第15話 聖域と呼べる場所
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そこは全てが白でできた空間。汚れ1つ無く、どこか神々しい程に。そこには1つの巨大な水晶と、2人の人影があるのみだ。1人は40代程の男。もう1人は10代半ばの少女。そして2人の目の前の巨大な水晶に映るのは1人の青年。
「しっかし、まさかダンジョンボスを倒しちまうとはな」
「ほんとびっくりよ!! まったく·····」
「にしてもよ、ほんとに良かったのか? あんなもんあの坊主に渡して――」
「しょーがないでしょ!! あの子に憤怒の可能性が出ちゃったんだから!! それに中途半端に手を出した貴方が悪いのよ!!」
少女は男に対して不満をぶつけ怒鳴り散らす。
この少女の名はクレイシス。絶対の神にしてこの世を見守る女神なのだ。そして、そのクレイシスと話しているのが武神ベイストス。又の名をベイト。ライトに戦い方を教えた張本人だ。この2人は同等の存在のはずだがどこかクレイシスの方が上の感じが漂っている。多分2人の性格のせいなのだろう。
この2人が言い争っているのには当然理由がある。それはライトがダンジョンを攻略してしまった事だ。ダンジョンとは神の創造物で、人間には決して攻略出来ない様になっているのだ。だがそれを武神の弟子、ライトが攻略をしてしまったのだ。それも罪を抱えて。
「まああの子の事は仕方ないとして、問題はあの魔法使いの方よ」
クレイシスの言う魔法使いというのは、ファレス達やディメンションラビットを転移させた魔法使いの事だ。ディメンションラビットは普通なら20階層から出現する魔物。10階層に出現するはずがないのだ。どうやらライトの予想は当たっていたようなのだ。
「一体どこであんな力を手に入れたのか」
「ていうかクレイシスの嬢ちゃんよ〜、転移魔法って他の魔法となんか違うのか?」
頭を悩ませるクレイシスに的外れな質問をするベイストス。ベイストスも一応は神なのだが、少し神らしさに欠けるという所がどうしても目立ってしまう。それを補うのがクレイシスの役目と言った感じだ。そのクレイシスはため息を吐きながらその質問に答える。
「はぁ。ベイストス、貴方それでも武神なのですか?」
「ああ、もちろんそうだが? ま、脳筋って言葉があるんだし許してくれや」
「貴方って人は·····まあいいです。転移魔法とは本来、普通の人間は使う事が出来ません。私がそうしたのです」
「意地悪だな〜クレイシスの嬢ちゃん」
「ほんとに怒りますよ?」
「すまん」
どうやらクレイシスは怒ったら本当なら怖いらしい。ベイストスは体を震わせ、変な汗までかいている。武神たる者が情けない、といった表情でクレイシスはベイストスを見ている。傍から見たら娘に頭が上がらない父親のように見えてしまうだろう。
「使えなくしたと言いましたがそれは半分間違っています」
「半分?」
「そうです。私達神の力が通じない人間が現れてしまったのです。その人間は最高位の魔法使いとなり、転移魔法を完成させてしまいました。そしてそれを古文書として後世に残し、この世を去りました。その魔法使いの子孫もどうやら私達の力が通じないようなのです。そしてその古文書は一族に受け継がれていったのです。それにその古文書は私が10何年前に隠したのですが、どうやら見つけられてしまった見つけてしまったみたいですね」
「つまり今回の一件はその魔法使いの子孫が起こしたってことか?」
ベイストスの言葉に頷くクレイシス。ベイストスはなるほど、と理解したような表情で頷く。本当に理解しているかは怪しいが。
だがそんなベイストスでも、神の力が通じない人間が魔法使いの一族だけではなく、ライトも該当するということに気づいたらしく、一瞬にしてベイストスの表情は間抜けな表情から驚いた表情に変わる。
「てことはライトの坊主も俺達の力が通じないってことになるよな? んでライトの坊主らめちゃくちゃ強くなってて、さらに強くなる動機を見つけた、と。これってヤバくね?」
ベイストスがヤバいと言った理由。それはライトが人間の世界にいる限り、神の力を受けない。つまり神を人間界に引きずり下ろす術を身につけてしまったら太刀打ち出来ないという事だ。その事に気がついたベイストスは顔に焦りを浮かべている。
「その通りよ。彼の牙が私達に向かないように祈るしかないわね。それに今あの子にはあの剣もあるし」
「ちょっと俺もう1回ライトの坊主に会ってくる」
「無理に決まってるでしょ。ついこの間下界の門を貴方が勝手に開けたじゃないですか。後数年は開かない事くらい分かるでしょう?」
ベイストスは自分のしでかした事の重大さについてようやく理解したらしい。こうなっては神に出来ることは何も無い。本当に祈ることしか出来ないのだ。ライトがそんな事をするなんて信じ難いが、絶対にない訳では無い。ベイストスは知っているのだ。ライトがどれ程復讐に捕われているか。もしも自分達が復讐の対象になったら、ライトは必ず自分達を殺せるまで強くなるという事を。
「ま、私達が手を出さない限り大丈夫だと思うけどね。あの子とは、あの子がこっちの世界に来てから話すとしましょ」
「そうだな。てかライトの坊主が俺達を殺すわけないしな」
2人がいる世界を神界。又の名を神の聖域。ライトがここに訪れるのは近いという事をまだ誰も知らない。