第71話 お土産と言う名の自前の品④
3人と別れたあと、食事をとるべく英魂亭にむかった。
英魂亭は中央通りにあり、冒険者や街の人に愛されている酒場だ。
僕が以前教えたカフトフライ(フライドポテト)が、この店の名物になっている。
「いらっしゃいませー。あ、ヤムさん!帰ってきてたんですね」
僕が店にはいると、普段着の上に、お店の名前の入ったエプロンをしているハルナさんが声をかけてくれた。
「はい、昨日には。イザベラさんにはさっきご挨拶してきました」
「お昼たべるでしょ?日替わりでいい?」
「はい。お願いします」
日替わりは、野菜たっぷりのポトフ・ブート・カフトフライ・トエガス(ソーセージ)のフライのセット。
ソーセージのフライは、たまたまフライドポテトの鍋に腸詰めを落としてしまい、もったいないので食べたら美味しかった。
なのでメニューにいれたとのことらしい。
僕は日替わりを運んできたハルナさんを呼び止めると、
「ハルナさん。王都のお土産です」
イザベラさんとお揃いのイヤリングとネックレスを手渡した。
そしてやっぱり習慣なのか、その場で開封して、耳や首に装着した。
その様子は母親のイザベラさんそっくりだった。
そこに大声が鳴り響いた。
「おいハルナ!そのイヤリングとネックレスは誰にもらったんだよ?」
「あらムルツ。警備兵の仕事は終わったの?」
店に入って来たのは、警備兵の格好をした、ハルナさんと同い年くらいの男の人だった。
その顔には怒りの表情があり、足音を鳴らして近寄って来ると、いきなり僕の襟首を掴んできた。
「お前か!ハルナに近づいたやつ…は…」
しかし青年は、僕の胸元を見つめると固まってしまった。
多分僕を、ハルナさんにアクセサリーをプレゼントした男性だと思って掴みかかったら、胸があってびっくりしたのだろう。
まあ、前世が男なのであながち間違いではないけれど。
彼は、僕が女だったことに驚き固まってしまい、動かなくなった。
すると、
「お客さんに、しかも女の人になにやってるのよ!」
ハルナさんが、トレイの面ではなく縁で、僕の襟首を掴んできた青年の顔面を殴り飛ばした。
あれは痛いと思う…。
「申し訳ありませんでしたっ!」
青年が僕に謝罪の土下座をしていた。
「俺、てっきり金持ちのアホがハルナにコナかけに来たのかと思って…」
「私が誰から何を貰おうがあんたに関係ないし!さらにヤムさんの胸まで掴んで!」
「掴んだのは襟首だ!」
「お知り合いなんですか?」
とりあえず埒が明かないと思い、水を向けてみた。
「こいつはムルツ。幼馴染みで、昔の勇者ムツから名前をもじってつけてもらったんだけど、こいつってば口ばっかりで実力はないし、モンスターが怖くて冒険者にもなれず、警備兵の仕事についたはいいものの、チンピラにボコボコにされて隊長さんに助けて貰うヘタレ。おまけに頭も悪いからさっきみたいなことも頻繁にやらかすし」
「今はモンスターだって倒せるし、チンピラにだって負けやしねえ!それに去年のスタンピードの時だって前線に居たんだぞ!」
「しってるわよ。怪我しまくって手持ちのポーションを使い果たして、そのせいで隊長さんが致命傷になったんでしょ?」
「あっあれは…」
とりあえず、この青年の名前と、彼が原因で警備兵の隊長さんが大怪我をおったのはわかった。
今まで会うことがなかったのは、勤務シフトの関係だろう。
すると、店長さんが顔を出し、
「ああなると長いから、さっさと食った方がいいぞ」と、教えてくれた。
結局、食べ終わっても口論が続いていたので、店長さんに代金を払い、お店を後にした。
昼食の後、僕が向かったのは、やっぱり図書館だった。
「こんにちは」
「こんにちは。お久しぶりね」
ナターシャさんは、いつもと変わらない笑顔を浮かべながら、僕から料金を受け取った。
「王都に行ってきまして、これお土産です」
そのお返しとばかりに、ナターシャさんには、王都で人気の香水を渡した。
「ありがとう♪それで、今日も閉館まで?」
「はい♪」
ちょっと皮肉めいた感じだったが、事実なので仕方がない。
するとナターシャさんは僕の顔をじっと見つめ、
「貴女にしてはよく帰ってきたわね。王都の図書館はこことは比べ物にならないくらい充実しているから、あっちに居着くんじゃないかとおもったのに」
意外そうな表情をした。
すみません…。
一瞬どころか何度も考えていたなんて言えるわけがありません…。
次回は物件紹介です
マスクが暑い…
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