに無理すんなよ」
男は確かに消耗している。
その証拠に肩でぜぇぜぇと息をしている。
だが、俺もそれは同じ。
否、俺の方がかなり追い込まれている。
慣れない長時間魔力操作に加え、強化魔法まで維持しなければならない。そして男に斬り掛れば体力が失われる。
精神、体力、魔力共にギリギリもいい所だ。
「爆ぜる炎よ 我の魔力と共にその真価を発揮せよ
『バースト・フレイム』」
攻防からミオン詠唱が聞こえる。
すると二つの『炎弾』が遅れてやってくる。
そしてその二つの『炎弾』は当然の様に男を襲う。
速度、大きさ、威力共にこの前の比では無い。
「『空底』」
男は『炎弾』を手の平で弾き飛ばす。が、『炎弾』は少し飛ばされただけでまた男を襲う。
「『爆ぜろ』!!」
ミオンがそう言った途端、二つの『炎弾』は大きな爆発を起こした。
爆発は轟音と共に煙をまき散らし、当たりを破壊し尽くす。
ウロウに使った時より威力は格段に強く、こんな爆発をくらったら一溜りも無いだろう。
だが、俺もミオンも分かっている。
この男はこんなんじゃ倒れない事を。
「どう……ですか? ちょっとは痛いでしょう?」
煙が晴れ、その中から男が現れる。
いくつもの傷が見える。
全身ボロボロ。上半身の服はあとかたもなく吹き飛んでいる。
あれほどの爆発をまじかで受けながらこの軽傷で済んでいるのだ。
まさに化け物と呼べるだろう。
「あぁ、流石にちと焦った。やるじゃねぇかちんちくりん」
「リヒト様は休んでいてください。私がこいつを何とかしますから!!」
「いや、俺もやる。二人でこいつを倒そう」
「っ、はい!!」
ミオンは嬉しそうににっこり笑う。
流石にミオン一人にこの相手は荷が重い。
俺とミオンが協力して何とか五分五分と言ったところだろう。
「行くぞ!!」
「はい!!」
俺とミオンの戦い方は決まっている。
俺が前で戦い方ミオンは後ろで攻撃、そして援護に回る。リーチがある分俺達の方が有利と言える。
俺は男に対し真正面から突っ込む。
正々堂々戦うためではない。敵を撹乱させるためだ。
「『黒脚幻影』」
フォルテート流の緩急をつけて幻影を見せる技。それを応用し、俺がいくつもの俺に分身したかのように見せる。
俺達は勢いよくあの男に斬り掛る。
四方八方。男からすればいくつもの斬撃が飛んでくるように感じるはずだ。
「ったく、器用だなおめぇはよ!! 『地壊』」
俺の剣が男に届く直前。男は俺ではなく地面に打撃を入れる。
地面は割れ、砕け散る。
そのせいで俺の足場は無くなり、斬撃を入れるどころか帰って隙を作ってしまった。
男は俺が無防備な状態である事に気がつくと、拳を俺に向けて構える。
こんなまじかでくらったらやばいだろう。
だが、俺はこいつと違って一人じゃない。
「『バースト・フレイム』」
俺と男の間にミオンのバーストフレイムが割ってはいる。
男は爆発を警戒したのか、俺への攻撃を止め後ろに飛んで下がる。
「たくめんどくせぇなお前ら」
「形勢逆転です!!」
形勢逆転、とまでは行かないがこのままいけば大丈夫だろう。
俺達はまだまともにあいつの攻撃を喰らっていない。喰らったらその時点で終わりだからだ。
「こっちはまともに入れてねぇのによ。割にわあねぇってもんだ」
「盗賊だろ? ならごちゃごちゃ言うなよ」
「こりゃ冷てぇな。じゃあごちゃごちゃ言わずぶっ飛ばすか」
男は構える。何度も取った構えだ。方腕を前に出し、もう片方は腰に当てる。独特な構えだ。
「なんでこんな強いやつが盗賊やってんだか」
盗賊は基本雑魚の集まりと言われている。
戦闘能力が高ければ、盗賊なんかよりも冒険者をやっていた方が稼げるからだ。
なのに何故この男は盗賊をやっている。
これほどまでに自分を鍛え上げてまで、何故盗賊をやっている。
「俺は男だ。男が楽しいことやって何がわりぃ。俺は盗賊ってのが楽しいからやってんだ。あんな規則だのぬか冒険者なんてつまんねぇんだよ」
「子供か……」
理由があまりにも幼稚だったため、男は俺はため息を漏らす。
まあ最初からどうだっていい事だ。
「さ、続きをやろうぜ」
「あぁ」
俺は剣を握り直し、構える。




