第30話 弱き者
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彼女は自分の名をプルーネといった。よくわからない単語がごちゃごちゃついていたが、ひとまず置いておこう。考えるだけ無駄だ。
「で、プルーネさんとやら。俺達になんの用で?」
「勿論殺すためヨ。フフッ」
プルーネは俺達を舐めまわすように見ている。今まであったやつの中で一番気持ち悪い。
しかも前よりも殺気が増してるし。ミオンは大丈夫だろうか。
《恐怖耐性を獲得しました》
え? ちょっと、何それ。今それどころじゃないんだけど。ステータス見たら殺されるし。
俺の頭の中で、レベルアップと同じ声がそう告げた。
どうやらミオンにも同じ現象が起こったらしい。俺と同じ反応をしている。
だが今はそれどころではない。目の前に敵がいるのだから。
「じゃあそろそろ始めましょうッカ!」
プルーネはそう言うと、大地をその強靭な足で蹴り飛ばし、俺との距離を一気に縮めた。
これが魔王軍とやらの力ってやつか。正直もう帰りたい。
そしてプルーネはその鋭利な爪で俺に攻撃を仕掛ける。俺はそれをすんでのところで剣で受け止めた。火花が散るほどの威力。少しでも気を抜いたら剣が折れてしまうだろう。
「いきなりすぎんだろうっが!!」
「おっト」
俺はプルーネの爪を受け止めながら蹴り飛ばそうとする。だが、プルーネは後ろにさがり俺の攻撃を回避する。やはり、プルーネの方がステータスもレベルも上なのだろう。沢山人やモンスターを殺してレベルを上げているのだろう。
「だからどうした。そんなの関係ない。元々ステータスなんてもんは無かったんだからな」
「イイわネ、イイわヨ〜。そそるワ〜」
多分、こいつと普通にやっても負けるだろう。身体能力が違いすぎるのだから。何か打開策は無いか。
ミオンと連携? いや、それでもこの差は縮まらない。さっきの移動速度を見る限り、逃亡も不可能だろう。残された手は一つ。一か八かの『身体強化魔法』しかないだろう。
俺は意識を集中させる。感覚としては他のスキルを使うのと一緒だろう。
初めての魔法が、まさかこんな強敵に使うとはな。頼む上手くいってくれ!
俺は縋るような思いで魔法を発動する。
「『身体強化魔法』」
なんとなくだか分かる。自分を覆ってる魔力が。自分の力が。自分の体の内側から溢れ出てくる力。それの力が俺を纏っている。
これは成功と言っていいだろう。この溢れんばかりの力。
俺は修羅ノ型を扱える程までに強化されていた。そして眼前のプルーネを倒すべく、俺は全力で技をぶつける。
「『フォルテート流 修羅ノ型 一線』」
俺は駈ける。大地を蹴り飛ばし、意識を一振りに集中させる。プルーネのもとに、一直線に。先程のプルーネの何倍もの速度で。そして剣を振る。
俺の剣がプルーネの首に差し掛かった直後、その刃はプルーネの首を捉えなかった。避けられてしまったのだ。
異常なまでの反射速度。もはや人間では無い。こいつは野生動物だ。それがこいつの本能なのだろう。恐ろしいまでに死への嗅覚が鋭い。
「危なかったワ。もうちょっとで首を持ってかれそうになったじゃない。残念、でも私の腕を斬った事は褒めてあげるワ」
俺の剣はプルーネの首ではなく腕を切ったのだ。
だが修羅ノ型なら通用する。それが分かっただけでもでかい。だが。
「くっ……そ」
どうやらプルーネに一撃を貰ったらしい。俺の腹からは赤い液体がドロドロと流れ出している。俺は反射的にそこを抑える。
俺がプルーネの腕を斬り落とした時、やつの爪が伸びたのだ。黒く、ドロドロとしたものを纏って。
「あらあら、痛そうネ。私の『ダーククロウ』は中々の切れ味でしョ?」
「それが……お前の魔法か」
「そうヨ。いいでしョ? これで貴方を楽にしてあげるワ」
やばい。本格的に意識が遠のいて行く。せめてミオンだけでも逃がしてやらないと。
もう二度と仲間を失うわけにはいかない。たとえ俺が死のうとも。……もう二度と味わいたくない。
この瞬間、俺は暗闇の中である出来事を思い出していた。弱かったあの頃。強くなろうと足掻いた自分。だけどね弱かった自分。守れなかった自分。
悔いても悔やみきれない数々の出来後。それ等は俺の心に穴を開けた。そして俺は自分を責めた。何度も、何度も。今もそうだ。何も出来やしない。何も守れやしない。俺はただのクズ野郎だ。
意識が遠のく中、俺の耳にはある声が聞こえた。ミオンの声だ。だが、ミオンの声には絶望の感情はなかった。まだミオンは諦めていない。
そして聞き覚えのない念唱が俺の耳に届いた。




