10. 成長
レーゲンスの森に足を踏み入れる。
奥に行かなければ魔物に会うことは無いそうなので、無難に森の入り口付近で薬草を探す。
「お、あったあった!」
ロミーさんから受け取った薬草の絵がかかれた紙を見ながら、薬草を手に取る。
一束を五クルで換金してもらえるそうなので、目標は八十束、一泊分だ。
ザザッ。
二十束ほど採取したところで、ふと何かの気配を感じて振り返る。
振り返った先には、体長五十センチくらいのうさぎがいた。
そう、俺が追放される原因をつくったキラーラビットだ。
キラーラビットに向き直り、剣を構える。
数日前の光景がよぎるが、頭を振って前を見据える。
落ち着け。前回は、あっけなくやられたが、今は俺も成長している。しかも職業は『戦士』だ。
タタンッ。
キラーラビットは俺を敵として認識したのか、距離をつめてくる。
相手の間合いに入らないように、小刻みにステップを踏んで距離を調整する。
キラーラビットは、強靭な後ろ足の力を利用した突進攻撃が脅威だ。
裏を返せば、突進攻撃の威力を削ぐことが出来れば、危険度は格段に落ちる。
今回の場合、まず第一に正面に立たないことと、次に正面に立ったとしても突進を受けない間合いを維持することが大事だ。
相手は魔物だ。いつか痺れを切らして不十分な間合いでも飛び込んで来るはず。
タンッ。
来た!
予想通り、突進の斜線から少しズレているにもかかわらず、キラーラビットが突進攻撃を仕掛けてきた。
心なしか、以前王城で対峙したときよりもゆっくりに見える。
ズサァ。
突進をかわすと、反動でキラーラビットが体勢を崩す。
しかし、余裕を持ってかわしたため、追撃に移るには距離が遠すぎる。
「なるほど。出来るだけぎりぎりで回避した方が良いな。」
先ほどよりも間合いを詰めてキラーラビットと対峙する。
相手も、間合いが近いことを好機と判断したのか、早速突進の姿勢に移る。
「そこだっ!!」
落ち着いて観察すれば、難しいことでは無かった。なぜ王城では出来なかったのだろう。
突進直前には後ろ足に力が入り、予備動作が大きい。
加えて突進中は空中にいるため、こちらが攻撃に転じる時間も稼げる。
ズサッ。
キラーラビットが着地した瞬間の隙を突いて、俺は後ろ脚に斬撃を加える。
浅い…。だが十分だ。
浅いとはいえ、やつの生命線といえる後ろ足にダメージを与えた。
キラーラビットが再びこちらを見据え、突進の予備動作に入る。
グギギッ
タンッ。
痛そうな声を出した後、突進を試みる。
だが遅い。後ろ脚へのダメージが効いているのだろう。
「はぁぁ!!」
キラーラビットのバランスの崩れた突進を回避しつつ、すれ違いざまに左半身を切りつける
完璧だ。
ドサッ。
着地後、キラーラビットはもがいていたが、俺は静観することにする。
出血量が多いため、時間が経てば息絶えると予測したからだ。
予想通り、五分後には動かなくなったため、俺は獲物を回収する。
「思わぬ収穫になったな。」
想定外の戦闘で体力を消耗したため、薬草採集は目標に達していないがギルドに戻ることにする。
森の入り口付近にも関わらず魔物が出たため、嫌な予感もするし。
「こんにちは。換金お願いします。」
「あれ、リョウヘイさん!早いお戻りですね。」
ギルドに戻ると、ロミーさんが出迎えてくれた。
「ええ、キラーラビットと遭遇しまして、仕留めたので帰ってきました。」
「森の奥に行ったんですか?一羽ですか?」
「いえ、入り口ですよ?はい、一羽です。」
「珍しいですね。森の入り口でキラーラビットに遭遇するなんて。」
「やっぱそうなんですね。ロミーさんの言う魔物の定義にキラーラビットが入っていないだけなのかと心配していました…。」
「まあ確かに強くはないですが。」
「ちょっ。手厳しいですね。」
「単体ならFランクの魔物ですし。」
「あれ?キラーラビットはDランクだった気がするんですが。」
王城で学んだときは、Dランクと教わった気がする。
「群れの場合はDランクですよ。どの魔物でも同じですが、危険度は数で大きくかわります。」
「確かにそうですね。今回は一羽だから仕留められました。」
「魔物には、単体の危険度に対して、二匹~九匹の集団の場合は危険度が一段階、十匹以上の群れの場合は、危険度が二段階上がります。」
「なるほど、キラーラビットは通常十匹以上の群れをつくるから一般的にはDランク、ただ一匹の場合はFランクってことですね。」
「ええ、そうです。キラーラビットの討伐以来は基本的に群れを対象にしたものですから。」
「ありがとうございます。勉強になります。」
「そうそう、Fランクの魔物を討伐したので、リョウヘイさんもFランクに上がれますよ?」
「ホントですか!是非お願いします!」
この日は薬草二十束の百クルと、キラーラビット一羽の百クルで合計二百クルの収穫だったが、ランクアップという思わぬ成果を得ることが出来た。
それに、以前勝てなかったキラーラビットを討伐できたことは素直に嬉しい。
「今日は時間もあるし、魔術の練習でもするか。」
宿屋に戻った俺は、「身体強化」魔術の練習に取り組む。
この魔術は、前衛職ならば非常に覚えやすいとうわさの魔術だ。
しかし、欠点があり、会得したとしても慣れないうちはそれほど多くの効果が得られず、日々たゆまぬ鍛錬が必要なことと、「身体強化」の長時間の維持が難しいことが欠点として上げられる。
ステータスを見れる俺からすれば、前衛職は魔攻やMPが低いことが影響しているのではないかと思うのだが……。
意識を集中し、「身体強化」魔術の魔方陣を魔力を使って空間に展開する。
「いつもここまでは上手くいくんだが……。」
描いた魔方陣を右足に重ね、魔力を通す。
徐々に魔方陣が回転を始め明るく光った瞬間、右足が軽くなる感覚が走る。
「これはもしや……。」
試しに右足でジャンプしてみる。
ゴチンッ。
「ぃてぇっ」
勢いあまって天井に頭をぶつけてしまった。
「これは覚えたってことで良いよな?」
あっけなく初めて魔術を覚えてしまった。
前衛職である『戦士』と「身体強化」は相性が良いと聞いていたが、これほどとは……。
徐々に成長してる手ごたえがあり、思わず頬が緩む。
明日は討伐依頼を受けてみよう。
っとその前に到達度チェックだな。アリス教会で。
明日の予定を考えつつ、眠ることにした。