第42話 シリスロギア
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「えーっと近くの街ですか?」
「はい。なるべく魔物が強いところがいいです」
俺達は今冒険者ギルドに来ている。受付嬢にゴブリンの魔石を渡し、報酬金を受け取ったところだ。今日はついでに次に向かう街の情報収集も兼ねている。
「そうですね。バーデンブロウなんてどうでしょう」
「バーデンブロウって隣町を超えた大きな街でしたよね」
バーデンブロウという街は隣町を超えた所にあり、この街よりも何倍も大きい街のことだ。街というより都に近い。
ちなみにこの世界では三つの大陸に人が暮らしており、俺たちが今いるのはクラツラル王国という人種差別が盛んな国だ。王都はその大陸の中心にあり、それを囲うかのようにいくつもの街がある。バーデンブロウという街はクラツラル王国でも一二を争う程大きく栄えている街である。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ。くれぐれもお気をつけて」
俺は受付嬢にお礼を言ってギルドを出た。
日も暮れ始め出来たので今日は直ぐに宿へと帰ることにした。
夕食は宿で済ませ、速やかに自分の部屋へと戻った。相変わらずミオンの食べる量には驚かされた。
「あ〜疲れた」
日頃の疲れか、俺はベットの上で横になるとすぐさま眠気に襲われた。最近色々ありすぎたしな。ていうかまだ転生してそんなに日が経ってないし。明日も早いことだしもう寝るか。
俺はその後すぐさま寝てしまった。
「ん……」
俺は気がつくと見知らぬ場所にいた。パッと見地下室のように見えるが。
「どこだ。それになんか体が重い……?」
感覚的にはクライシスに呼ばれる空間に似ている。だが、この空間ではどこが陰鬱な空気がする。そのせいか、体が重く感じる。
俺は当たりを見渡さそうと立ち上がり、後ろを振り返った。
「よう。やっと繋がりおったか」
「――は?」
俺の後ろには大きな竜がいた。民家の倍以上の大きさの竜だ。全身漆黒の鱗でおおわれており、獰猛な爪と牙を生え揃えている。
「もしかして、お前が『魔神 シリスロギア』か?」
俺は恐る恐る竜に尋ねる。俺の中にいるという憤怒の塊ではないのかと。
「いかにもワシがシリスロギアだ、ライトよ」
「てことはここは俺の心の中ってわけか?」
「そういうことになるな」
それからしばらく沈黙が生まれた。何をどう話せばいいのか全くわからない。
「えっと……何で俺を?」
「お? 分からぬか。それはお主に言いたいことが山ほどあるからだ」
言いたいことってなんだよ。言いたいことがあるなら黙るなよ。
「まずお主は『フォルテート流』なる剣技を使っているな?」
「使っているけど」
「その剣技を使うのをやめろ」
「は?! 急にそんな事言われても無理に決まっているだろ」
竜は――魔神シリスロギアは俺に今の剣技を捨てろと言ってくる。いくらなんでも無茶というものだ。俺はそれに対し、驚き半分怒り半分で答えた。
「ワシは憤怒ぞ? 神などではない。なぜお前は神の技を使う。それでは強くはなれない。ワシの本来の力を引き出すことなど到底出来ない」
「ごちゃごちゃうるせぇぞ!! なんで俺がお前に従わなきゃならない。というか急すぎるだろ。説明不足だろ。なんなんだよ、なんなんだよお前は……」
俺はシリスロギアに本音をぶつける。急にこんな場所に連れてきて、説明もせずベイトさんに教えて貰ったワザを捨てろ? ふざけてるだろ。
「はぁ。全くめんどくさいぞ人間。お前は強くなりたかったのだろ? そして力を求めたのだろう」
「……ああ。だから、だからベイトさんに教えを求めた」
そうだ。強くなりたかった。誰にも負けないくらい、誰でも守れるくらいに。
「そうだ。お前は魂を売ったのだ。強くなるために、憤怒の炎にその身と魂を投げ売ったのでは無いのか?」
そうだ。怒りを糧として強くなった。でも、それでも守れないものがあった。
「最近のお前は腑抜けだ。忘れたのかあの怒りを。心の奥底から煮えくり返るあの怒りを!! お前の憤怒はそんなにも生ぬるいものだったのか!! それでいいのか!! フライデを、クリルを、ファレスを、ガイストを守れない、弱いお前のままで良いのか!!」
「…………いい、わけないだろ」
いいわけがない。何度後悔したことか。何度自分の弱さを呪ったのとか。
俺は沈んだような感覚に襲われた。黒い水に吸い込まれるように落ちて行く。どこまでもどこまで深く。そして思い返す。守れなかった物を、失ったものを、何のためにこの世界に来たのかを。
「強くなれ。お前にはそれしか残されていない」
呪いのような言葉だ。俺をしばりつける呪いのようなもの。俺がもっと強ければあんなことにはならなかった。だから強くなろうとした。でも無理だった。そんな事を何回も繰り返した。
「お前は強くなれる。だから強くなれ。お前の為ではなく、守れなかったもののためにだ」
シリスロギアの声が俺の耳に届く。やけに大きく感じる声だった。希望の声のように感じた。沈んでいた俺の心が、陰鬱になっていた俺の心が晴れたような感覚だ。
「ライトよ。強くなりたいか?」
「当たり前だ!!」
俺はシリスロギアの目を見つめながらそう言い放つ。俺がこの世界に来たのは罰なのだ。弱い自分への罰。俺はそれを再確認した。
ちょっと雑になってしまったかもです




