第41話 操り人形
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「リヒト様。この人達なんて説明するんですか?」
俺達は森を抜け、街のすぐそばまで来ていた。ミオンは俺達を襲ったビスとウルをどうするのかと尋ねてきた。
正直、ギルドに説明するのもなんだかめんどくさくなってきたところだ。もうこのままそこらに捨ててしまった方がいいのでは? と思っている。ちなみにあのウロウは捨ててきた。
「んーそこら辺に捨てるか?」
「う……何かあちこち痛い、んだが」
「ああ、起きたのか」
どうやら気絶していたビスが目を覚ましたらしい。
ビスは腰や肩等といった場所を擦っている。道中引きずっていたから、石や岩に何度か当たってしまったせいだろう。
「まあ鞭で巻きながら引きずったからな」
「ひでーな。で、俺らをどうすんだ?」
ビスは苦笑しながらそう言った。ビスの質問は実にタイムリーなものだった。
「そこら辺に捨てようかな〜と」
「おいおい、粗大ゴミみたいな扱いするなよ」
ビスはどこか諦めたようなかんじで笑い飛ばした。いや、わりかし冗談では無いのだがな。
どうやらビスは逃げるという選択肢をとうに捨てたらしい。それだけ賢いということだろう。あの酔っ払い様からは想像できないが。
「なんだい。ギルドには報告しないのか。そりゃありがたいね」
「起きてたのか。なら早く言え」
どうやらウルも起きていたらしい。この様子からするとビスよりも前に起きていたのだろう。なら早く行って欲しいものだ。二人を引きずるのは少ししんどいからな。
「さて、どうしたもんかな。手はないわけじゃないんだが」
「見逃してくんないのかい?」
「タダで見逃すわけないでしょ!!」
ウルの舐めきった態度にミオンはご立腹の様子だ。まあミオンの言いたいこともわからなくは無いが。
「じゃあこうするか。俺達はお前らを見逃す。そんでお前らは俺達を死んだことにしろ」
「はー? んなもん俺らが裏切るかも知んないぜ?」
「そうさね。というか絶対そうするね」
まあそうだろう。こいつら元々悪党だしな。というか俺はタダで逃がしてやるつもりはもうとう無いがな。
「そこら辺は大丈夫だ。『ブラックマリオネット』」
俺は両手のひらに魔力を集中させる。これまでの魔法よりも細かく精密に。そして黒炎の人魂のようなものをを形成させる。
メラメラと小さく燃える二つの炎。だいたい手のひらに収まる程度の大きさだ。俺はこの黒炎二人の前に差し出した。
「これはお前らの魂だ」
「は?」
「何を言ってるんだい?」
二人は何が何だかという表情だ。二人だけでなく、隣で聞いてるミオンも同じ様な表情をしている。
俺はこの二つの炎に言葉を吹きむ。
「『お前らは依頼主に目標は死んだと伝えろ。そして俺たちに逆らうな』」
俺は炎に言葉を吹き込んだ。絶対に消えない言葉だ。
「だから、さっきから何を――」
「誓約完了」
ビスの言葉を無視し、俺は二つの小さな炎を二人の口の中へ押し込んだ。
「ぐあっ!!」
「う、う……あ、熱い!! 体が焼けちまうよ!!」
俺が炎を押し込むと二人は急激に苦しみ出す。
これが俺の獲得した最後の黒炎魔法『ブラック・マリオネット』。炎に言葉を込めた魔力を吹き込み、相手を服従させるという恐ろしい魔法だ。その恐ろしさだけに色々と条件があるのだが、今回はその条件の全てをクリアしていた。
「ぐっ……ああ!!」
「うぅっ!!」
俺は苦しむ二人の横でこの魔法の条件等のをミオンに説明した。
まずこの魔法を発動するにはいくつか条件があること。一つは「相手が術者を格上と判断していること」
。つまり自分より強い相手には使えない。
二つ目は魔力の問題。この魔法は強力な為相当な魔力を消費する。今の俺の魔力では全然足りないくらいだ。なので普段は魔法をかける相手の魔力も使うように吹き込む。そのため相手の魔力が少ないと使えない。
そして最後、三つ目の条件。それは同種にしかこの魔法は効かないということ。これに関しては今のところよく分からない。なぜ同種以外は使えないのか、一通り考えたがまともな答えが出なかったので保留にした。
これらの条件が全てクリア出来て初めてこの魔法が使える。あとは魔力と誓約内容を炎に吹き込めば完了、という形になる。
このように、この魔法は限られた条件下でしか発動できないのだ。ちなみに無理に誓約を破ろうとすると、身体中燃えるような痛みに襲われ、最後は燃えて灰になってしまうらしい。
「えげつないですね」
ここまでの内容を話すとミオンは少し引いていた。苦笑いから笑いを取ったような顔をしていた。
「まあ使う機会は少ないだろうが」
「ダメですよリヒト様。わ、私にその魔法を使ってえ、エッチなこととか……はわわ!」
ミオンは顔を赤らめこちらを見てくる。上目遣い、というやつだ。そう言えば前に、クリルにも似たような仕草をされたな。
俺はそれを軽いげんこつで返してやった。
「手ぇ!! 手は出しちゃダメですよリヒト様ぁ〜」
「悪い悪い」
そこまで痛くはないだろうが、俺はながった箇所を少し撫でてやった。そした機嫌が良くなったのかミオンは静かになった。なんというか扱いやすいやつだな。「妹ってこんな感じ?」と思いながら俺はミオンを撫でていた。
「あ、あのさぁ!! 人が苦しんでる時に何イチャついてんだよぉ!!」
「ほんとさ。これだからロリコンは困るよ」
「あ、ああ」
俺は一瞬ヒヤリとした。こいつらには学習能力はないのか? と思ったからだ。だが幸いにもミオンは上機嫌の為耳に入ってこなかったらしい。
「もう終わったのか」
「お陰様でね!!」
どうやらビスは相当キレているようだ。
まあそれもそうだろう。誓約をするにはかなりの痛みが伴うからな。
「これであたし達はお前の言いなりさね」
「じゃあとっとと貴族様のとこに行くかぁ」
二人は起き上がり、土ボコリを払う。そして街の方へ向かった。
「ちょっと待って!!」
その二人を呼び止めたのはミオンだった。
「あなた達が今持ってるお金全部置いていきなさい!」
「はぁ!?」
「言ってること盗賊と変わらないさね。このお嬢さん」
この後、俺がこいつらに命令してアイテムボックスから全所持金を出させた。
後で数えたところ、ざっと金貨500枚程袋の中には入っていた。
「これならちょっとでかい民家が変えるぞ」
「急にお金持ちですね!! リヒト様!!」
まあ金が入るのは嬉しいが。これが全部盗品から得た金と考えると使いずらいな。




