第17話 再会
俺の目の前に突然姿を現したこの男。何度も見た事のあるこの顔。憎くてたまらない、全ての元凶たるこの男。
「ッ·····カイロ!!」
間違いなくこいつはカイロだ。灰色の髪と瞳、整った顔立ち。忘れるわけがない。
「久しぶりだねライト。とりあえず、その剣から手をはなそうか」
ライトはその男をカイロと認識すると無意識に剣を構える準備をしていたのだ。ライトは冷静になり、一旦剣から手を離す。ここは冒険者ギルドだ。邪魔が入るのは面倒だとライトは考えたのだ。
「ここじゃなんだし場所を変えましょうか」
するとカイロの仲間の女がそういった。
女は全身を黒で染め、帽子を深く被っている。どう見ても怪しいが今はそれどころではない。
「悪いが邪魔しないでくれ。もし、邪魔をするならお前らも殺すぞ?」
ライトが威圧的にそう言うと、カイロの仲間の2人が怯んだ。どうやら2人は魔法使いのようだ。服装が物語っている。
だがカイロとその女は怯みはしなく、むしろ怯むどころか俄然やる気がましたような感じだ。
「ふふ、以前とは随分と変わったみたいね」
「以前? 俺はお前みたいなやつは知らないが·····」
そうライトが女に言った途端、ライトの視界は一瞬にして変わる。ライト達は確かに冒険者ギルドにいた。だが一瞬にしてライト達は平原へと移動した。そう、ライト達は転移したのだ。
「なっ!」
「思い出してくれたかしら?」
これは·····転移魔法だよな? てことはこいつが·····こいつがあの陰湿魔法使いってことか? でもなんでそんな奴がカイロといやがる。どうしてこうも状況が何度も一変しやがる。カイロの次はこの陰湿魔法使い、ファレス達の仇。
「お前が·····お前がファレス達を転移させたのか?」
「んーとファレスってあの弱虫冒険者達のことよね。確かにそうよ」
あっさりと、その事を女は告げる。ライトにとっては大切な事でも、この女からしたらどうでもいいことなのだろう。この女の興味無さが顔に出ている。
「なんでそんな事を·····別にファレス達じゃなくても良かっただろ!」
「んーまあ実験? ダンジョン内の人間を転移できるかのね。私の目的はね、貴方の腰にあるその剣なのよ」
女の話を要約するとこうだ。女の目的は俺の剣を手に入れる事。そのためにわざわざファレス達をライトの元へ転移させ、仲が深まったところであの兎を転移させてファレス達を殺させる。そしてライトに憤怒を発現させ、その憤怒の剣とやらを手に入れさせるために。つまりライトは今までこの女の筋書き通りに動いてしまっていたのだ。
「んね、分かったでしょ?」
「んな事関係ねえだろ! 憤怒だのよく分からない事のためにだけにファレス達を殺したってのか!?」
「そうよ。全てはその剣のためだもの」
*
ライトはもういい、といった表情で剣を握る。呆れ、怒り、哀れみ、これらの言葉では表しきれない感情がライトの心に浮かび上がる。
女はライトのその態度に喜びの表情を浮かべている。どうやらライトの剣を間近で見るのが楽しみだったのだろう。
「おいおい、俺を置いていくなよ。ちょっと寂しいじゃな――」
「『フォルテート流 修羅ノ型 一閃』」
カイロが口を開いた瞬間、ライトは一瞬にして剣を抜き技を放つ。
刹那の出来事。ライトはまるで光のような速さで動き、瞬く間に女の首に斬撃を喰らわす。女の首はあっさりと斬れ、大地に落ちる。
「ベクトハスタ様!!」
銀髪の魔法使いの少女がその女の名を口にする。どうやら本当に死んでくれたらしい。その証拠に金髪の魔法使いの少女が、何度も治癒魔法をかけているが治る気配がない。
「ファレス、ガイスト、クリル·····お前らの仇はとってやったからな」
まずは1人目、と言わんばかりにライトは女、ベクトハスタの屍を見下ろしている。近くにいるこの2人の少女も殺してやろうか。そう考えていたライトだが、やはり関係無い人間を殺すのは気が引けたのか放っておく事にしたのだ。
「次はお前だぞ·····カイロ」
「おお、怖くなったもんだねライト」
「にしても仲間が死んでも平然としてられるとはな」
ライトはファレス達が死んだ時、あっさりと受け入れることが出来なかった。だがこいつは何ともないような顔をしている。
「んーまあ悲しいけど、ベクトハスタとはこの間偶然酒場で知り合っただけだしね。なんかライトの事を知ってるぽかったからちょっと一緒に冒険しに行ってただけだよ。まあもう転移魔法で移動出来ないのはちょっと残念だけど」
カイロにとってはどうでもいい人間なのだ、きっとこの2人の少女も同じなのだろう、とライトは考えた。
そしてライトはこの10年間、ずっと気になっていた事をカイロに尋ねる。
「·····フライデはどうしたんだ」
少し詰まったがハッキリと、ライトはそう聞いた。するとカイロは素直にその質問に答える。
「ああ、あの子なら死んだよ」
「――は?」
死んだ。カイロはそうハッキリと伝える。
死んだ? 死んだってなんだ……もう会えないのか。また一緒に話す事さえ許されないって言うのか。俺は何回失えばいいんだ。誰か、教えてくれ……。
「まだ俺達が駆け出しの頃、魔物の群れに襲われてその時に。まあ俺にも落ち度があったけど、仕方ないだろ? 自分の命を優先させるのは普通だ。ただ運が悪かっただけだよ。恨むなら神を恨んでくれよ」
「何……言っているんだ」
「まあ悪いのは神様って事だよ」
こいつは何を言ってるんだ。神? そんな者いるはずがない。もし神が運命を決めるのなら、俺は何故こんな目にあっているんだ。もし神のせいだって言うなら俺は神だろうが何だろうが殺してやろう。――だが。
「悪いのは、お前だろうが!!」
ライトは怒りの篭もった斬撃を10メートル程離れたカイロに向けて飛ばす。だがカイロはそれを軽くかわしてしまう。滑らかに、そして鮮やかに。その動きは洗礼されており、カイロの力量を測るのには十分な程に。
「まったく、ライトは昔っからせっかちだよな」
「黙れ! もうその口を開くな!!」
「酷いな〜。まあ殺るならさっさとやろうか」
カイロがそう言って剣を抜く。カイロの剣はライトの剣とは真逆と言っていい程の色合いだ。純白の白をベースに色とりどりの装飾がこなされている。
「綺麗だろ、そしてこの技も見てくれよ」
カイロは剣を構え、殺気を一気に放つ。多分カイロは、ライトが今まで出会った者の中で1番のプレッシャーを放っているだろう。それだけの修羅場をくぐってきたという事だろう。
「『カシナキ流 蛇ノ型 蛇狼一線』」
カイロはライトに向けて技を放つ。その技は蛇のように滑らかに動き、狼のように鋭い一撃。だがライトは、剣を片手で持ちその攻撃を意図も簡単に受け止める。
「ふざけるのも大概にしろ!!」
ライトはそういい、カイロを突き放す。
カイロは確かに強いと言えるだろう。だがこの10年間、死に物狂いで強くなろうとしたライトには敵うはずもない。カイロとライトでは賭けているものがちがうのだ。
「う、嘘だ……お、俺の技が通じないなんて」
「確か10年早い、だったか? で、どうだ? その10年経ったやつに見下される気持ちは?」
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