第16話 最強の称号
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俺は気絶してしまったらしい。目が覚めるとそこは気絶する前の場所とは違った。出口もちゃんとある。多分10階層だな。俺はまだ頭が痛く、まだ何があったのか思い出せない。だが確かに覚えている事がある。
俺はまた失ったのだ。守れなかっ た、また自分の弱さを痛感した。
「あいつが悪いのか·····」
そうアイツだ。ファレス達を転移させ、ディメンションラビットを俺達の所へ転移させたと思われるあの魔法使い。裏でコソコソしやがる陰湿野郎を見つけ出して殺さなくては。仇を討たなくては。そのようないくつもの感情が俺の頭を過る。
「母さん、もうちょっと待っててくれ」
先に殺すのはあのどこのどいつか分からないし陰湿魔法使いだ。カイロは後回しでもいいだろう。どうせすぐに見つけられるしな。それよりも今はこの剣だな。
ライトは自分の近くに転がっていた剣を手に取る。ライトがその剣を鞘から抜くと、黒く長い諸刃の剣身が姿を現わした。それは何処か禍々しい雰囲気を漂わせていた。ちなみにライトは、最初に触った時に頭に流れたあの声の事はすっかり忘れているようだ。
「誰かの落し物·····って訳じゃなさそうだ」
まあちょうどいいか。俺の剣もそろそろダメになってきていたところだ。斬れ味も悪くなさそうだ。それにどうやらここはボス部屋みたいだな。壁や天井が光ってやがる。でもおかしい。どこを見てもボスの姿が見えない。身を隠す魔法を使うボスは聞いたことがないし。
ライトがそう考えていた直後、壁の中からミノタウロスが姿を表す。ダンジョンのボスは倒されると復活する。今のように壁から姿を表すのだ。
「ウォ?」
「·····ミノタウロスか。てことはここは10階層か」
10階層のボス、ミノタウロスならこの剣の力を試すのに丁度いいだろう。にしても復活するのが早いような気がするのは気のせいか?
ライトの直感は気のせいではない。ライトは知らないのだが、転移魔法とは別の場所に転移させるのには時間がかかり、転移するまでは別の空間に保管されるのだ。それなので今回のように多少のタイムラグが生まれてしまう。
*
ライトは少し考えたがすぐに辞めた。戦闘態勢に入ったライトは剣に力を伝え、息を吐き、呼吸を整え、相手を睨みつけると一気に技を放った。
「『フォルテート流 修羅ノ型 雲斬り』」
ライトの空間を割く斬撃がミノタウロス目掛けて放たれる。その勢いは凄まじく、ミノタウロスの胴体が豆腐のようにあっさりと両断されてしまった。斬撃の勢いは弱まること無く壁に直撃し、大きな跡を残す。ライトもさすがにここまでの威力が出るとは思ってもおらず、驚きの顔を浮かべている。ライトは自分の持っている剣がどれ程の物なのか理解させられたようだ。これなら勝てる。あの陰湿魔法使いやカイロにだって勝てる。ライトはそう確信した。
それからライトはダンジョンを後にした。久々の太陽の光はライトには眩しかったようだ。目を細めながらもライトは道を進み、また旅に出る。今回の旅は強くなる為だけではなく、情報収集も兼ねているのだ。時には冒険者を訪ね、時には他種族を訪ね、時にはダンジョンに潜り、ライトは色んな場所を訪れた。その旅の中、ライトは何度か他の冒険者と協同で依頼を行ったが、ファレス達のように思える仲間とは出会えなかった。それもそうだろう。ライトの傷は深いのだ。まったく癒えてない傷にまた傷を付けられたのだ。そう簡単に癒える訳が無い。
またライトの新たな剣は凄まじく、すぐにライトの手に馴染んでいった。その剣は岩を斬り、滝を斬り、嵐を斬り、竜の鱗さえも軽く斬ってしまった。ライトはそれでも満足せず、さらなる強さを求めて進んだ。全ては復讐のために。
それからライトは何年も旅を続け強くなった。旅と言うよりは修行だ。
魔物を狩り、人を斬り、強さを求めた末にライトはSランク冒険者となった。冒険者のランクは上から、S.A.B.C.D.E.Fとなっている。つまりライトは最強の称号を手にしたのだ。ライトが最強の称号を手にしたのはあの悪夢から10年が経った頃だ。だがライトはこれまで1度もカイロやあの陰湿魔法使いに会っていない。情報が全く入って来ないのだ。どれだけ探しても髪の毛1本出てきやしない。
それなのに。今ライトの目の前にいる男。憎くてたまらないあの男が今まさにライトの目の前にいるのだ。その男は突然姿を表したのだ。仲間らしき者達を引き連れて。まるで転移魔法を使ったかのように。
「やあライト。久しぶりだね」
男は不敵に笑い、ライトの名を口にする。