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5. 命を奪う


 書庫から自室に戻った俺は、視界のメニューから、ステータスを開く。

 この六日間の訓練の成果を確認するためだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<ステータス>

職業/レベル:ゲーマー/Lv2 (魔術士/Lv3)

HP:35(12+11+12)

MP:40(5+11+24)

攻撃:37(18+11+8)

防御:29(12+11+6)

魔攻:38(5+11+22)

魔防:35(10+11+14)

速度:43(25+11+7)

幸運:25(5+10+10)


スキル:ロールプレー

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お、結構あがってるじゃん。」

 レベルアップしていることは、訓練途中に気付いていた。いきなり視界にポップアップが表示されるのだから…。

 今後、訓練についていくためにも、ステータス分析は重要だ。そして、異世界召喚当日にメモした初期ステータスと比べてみる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<ステータス>

職業/レベル:ゲーマー/Lv1 (魔術士/Lv1)

HP:30(10+10+10)

MP:30(0+10+20)

攻撃:31(15+10+6)

防御:24(10+10+4)

魔攻:28(0+10+18)

魔防:27(5+10+12)

速度:35(20+10+5)

幸運:25(5+10+10)


スキル:ロールプレー

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 なるほど、『ゲーマー』と『(魔術士)』では、レベルの上がり方が違うのか。だが、現時点では職業の差なのか、ロールプレーしているからなのか良く分からんな。

 ステータスの括弧の中の数値は、おそらく左が自分自身の能力、真ん中が『ゲーマー』としての能力、右が『魔術士』としての能力だろうな。

 召喚直後はこの世界で魔術訓練を受ける前だから、MPや魔攻が0なのは当然だろうし、HPや攻撃が上がっているのも基礎体力訓練の成果だろう。

 『ゲーマー』としての能力と『魔術士』としての能力は、能力値がいかにもって感じだから多分推測どおりだろう。それにしても『ゲーマー』の能力…低いな…。


 訓練の中で教官のアルフォンスやクラスメートから、ステータスの話題は一切出なかったから、他のクラスメートがどんなステータスになっているのかが不明なのは不安だ。訓練成績からして、みんな俺より高いのは予想できるが…。




「今日は、実際に戦闘をおこなってもらう!」


 休養日の翌日、アルフォンスが俺達に告げる。


「よし、やっときたぜ!」

「もう戦闘か。緊張するな。」

「やっぱり私たち、戦うことになるのね…。」


 クラスメート達は、それぞれの思いを口にしている。


「戦闘といっても、最初は危険度の低い獲物から始める。目的は、君達に命を奪う経験をして欲しいことと、到達度の経験を積んで欲しいことの二つだ。」

「命を奪う…。」


 息をのむ音が聞こえる。


「そうだ。命を奪う経験だ。今後君達は、魔族や魔物の命を奪っていくことになる。一瞬の気の迷いが敗北を招く。だからこそ、命を奪うことに慣れてもらわないといけない。」


 アルフォンスの言葉に、クラスメート達の間に緊張が走る。


「同時に、何かの命を奪うと、到達度の段階が上がりやすいんだ。もちろん一匹や二匹ではだめだ。多く戦闘を行い、たくさんの命を奪う必要がある。経験的に、強い魔物を倒した方が、到達度の段階が上がりやすいと言われている。」


 なるほど、ゲームの経験値みたいなものか。


「最初の獲物はこいつらだ。」


 アルフォンスの指示で、兵士達が檻に入った巨大なうざぎを持ってくる。体長六十センチはありそうだ。


「え、うさぎ。」

「こいつらを殺すのか…。うさぎにしてはでけえな。」


 ざっと二十羽はいるだろうか。


「この魔物は、キラーラビットだ。先日座学でも教えたが、小さいながらも鋭い前歯を持ち、油断していると大怪我をすることもある。まずは、勇者の君から戦ってみてくれ。」

「はいっ!」


 聡一が前に出て、キラーラビットと対峙する。


 シャーッ。


 キラーラビットが大きな威嚇の声を上げて、聡一に飛びかかる。


 「くっ!はぁぁ!」


 キラーラビットの突進を聡一はサイドステップで華麗にかわし、すれ違いざまに剣で斬撃を入れる。

 キラーラビットの左半身は引き裂かれ、着地とともに崩れる。


「おおー!」

「見事だ。初戦でこれとは、期待が持てるな。さすが召喚者、さすが勇者様といったところだね。」


 クラスメートから歓声が上がり、アルフォンスが聡一の戦いを賞賛する。


 その後は、順番にキラーラビットの相手をしていく。

 皆、恐る恐るだが、キラーラビットの動きを見切り、ナイフや剣でトドメを刺していく。これまでの訓練の成果が出ているようで、俊敏な動きだ。


 最後に俺の番になる。


「最後は、リョウヘイ君といったかね。君だ。」


 手元の資料を見ながら、アルフォンスが告げる。資料を見た際、表情が陰った気がするが、気のせいだろう。


「はい!」


 俺は、真正面にひかえたキラーラビットを見据える。クラスメート達が戦っていたときは小さく見えた体が、心なしか大きく見える。


 シャーッ。シャーシャーッ。


 キラーラビットの威嚇に体がビクッとなるがこらえる。落ち着け。相手を良く見るんだ。キラーラビットは、直線的な動きは素早いが、方向転換に難がある。特に、突進の際には大きな隙が生まれる。そこを狙うのがセオリーだ。


 たんっ。


 きたっ。突進だ。まずは、横に体をずらし、突進をやりすごそう。体を半身にして、突進をかわそうとした瞬間――


「ぐはっっ!」


 俺のわき腹にキラーラビットの頭がめり込み。突進の勢いで仰向けに倒される。


「まずい…。」


 アルフォンスの声が聞こえた瞬間、左肩に激痛が走る。


「うおぁぁぁぁぁっ!」


 キラーラビットの前歯が俺の肩に食い込むのが見えた瞬間、俺は意識を失った。





「ここは…。」


 白い天井が見える。日の光が斜めに差し込み、穏やかな風が頬をなぜる。


「気がついたのね。よかった。」


 声の主を探すと、少し目を赤くした松藤沙織の姿があった。隣には、沙織と親しい三宅歩美と大戸美奈の姿もある。

 確か、沙織は『回復術士』、三宅歩美は『付与魔術士』、大戸美奈は『剣士』だったはずだ。


「俺は、いったい…。」

「涼平君は、キラーラビットに噛まれた後、気を失って医療所に運び込まれたの。アルフォンスさんがキラーラビットをしとめたのと、王宮に回復術士の方が居たから、大事には至らなかったのだけど。」

「そうか…。」


 クラスメートでただ一人、キラーラビットをしとめれなかっただけでなく、重傷まで負うとは。

 しかも、好意を寄せている女の子に心配されるなんて…。我ながら情けないな。


「私達、戦うってことを甘く考えすぎていたかも。」

「そうね。わたしたちはこれから次々に死んでいくかもしれない。」

「ちょっと、美奈ちゃん。」

「いいえ、そうよ。今日の浅生君の怪我をみたでしょ。危険度Dのキラーラビットでさえ、一歩間違えればこうなるのよ。」

「そうだけど…。」

「でも、わたしたちは、もう後に引けない。元の世界に帰れない以上、戦うしかないの。」


 普段は無口でおとなしい大戸美奈が、珍しく強い口調で言葉を放つ。


「そうだな。俺達は進むしかないんだよな。」


 俺は美奈の言葉を肯定する。


「だが、俺も馬鹿だな。召喚された時は、ここから新しい異世界生活が始まるって、勝手にワクワクしてたんだ。自分に実は隠れた能力があるんじゃないかって妄想して。知ってる?今ライトノベルでは異世界物が流行ってるんだぜ。」


「沙織はそうゆうのよく読むよね!」

「ちょっと、あゆみ!」

「いいじゃん、事実なんだし。」

「沙織、そうなのか。」

「ええ、わるい?」

「いや、わるくないけど、なんか親近感。そういうの興味ないと思ってたから。」

「実は、教室に魔方陣が現れたとき、私も少しワクワクしてたの。」

「沙織もだったのか。」

「えへへ。」


 久しぶりに沙織と話した気がする。前に話したのはまだ日本に居るときだったか。

 なぜだが懐かしい気分になる。


「そういえば、みんなのレベルはどのくらいなんだ。俺が低いのは分かるんだけど?」

「ん?なに?レベル?到達度じゃなくて?」


 知らないのか。もしかしたら、レベルとかステータスが見えているのは俺だけかもしれない。


「そうそう到達度のこと。」

「召喚直後は全員一だったけど、もしかしたら上がってるかもね。測ってないから分からないけど。」


 なんとかごまかせたようだ。


「じゃあ私達、そろそろ戻るね。」

「うん、ありがとな。」


 沙織たちは訓練に戻っていった。

 大怪我を負ったはずの左肩は、すでに傷がふさがり痛みも消えている。治癒魔術の偉大さを感じる。

 

 召喚されてからの日々、書庫で読んだ職業と魔術についての知識、さっきの戦闘など色々なことに思いを巡らせていたら、いつしか再び眠りについていた。


読んでいただいた方、ありがとうございます。

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