第25話 ミオンは中々優秀です
遅れてしまって申し訳ありません
デルミオーカス家が領主を務める領地の名を『クエルバーム』という。このクエルバームはそこまで大きな街では無く、裕福でもない。領主が無能なためかこの街を後にする人々が絶えない。
そんな街にもちゃんと人がいて、店があって、家がある。その中にはもちろん冒険者ギルドも含まれている。冒険者ギルドというのは前世のものとほぼ変わらず、魔物等の討伐から護衛まで様々な仕事を受けられるのが冒険者だ。俺達は今その冒険者ギルドの目の前に来ている。
「なんというか、ボロいな」
ボロい。その言葉しか出てこないほどボロかったのだ。この冒険者ギルドは木出できており、剣と杖が重なった看板が付けられている。外装はボロボロで、穴が空いてたり、壁がめくれてたりなど酷かった。
一応人が住めるくらいには保たれてるが、いつ崩れてもおかしくはないだろう。これもあの無能な領主が高い税を押し付けているせいだろう。可哀想に。
まあでも一応冒険者ギルドだ。依頼はいくらでもあるだろうし、何より俺達はまだ冒険者登録もしてないしな。
俺達がギルドのドアを開くとドアは、バタンッと音を立て地面に落ちた。ボロすぎてドアが外れてしまったのだ。これには流石のミオンも呆れたらしく、ため息までついている。
中の連中はと言うと、一瞬こっちを見てきたが直ぐに目線を切った。いつも通りって事なんだろう。ハゲにデブにおっさん。なんか昔を思い出すな。
「冒険者登録をしに来ました」
「ではこちらに個人情報のご記入をお願い致します。冒険者についてご説明は必要ですか?」
「いや要らない」
俺達は受付に行き冒険者登録用の用紙を受け取る。
個人情報と言っても名前と天職を書くだけらしい。割と簡単なんだな。
俺が用紙に記入しようとした時、俺の手は止まった。ミオンに掴まれたのだ。
「ベルノエット様。ここで本名を使うのはまずいかと」
「あ、そういうこと」
俺が本名を使うことで起こるまずいこと。それはデルミオーカス家から何らかの手が加わること。殺し屋とか。
あの父親は背が低い癖にプライドはかなり高い。白髪が自分の子供だとバレたくないはず。そんなに父親は俺を消すしかないはず。
そうなると偽名が必要になるよな。さすがに今の俺じゃ殺し屋を制圧できないし。ま、仕方ないか。
「はい、お承りました。えーミオン様にリヒト様ですね。少々お待ちください」
そう言って受付担当の人は裏へと消えていった。
俺達の書類を作るのだろう。
俺が椅子に座るとミオンが俺に尋ねてきた。
「どうしてリヒトなんて名前にしたんですか?」
「んーまあ色々?」
「もー誤魔化さないでくださいよ!」
別に誤魔化しているわけじゃないんだがな。
リヒトってのは昔読んでた絵本の中だけの人間。確かリヒトは天使の1人で、リヒトは人間になりたくて自分の羽を引きちぎり人間の世界に降りた。そこで幸せに暮らした、って話だったと思う。俺は昔からその絵本が好きで母さんに何回も読んでもらっていた。
偽名を決める時、なんて言ったらいいかわかんないけど頭に過ったんだ。その絵本の物語が。
そして、しばらくして受付の人が戻ってきた。
「こちらがお二人の冒険者カードになります。身分証明書になりますのでくれぐれも無くさないようにお願いします」
俺達は冒険者カードを受け取ると、真っ先に依頼書が貼ってある看板に向かった。兎にも角にも金を稼がなくてはいけない。そのためには依頼を受けなくてはならないのだ。
「にしてもあんまりいいのがありませんね」
「まあ最低ランクのFだしな。常設依頼のゴブリン討伐でもいいだろう」
冒険者のランクは最低のFから最高のSランクまである。まあ前世とほぼ変わらないな。で、常設依頼ってのはギルドが常備出してる依頼のこと。これらの事を俺はミオンに説明した。どうやらミオンは冒険者の知識がほとんどなかったらしい。これなら受付の説明を聞いとくんだったな。
「こちらをお願いします」
俺は依頼書を剥がし、受付に持っていった。
受付はしばらくの間俺達をジロジロと見ていた。
そこまで変ではないだろ、俺達の格好。てかちょっと恥ずかしいんだが。
「まあいいでしょう。ですがくれぐれも気をつけてくださいよ? ゴブリン退治で命を落とす新人は少なくないんですから」
どうやらこの受付は俺達のことを心配してくれていたらしい。この世界のゴブリンがどの程度のものなのか知らない。だが負けやしないだろう。前世より早く動けなくとも、それを補える技術は兼ね備えてるつもりだからな。
俺達は受付に礼をし、ゴブリン退治に向かった。場所はすぐ近くの森で、馬車で1時間程度らしい。
俺は馬車の中で自分のステータスを見返していた。どうやって戦うか考えていたのだ。だが考えがまとまる前に目的地に着いてしまった。だからとりあえずは前世と同じ戦い方で行こうと思う。
「そう言えばミオンの天職って何なんだ?」
すっかり聞くのを忘れていた。
戦う前に気がつけたのは不幸中の幸いだろう。
「私ですか? 私は魔道士です。あれ、言ってませんでしたっけ?」
「ああ聞くのを忘れていた。それにしても魔道士か、中々いい天職だな」
俺がそう言うとミオンは嬉しそうににやけている。
魔道士というのは魔法が使える。そして魔道士は魔術師と対になる天職と言われている。魔道士は念唱を必要とし、魔術師は魔方陣や術式を必要とする。俺って勤勉だったんだな。
「じゃあ俺が前衛でミオンが後衛。これでいいよな?」
「はい、もちろんです!」
俺はずっと1人で戦っていたから連携等上手くできる自信が無い。でも2人だけなら何とかなるだろう。
それにしても魔法か、やっぱ羨ましいな。俺のステータスにも魔力の数値はあるし、いずれ使えるようになるのだろうか。こう、炎とかドカーンと使ってみたいもんだな。
それから俺達はしばらく歩いた。10分ほど歩いただろうか。俺たちの目の前にゴブリンが現れた。この世界に来て初めて魔物を見たが向こうの世界と殆ど変わらないな。肌の色が緑で子供のような体型、まさにゴブリンだな。やっぱ神が一緒だからか?
「相手は1匹だ。落ち着いてゆっくりと――」
「炎よ 我の魔力を喰らいて 敵を貫け!!『 フレイムランス』」
ミオンは俺の言葉を無視し、半ば暴走気味に魔法を放つ。ミオンは炎の槍を作り、ゴブリンを貫く。ゴブリンの胴体には綺麗に穴があき、そこからみるみると炎が燃え、ゴブリンを燃やし尽くした。
「ミーオーンー?」
「えーと、ほら! 見てくださいベルっ……リヒト様、ドロップ品ですよ」
ミオンが必死に話をそらそうとする。が、ドロップ品は大事なのでひとまず回収しなくては。
この世界では魔物を倒すと、その魔物は光の粒子となって消えてしまう。そして倒した魔物から魔石などといった素材がドロップする事があるらしい。それがドロップ品。
「ゴブリンの魔石ですね。ちょっと待ってくださいね、素材用のポーチにしまいますから」
「いや、ちょっと待て。少し試したい事がある」
試したい事、それは異空間収納だ。
こういう時に使う物だし、使わない手はないだろう。
んー使い方がイマイチ分からないけど、とりあえず念じとけば何とかなるだろ。
「『収納』」
「あ、消えた」
ミオンの言う通り、ゴブリンの魔石は消えてしまった。本当に消えては困るので俺は異空間収納から魔石を出す。魔石はちゃんと出たので俺は安心して異空間収納のしまうことにした。
後で知ったのだがこの異空間収納、ステータスから収納リストが見れる仕様になっているのだ。ほんと有能スキルだよなこれ。
「よし、この調子でどんどん狩るぞ」
「おぉーー!!」
「お前は少し連携ってのを覚えような」
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