第39話 豚は豚、壁は壁
ブクマありがとうございます。
「で、名前どうするんですか?」
「特になくていいだろ。ただの異能なんだし」
魔力を剣に纏わせられるのは、この剣の異能の力なのだ。特に名前は無いし、つけようとも思わない。
だがミオンはしつこく名前を決めさせようとする。このまま名前を決めないとずっと言ってくるだろう。
「『異能解放』でいいだろ」
「えぇーー。リヒト様センス無さすぎです。ぶーぶー」
そう言ってミオンは顔をふくらませている。
そんなにも自分の案が断られたのが癪だったのだろうか。
すると後ろの草陰からいくつかの気配を感じた。
つけられるている? 俺がそう感じるとみおんがすぐさま反応した。
「ん、誰ですか!!」
ミオンが声を上げると、その気配は逃げること無く姿を現した。
「ん、バレちったか」
「あんたがボサボサしてるからだよ」
「あん? 俺のせいってのか!?」
草陰から姿を表したのは冒険者風の格好をした三人の男女だ。それも人とも見覚えのある顔だ。ていうか本当につい最近見たな。
「こそこそと、なんで俺達をつけるような真似をした!!」
「おおっと、そうカリカリすんなよゴブリンルーキー」
俺を宥めようとする仕草を見せたこの男。茶髪でやる気のなさそうな、だらしない顔つきの男。この間、ギルドの酒場で俺に絡んできた酔っぱらいの冒険者だ。
「あなた達……私たちに何か用ですか!!」
「まあ用っていうか、依頼を受けてね。それも貴族様直々の依頼さ」
ミオンの言葉に答えたのは、あの男同様酒場にいたあの男勝りな女だ。背が高く、長い黒髪にスタイルのいい体。
貴族からの依頼。ちょっと嫌な予感――いや、確実にそうだろう。
「俺の父親か……」
滅茶苦茶俺を嫌ってるからな。
俺が息子ってのを世間にバレるのを恐れ、殺害を依頼したってところだろう。実の息子を。
まあ色々目立っていたからな。ゴブリンルーキーとか言われて。
「依頼を受けた時は驚いたさね。まさかゴブリンルーキーがあのダメ貴族の息子だなんてね」
やはりあの父親はダメなのだろう。きっと街中の人が使えないとか思っているのだろう。事実だしな。
「あたし達は意外と名の知れた冒険者なのよ? ねえウロウ?」
ウロウ? どこかで聞いたことがあるような、ないような、なかったような……。
「なぁにきょとんとした顔してんだおい!! 忘れたとは言わせねぇぜ」
その巨漢の男は顔を真っ赤に染め、怒りに充ちたような顔をしていた。
「あ〜ミオン負かされた豚さんか。お前本当に強いのか?」
この間、酒場でミオンにビビって逃げ出した男である。ミオン曰く『豚』である。
「そうだ……そうなんだよぉっ!!」
豚――ウロウは突然叫び出した。
どうやら溜まりに溜まった怒りが爆発したのだ。
「この俺様が……この俺様があんな『絶壁娘』なんかに負けるわけねぇだろ!! てめぇのせいでこっちは笑いものにされてんだよ!!」
相変わらずのひどい言い様だ。
だが今はそれどころではない。このウロウとかいう男は、この短期間で相当怒りが溜まっているらしい。だが――
「――おい豚」
「んあ!?」
ミオンのドスの効いた声でウロウの名を呼ぶ。すると、仲間の二人は驚いた表顔を見せた。それもそうだろう。ミオンは小柄でパッと見大人しい感じの年頃女の子だ。そんな女の子があんな怖い声をだすとは思いもしないだろう。
そして、どうやらこのウロウという男はミオンを怒らせるのが得意らしい。
「『絶壁娘』とは私……か?」
「おめぇ以外に誰がいんだよ!! このぜっ――」
「『バースト・フレイム』」
『絶壁娘』とウロウが言おうとした直後、ミオンが魔法を放ちそれを阻止した。
赤い炎の塊のようなものが勢いよくウロウの腹に放ち、巨漢のウロウを押し倒した。
ミオンが新しく取得した『詠唱短縮』スキルのおかげだ。これなら素早く相手を殲滅できるからな。だが詠唱を短縮すればするほど威力は落ちるらしい。故にウロウはそれほどダメージをおってない。
「いてて……小賢しいまねしやがって。だが対したことねぇな。この鉄壁のウロウ様にかかれば……ん、なんだこりゃ」
炎をくらった腹を手ではらいながら立ち上がるウロウ。その時、自分の目の前にある『炎弾』に気がついたようだ。
「ちょっとま――」
「『爆ぜろ』!!」
ミオンはウロウの静止の声に聞く耳を持たず、その『炎弾』を破裂させた。
炎は「パァーンッ!!」と大きな音を立てながら破裂し、ウロウを襲った。
「ぐはっ……」
ウロウは少し吹っ飛ばされ、横になって倒れている。全身が少し焦げていて、来ていた服は破けていた。そして当の本人は気絶している。
「ふぅ。どうですリヒト様? 私結構強くなりましたよね?」
「ああ。これからもよろしくな」
「えへへ〜、はーい!」
俺はぴょんと近寄ってきたみおんの頭を撫で素直に褒める。ミオンもかなり成長しているらしい。あれでかなり手加減しているのだから恐ろしい。
「で、どうする。まだやるのか?」
「はっとうぜんだろ。こっからが本番だっつうの!」
「ウロウは噛ませ犬ってわけさね。ていうか元々ウロウは酒場で知り合っただけだし」
なるほど。つまり依頼を受けたのはこの二人で、ウロウはミオンへの恨みを晴らすために協力したと。
「ならお前らは何者だ? 冒険者は人殺しもやるのか?」
当然、あの依頼ボードには人殺しの依頼は無かった。
するとこいつらはただの冒険者では無い。
「俺達は泣く子も黙る『ブレイドキッド』よ!」
「そこいらの盗賊団と一緒と考えていると怪我じゃ済まないさね!」
息ぴったりの二人、どうやら決めゼリフらしい。
だが、そんな二人に非常に申し訳ないない。
「いや知らんが。なんだその変な名前」
盗賊団やらなんやらと言っていたが。全く持ってピンと来なかったのだ。




