第35話 壁に火あり
「えーっと、エールと角兎の燻製セットを2つ。あとは――」
「――でか乳のひき肉を一人分」
「ひっ!!」
俺があと女性に注文していると横からミオンが物騒なことを言い出した。どうやらミオンはこの女性のことを気に入らないらしい。特に胸が。
「あ、あとオークのステーキを二人分お願いします!」
「か、かしこましました。で、ではすぐに!!」
どうやらだいぶ脅えてしまったらしい。
女性は慌てて厨房にかけていった。
ミオンはと言うと「ぐるる」とあの女性を威嚇するような態度をとっていた。
「なーミオン。少しは落ち着いたらどうだ?」
「落ち着いてます。落ち着いてあのデカ乳をどう料理してやろうか考えてます」
「いや、それダメだろ。色々と」
そこら辺のおっさんがミオンと同じことを呟いたら真っ先に牢屋行きだろう。
俺はため息をつきながら辺りを見回した。
すると何やら俺達に視線が集まってるような――
「おいおめーら。俺のシルフちゃんになんて真似してくれるんだ、あぁん?!」
「うっ!」
男からは大量の酒とタバコの匂いがした。
俺は思わず鼻を手でおおってしまった。
どうやら男は先程のミオンの態度が気に食わなかったらしい。
「なあ聞いてんのかおい!!」
「ああ……」
俺に難癖つけてくるのはこの小太りした男だけ。周りの客は様子を伺っていようだ。なぜこの男だけなのだろうか。
見るとこの男腰には剣がついている。体格もかなりいい。多分冒険者だろう。ほかの客はひ弱そうな冒険者か一般人くらいだ。
「えーっとちなみに貴方とそのシルフさんはどのような関係で?」
「なんでわざわざてめぇなんかに言わにゃ行けねんだよ!!」
そう言って男は俺の胸ぐらをつかみ、俺を壁に向かって放り投げた。
大きな音と共に俺の体は壁と衝突した。
俺はいきなりのことで驚き対応ができなかった。あと腹が減りすぎてそんな気力はなかった。
「いってて……いきなり何するんだ」
「俺のシルフちゃんに手を出した報いだ、っひく」
背中がじんじんする。壁にぶつかったからだろう。
いい加減腹が立ってきたな。ちょっとばかし懲らしめてやろうか。
俺がそう考えた時、男の横から冷たい声がした。
無論ミオンである。あのいつも穏やかで元気いっぱいのミオン。冷たいとは真逆の存在であるミオンだ。
「黙れ、豚が」
「あん? 今なんて言ったてめぇ。ガキみたいな胸しやがって」
一瞬、空気が凄く冷たくなった気がした。
ミオンから強烈な殺気を感じたからだ。
「豚焼きになりたくなかったら……うせろ!!」
「ひぃっ!!」
ミオンは火球を片手に冷たい言葉を放った。
男は情けない声を上げた。そして男は早々にこの酒場から逃げ出した。
「ミオン……おま――」
「「「「うおぉーー!!」」」」
俺がミオンに声をかけようとしたら酒場中から歓声が湧き上がった。
「嘘だろ、あの嬢ちゃんがウロウのやつを負かしやがった」
「やべぇ、まじかっけぇ!!」
「ちょっとやばいかも」
歓声の嵐。俺には理解ができなかった。
店の人に聞くと、あのウロウとかいう男はシルフさんや他の客に色々とちょっかいをだしていたらしい。
みんな不満があったがウロウという男はかなり腕のいい冒険者らしく、誰も注意できずに困っていたらしい。
つまりこの酒場においてミオンは救世主のよあな存在になったのだ。
この大騒ぎは約一時間にも亘り続いた。
俺達はこの騒動を抜け出すべく、急いで宿に戻った。そして今、食べ損ねた昼食兼晩飯を食べている真っ最中だ。
「いや〜気がついたら周りの客が歓声を上げてたから何事かと思いましたよ」
「ミオン……あのなー」
「まあ終わったことですし、いいじゃないですか」
俺はため息をつきながらオークの肉を頬張る。
塩の味付けオンリーだが、かなりいけるなこの肉。
俺は腹を満たしながらミオンに聞いた。
「そういえばミオンって『念晶短縮』みたいなスキル持ってたか?」
あの時瞬時に発動したファイアボール。念晶が全く聞こえなかった。どう考えても短縮系のスキルがあるに違いない、俺はそう考えていた。
ミオンは食べようとしていたオークのステーキを皿に置き、「しょうがないですね〜」と言いながら説明した。
「あの『プルーネ』とかいう魔族を倒した時沢山経験値が貰えたんですよ。で、『詠唱短縮』っていうスキルを覚えていました!」
「詠唱? 念晶じゃなかったのか?」
確か前にミオンは念晶と言っていた。
念晶と詠唱では何か違うのだろうか。
ミオンは首を斜めにしながら答えた。
「んーよくは分からないんですけど、念晶は念じる。詠唱は唱える的な感覚です。どっちでも大丈夫なんですよ」
なんというかミオンらしい回答だったな。
まあミオンがそう言うなら大丈夫なのだろう。
「そういえばリヒト様は何か新しい魔法とか覚えてなかったんですか」
「俺か? 俺は――」
俺はまだステータスを確認していなかった。
というか、レベルが上がったのですらいまさっき知ったばかりだ。
「――まだ確認してなかったな。『ステータス』」
俺がステータスと、唱えるとすぐさま半透明なプレートが現れた。
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リヒト Lv29
職業 魔剣士 Lv3
HP 102
攻撃 150
耐久 72
魔力 131
敏捷 153
スキル
魔神化 Lv1
鑑定 Lv2
異空間収納 Lv2
身体強化魔法 Lv3
黒炎魔法 Lv1
恐怖耐性 Lv3
称号
憤怒の罪
武神の弟子
早熟
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「は?」
目の前で起きた衝撃的な出来事に対し、俺は驚嘆することしかできなかった。
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