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7. 冒険者登録


 追放宣告を受けた後、俺はアルフォンスと数人の兵士とともに王城の城門に来ていた。


「その。すまないな。勝手に別の世界から呼び出しておいて、こんなことになるとは。」

「アルフォンスさんのせいじゃありませんよ。宰相からの指示とのことですし。魔族との戦いに役に立たない人間を置いておいてもしょうがないですし。」


 追放宣告の後、ショックのあまり声の出ない俺にかわって、クラスメートの聡一と沙織が抗議をしてくれたが、当然ながら決定は覆らなかった。


 追放理由は主に2点。

 まずは費用だ。召喚者を訓練しつつ養うには、少なからぬ費用がかかっており、魔族との戦いを控えた現状では、少しでも費用を切り詰めたいとのことだ。

 次に、俺の戦闘能力だ。これまでの訓練の成績から、魔族と戦える水準に無く、さらに到達度が二段階しかないため、今後の能力向上も見込めないと判断されたようだ。


「訓練用の剣やナイフ等の装備品はそのまま持って行ってくれて構わない。あと、これは王国からの手切れ金だ。十日間くらいは何とかなるだろう。その間に生活の糧を見つけて欲しい。冒険者ギルドでならば常に仕事があるだろう。城門を抜けた道をまっすぐ進めば着く。」


 アルフォンスから、布の小袋を受け取る。ざくっと言う音から、硬貨が入っているようだ。


「ありがとうございます。短い間でしたが、お世話になりました。」


 最後に、アルフォンスと握手をする。


「宿屋は、冒険者ギルドの近くの『月下亭』をつかうとよい。」


 アルフォンスがそっと耳打ちをしてくれる。


「それでは、お元気で。」




 城門から出た後、冒険者ギルドを探す。もたもたしていると日が暮れてしまう。

 十分程歩くと、武装した団体とすれ違う頻度が急に増えてきた。そのまま歩みを進めると、周りと比べてひときわ大きな建物が視界に入る。


「でかいな。あれが冒険者ギルドか?」


 武装した集団が出入りしているので、冒険者ギルドで間違いなさそうだ。

 意を決して、建物の中に入る。


 建物の一階は、大きく三つのエリアに分かれているようで、正面に受付、右側に換金台、左側が談話エリアになっているようだ。


「冒険者登録をしたいのですが、こちらが受付でしょうか。」


 受付に立っている茶髪の女性に声をかける。年は俺と同じか少し上だろうか。


「はい。そうです。初めての方ですね。失礼ですがおいくつですか?」

「えっと、十五です。」

「十五歳でしたらぎりぎり大丈夫です。お若く見えましたので。」


 この世界の人たちは、日本人の俺達に比べて、大人びて見える。


「それでは、こちらの石版に手を触れてください。」

「はい。」


 言われたままに手を触れる。すると、石版になにやら文字が浮かび上がった。

 王城で触れた石版と同じような仕組みらしい。


「リョウヘイ・アサオさん。職業は『自称魔術士』ですね。」

「はい。そうです。」

「『自称』…ですか?始めて見たのですが。」

「実は、自分も良く分からないんです。最初からそうだったので。」

「そうですか。こほん。わかりました、登録には問題なさそうですので、登録します。」

「お願いします。」


 受付の女性のジト目を受け流しつつ、登録をお願いする。


「これが登録証です。」


 名刺サイズの小さなカードを受け取る。俺の名前が刻まれており、石が一つ埋め込まれている。


「冒険者には、AランクからGランクまで七ランクあります。リョウヘイさんはGランクですので、石が一つ埋め込んであります。ランクが上がるごとに石が増えていきます。」


 登録証について解説を受ける。かなりシンプルな構造だ。


「ランクによって受けることの出来る依頼が決まっており、Gランクの方お一人ですとGランク依頼のみ受けることができます。」

「パーティーを組んでいるとFランク以上の依頼も受けれるのですか?」

「パーティーの場合ですと、メンバー内の最高ランクの方の一つ上のランクまで依頼を受けることが出来ます。おすすめしないですが、例えばGランク二名でもFランクの依頼を受けることが出来ますよ。」


 なるほど、分相応なランクの依頼は受けられないシステムになっているのか。


「ランクは、依頼達成数、難易度、達成度をもとに、一定条件を満たすとランクアップします。まずは、Fランクを目指してくださいね!」

「そうですね。地道にがんばります。」

「最後に、規則集を渡しますので読んで置いて下さい。一言で言うと、『法律を守って他人に迷惑をかけないで下さい!』となります。」

「ざっくりですね。」

「ええ、どうせ皆さん規則集見ないですからね。ええ…。」


 受付の女性が遠い目をする。


「そうですか……。お姉さんも大変ですね。そういえば、『月下亭』という宿屋はどちらですか?」

「『月下亭』でしたら、ギルドを出てから左に二分くらい歩けば着きますよ!三日月の看板が目印です。申し遅れましたが、わたくしロミーといいます。これからよろしくお願いしますね!」

「色々ありがとうございます!こちらこそよろしくです!」


 礼を言って、俺はギルドから出る。

 今日は既に日が暮れてしまったため、依頼の確認は後回しにして宿の確保に専念する。


「お、あったあった!」


 ギルドから出てすぐ、三日月の看板の建物を見つけて中に入る。


「こんばんは。一部屋空いてますか?」

「おう、空いてるぜ。名前と滞在日数を教えてくれ。」


 大柄のひげ面の男が受付をしているようだ。

 口調は悪いが、表情はにこやかだ。


「リョウヘイといいます。とりあえず五泊お願いしたいです。」

「おう、構まねえぜ。五泊だと、二千クルだな。」

「はい。これで大丈夫ですか。」


 俺は、銀貨を二枚渡す。


 俺のいるグルレシア王国の通貨は、『クル』が使われている。

 硬貨は七種類あり、鉄貨→銅貨→大銅貨→銀貨→大銀貨→金貨→大金貨の順で十倍ずつ価値が上がっていく。

 鉄貨が一クルで、銀貨が千クル、大金貨が百万クルといった計算だ。アルフォンスさんからは、銀貨十枚を手切れ金としてもらっている。


「おうよ。俺はこの宿の大将のデニスだ。よろしくな。あと、宿代には夕飯と朝飯がついている。いらない日があれば、前日までに声をかけてくれな。」


 夕食と朝食がついているようで助かった。これで、切り詰めれば二十日くらいは過ごせるかもしれない。


 自分の部屋につくと、明日からの計画を立てる。


 まず、俺がこの世界でできることは、おそらく冒険者しかないだろう。

 幸い『職業』を持っているので、何も持っていない人よりは戦闘に向いているだろう。

 当面は、冒険者ギルドで簡単な依頼をこなしつつ、生活を維持することが目標だな。そして、出来ればレベルアップして強くなっていきたい。


 そこまで考えたところで、頬を涙が伝っていることに気付く。


 そうだ。悔しかったのだ。

 グルレシア王国に召喚されたとき、人生で一番心が躍った。

 日本の家族や友人のことは心残りではあるが、これから始まるであろう新たな生活に希望で一杯だった。


 しかし、現実はクラスメート達が次々と能力をアップさせていくなか、自分だけ取り残されていく。焦るがどうにもならない苦しみ。それらを周りに感じさせまいとずっとずっと我慢してきた。

 一人になったことで、抑えていた心の中の葛藤が開放されたのだろう。そして、追放された事実とこれからの生活への不安が複雑に入り混じり、涙が溢れる。


 追放初日、俺は泣きながら眠った。



 翌朝、俺は早速冒険者ギルドに向かう。


「おはようございます、リョウヘイさん。依頼を受けに来たんですか?」


 昨日受付をしてくれた女性、ロミーが声をかけてくる。


「そうです。安全で一日に四百クルくらい稼げるといいんですが…。」

「Gランクの依頼だと、なかなか厳しいですね。あっ、一応ありますけど…。」

「どんな依頼です?」

「えっとですね。地下水道のグリーンスライム討伐です。一匹十クルです。」

「グリーンスライムですか?魔物ですよね。」

「ええ、一応魔物ですが、弱すぎて魔物扱いされないこともあります。正直子供でも勝てます。」

「いいですね。それやります!」

「ホントですか!!受ける人がいなくて困ってたんです。討伐証拠部位は、魔核そのものです。」

「わかりました。ちなみに、地下水道ってどんなとこですか?」

「え、ご存知無いんですか?」

「え、あ、はい。」

「下水です。」

「ん?」

「げ・す・いですっ☆」

「えーー!!」

「この依頼、討伐対象が弱いのに報酬額が高いのは、最大の敵が臭いだからなんです。受けてくれますよね…。」


 ロミーに上目遣いでお願いされる。本当に困っているようだ。


「分かりました。まずは挑戦だけしてみます。」

「ありがとうございます!!あっ、討伐報酬を持ってくるときは、裏手の井戸で体を洗ってから来てくださいねー!!」

「ちょっ…。」


 ロミーに促されるかたちで、俺は地下水道に向かった。


「うげぇ。ひどい臭いだ。」


 まさか俺の初依頼がこんなことになろうとは。

 地下水道は大人が三人くらい通れるスペースがあり、中央の溝に汚水が流れている。


「お、いたいた。」


 汚水の溝に、グリーンスライム五、六匹が一塊になって浮いている。今はまだ汚水が流れているが、いつか詰まって流れなくなるだろう。


「とりゃ。うっぷ。」


 グリーンスライムに剣を突き立てると、ほとんど抵抗も無く切断することが出来た。しかし臭いが酷い。


《『ゲーマー』のレベルが上がりました。》


 視界にレベルアップを告げるポップアップが現れる。

 確認したいところだが、長時間ここにいると臭いで死んでしまう。とっとと終わらせよう。


 俺は、グリーンスライムの塊をあと四つほど排除し、地上に脱出する。


「うっぷ、うへぇ。」


 地上に戻っても、自分に付着した臭いで吐き気を催す。

 心なしか、道行く人たちの距離が遠い気がする。


「結局、3レベルもあがったな。ステータスは後で確認しよう。まずは水浴びだ。」


 ギルドの裏手の井戸に直行して水浴びをする。服は一着しか持っていないが、近くで焚き火をしている人がいたので、一緒に乾かさせてもらう。


「ろみーさん。」

「ひゃい。」

「酷い目にあいましたがね。」

「そ、そのようですねー。」


 服が乾いた後、ギルドのロミーさんに声をかける。

 少し距離が遠いようだが気のせいだろう。


「換金お願いします。」

「えっと、換金は…。うっぷ。換金台の方でお願いします。」


 朝は優しかったロミーが、今はとても素っ気無い。

 換金台の方を向くと、今度はピンク髪の女性がぷるぷると首を振っている。

 なるほど、臭いがまだとれてないらしい。


 結局、今日の収穫はグリーンスライム十九匹で合計百九十クルになった。

 宿屋が一泊四百クルだから赤字か。服も追加で買わなきゃだし。まあ、効率を上げてけばなんとかなるか。


 宿の自室に戻った俺は、ベッドに突っ伏す。


「つかれたーー。」


 そうだ。ステータス確認しなきゃ。

 俺は、気になっていたレベルアップの効果を確認すべく、視界のメニューを開いた。


読んでいただいた方、ありがとうございます!

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