第40話 ビスとウルと豚
「はっ! 俺たちを知らねえってよウル」
「なら教えてあげようじゃない。ねえビス」
このおっさん予備軍のような男がビスで、こっちの姉貴的なのがウルって名前か。なるほど、よし覚えた。
「な〜にボケっとしてるのさ。さっさと剣を抜きな!」
ウルという女が俺の腰にある剣を指さした。どうやらこの女はさっさと剣を抜いて欲しいらしい。よほど戦いが好きか、自分の力に自信があるらしい。まあこの剣で戦っても良いのだが。
「生憎、今日は魔法の実験日なんでな。この剣は使わない」
今日は俺の番とミオンと約束してしまったしな。明日になったらサポートしか出来なくなるし。何より対人で試せるなんて運がいい。
「何? そりゃあれか、俺たちを舐めてんのか」
そう言って男は指をゴキゴキとならし始めた。どうやら俺の態度が相当感に触ったらしい。
「ていうかあなた達は丸腰じゃないですか。そんな相手にリヒト様が本気を出すまでもないと思います」
「ふふ、言ってくれるじゃない」
ミオンの言う通りだ。俺が剣を使えばそこらの冒険者くらいどうってことは無いだろう。たとえ相手が凄腕の拳闘士だろうが関係ない。
するとウルはニヤリと不気味に笑い、ビスはにししと笑った。
「何もあたし達は丸腰じゃないさね。丸腰なのはそこの豚だけ」
「特別に見してやるよ。俺たちが持つアイテムボックスをな!!」
そう言ってビスという男は懐から、可愛らしい花柄のポーチを出した。どうやらそれがアイテムボックスらしい。
なんというかしょぼい。
「見た目はともあれは確かにアイテムボックスらしいな」
花柄のポーチのせいで躍動感は全くない。そもそも俺は普通にアイテムボックス持ってるから驚きもしない。
「そしてこれが、何人もの命を奪ってきたあたし達の剣さ!!」
ウルはビスが持つアイテムボックスに腕を突っ込み、二本の長い剣を取りだした。
剣は通常の剣より少し長いと言うだけの普通の剣だった。
「さあ俺たちは剣をとった」
「お前も剣を持つさね!」
二人は姿勢を低くし、俺に言い放った。どうやら戦闘態勢に入ったらしい。俺はそれを確認し、意識を集中させ、戦闘態勢に入る。
「『ブラック・ウィップ』」
俺は魔法を発動し、右手に黒い鞭を出現させた。これが俺の二つ目の魔法、黒い鞭だ。この鞭は炎で出来ている。だが燃えたりはしない。
実際にこの炎は燃えているが、俺の指示が無い限り物体を燃やさない。だが指示をすれば一瞬で燃やし尽くす。
なぜ俺がこんなにも使ったことの無い魔法に詳しいか。それはこの魔法を鑑定した時に事細かに鑑定されたからだ。多分調子がよかったのだろう。
「お前、ふざけてるのか?」
「そんな鞭一つで何ができるってのさ!」
二人は怒りをあらわに声を荒らげる。
まあ相手からしたら舐めてるようにしか見えないからな。
「後悔しても押せぇーぞ!!」
しびれを切らしたのか、ビスがその長い剣で俺に斬りかかってきた。どうやらその長いリーチが武器らしい。
「はっ!」
俺はビスの斬撃鞭を当てて受け流す。リーチならば剣よりも鞭脳が遥かに上。そしてこの鞭は魔力で出来ているため、魔力を込めれば伸縮自在なのだ。
それから何度か剣と鞭の打ち合いが続いた。俺が防御に徹していたおかげで、どうやらこいつらには俺とビスが互角に見えたらしい。
「小賢しいやつ。ちっウル!!」
「あいよ!!」
ビスの斬撃に加えてウルも加わり、かなりしんどくなってきた。横縦斜めと、防ぐので精一杯と言ったところだ。
攻撃こそ受けてはいないが、攻撃できる隙を付けない。慣れない武器に残り少ない魔力。そして二人の息の合った攻撃に加え、この微妙に長い剣。いい加減ウザったくなってきた。
「どうした、もうギブアップか!」
「そろそろ終わりにしよう。はぁ!!」
二人が大振りで同時に斬り掛かる直前、俺は二人の長い剣を鞭で斬った。半分となった剣はそのまま地面にぼとっと落ちる。
「はぁ?! なんで斬れるんだよ。相手は鞭だぞ」
「なんで鞭で……」
半分となった自分の剣に驚きを隠せない。
それそもそうだろう。鞭ではどう頑張っても剣は斬れない。
「折ったっていうか斬ったていうか」
確かに剣は斬られた用に見える。俺も斬る感覚でこの剣を半分にした。だが正確には剣を燃やしたか、溶かしたといったところだ。
またアイテムボックスから武器を取られると面倒だな。
「うっ!!」
「何しやがる!!」
俺は鞭を長く伸ばし、ロープのように使ってこいつらを拘束している。
「お見事です、リヒト様!」
「ありがとう。それにしても結構疲れたぞ」
慣れない武器とは扱いが難しいと再度理解させられたな。ちなみにミオンは戦闘が始まると直ぐに岩陰に隠れていた。邪魔しては悪いというミオンの配慮だろう。
「さてさて、こいつらどうするかな」
「八つ裂きにでもしますか?」
ミオン、たまに怖いこと言うんだよなこいつ。
だがそれも無くはないのだ。こいつらは俺の命を狙ってきたわけだし、殺されても文句は言えんだろ。
「あの豚は焼いても?」
「んーダメだろ。一応普通の冒険者だし。とりあえずこいつらはギルドにでも預けるか」
俺はこの二人に溝落ちをくらわせ、気絶させた。そしてこの二人とウロウを鞭で縛り、引きずりながら森を出ることにした。
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