第66話 ベストなあしらい方とさらっとしたお別れ
何とか仕上がりました
王都クルストンでの最後の夜も、出発当日の朝も、前の日とさして変わらなかった。
サヘラさんに頼まれて食事やデザートをつくり、一緒に食事をした。
そうして、朝一番の定期便に乗るべく、停車場にやってきた。
チケット売場に待合室。何十台と並んでいる馬車。
停車場はいわゆるバスのターミナルのようだった。
この王都クルストンから各都市に出発するのだ。
王都についた時もすごいとは思ったが、これだけの馬車がならんでいると、よりすごさが増した感じだ。
チケットは前日に購入済み、後は乗る馬車を間違えないようにするだけだ。
さらにはありがたいことに、サヘラさんとヨハンさんが見送りにきてくれた。
「色々お世話になりました」
「時間ができたり、新しい菓子でも思い付いたらまたおいで。そうそう、こいつをリガルトの坊やに渡しておくれ」
サヘラさんから渡されたのは、リガルトさんから頼まれたのと同じく、サヘラさんの印章が入った封蝋のされた手紙だった。
「確かにお預かりしました」
手紙を受け取り、神様のバッグにしまう。
「ヤム様。様々なお料理の提供、ありがとうございました」
「いえ、色々御迷惑をおかけしましたから」
ヨハンさんが丁寧にお辞儀をしてきたので、僕も慌て頭をさげた。
本当に色々迷惑をかけてしまった。
お屋敷に戻った時には、使用人の人達全員が無事を喜んでくれた。
それを考えれば、料理の提供などはさした恩返しにめならないだろう。
サヘラさんも、表情はわからなかったけれど、心配をしてくれていたようだ。
前世では、どれだけ酷い怪我をして帰ろうとも、誰にも心配されなかった時と比べれば天と地の違いだ。
あまり長々と名残を惜しんでいてもいけないし、出発の時間も迫っている。
なので、挨拶をして馬車に乗り込もうとした時、
「では、失礼しま…」
「まて平民!」
不意に声をかけられた。
その声の正体は、後ろに使用人らしい連中を引き連れた、宮廷薬師フリジア・アイアナ・メルンケート嬢の後見人、ダルスノン・バドゲン・パスメノス子爵だった。
子爵はにやにやと笑いながら、僕に向かってこう言い放った。
「平民!お前をこのダルスノン・バドゲン・パスメノスの従僕にしてやる!有り難く感謝し、骨身を削って滅私奉公しろ!よいな!」
と。
その顔は、いままで僕に同じ要求を突きつけてきた連中と同じ顔をしていた。
僕は、明らかに不機嫌になっているサヘラさんとヨハンさんを手で制し、自分から子爵に近寄った。
そして、満足そうに笑っている子爵とその使用人に、魔眼を使った。
「『お断りします。どこともしらない馬の骨のことは忘れて、お屋敷に帰ってお仕事でもなさったたらどうですか?』」
「…わかった…そうしよう…お前達、帰るぞ…」
「「…はい…旦那様…」」
魔眼でそう命令すると、子爵と使用人はふらふらしながらもその場を離れていった。
「お騒がせしました」
「あんたの魔眼を初めて見たが…あんなにもあっさりかかるものかね」
サヘラさんは呆れた表情を浮かべながら、去っていく子爵をみつめていた。
「他の人のと比べたことがありませんから、なんとも言えません」
実際見たことが無いので、僕にとってはこれが普通だ。
「メセ行きの定期便が間もなく出発します!ご利用の方はお早く乗車をお願いいたします!」
そこに、定期便の発車アナウンスが聞こえてきた。
「時間のようじゃな」
するとすぐに馬車が動き出した。
「サヘラさん。ヨハンさん。色々ありがとうございました!お屋敷の人達によろしく!」
「ああ。道中気をつけるんだよ」
「はい。本当にありがとうございました!」
そうして馬車は城門を抜け、王都クルストンを後にした。
こうして、僕の産まれて初めての旅行は、幕を閉じていくのだった。
ついに王都編終了です。
メセにもどってからなにをするか、決まってないので見きり発車してみます。
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