第63話 お風呂で実演
お風呂はでてきますが、セクシーではありません?
「なるほど、ちょっとごわついていますね」
王女様の髪をさわりながら、僕は正直に答えた。
こんなことに嘘をついてもどうしようもない。
多分、生まれつきの髪質によるものだとは思うけれど、ケアをすれば大丈夫だとおもう。
「これなら洗髪剤と整髪剤を使えば、なんとかなるかもしれませんね」
「なんですかそれは?」
「えーとですね…」
この世界では、髪はせっけんで洗うらしく、髪質をたもつのは難しいらしい。
なのでどのように説明しようかと悩んでいたのだけれど、
「実際に使ってやればいいじゃないか」
サヘラさんの一言に大いに納得した。
でも。
こうなるのは予想外だった。
「お風呂はわかりますけど、なんでみなさんタオル1枚なんですか?!」
「女しかいないのに恥ずかしがってどうするんだい?」
メイドさんに服を脱がされ、バスタオル1枚で浴室に放り込まれてしまったのだ。
たしかに僕はもともとは男性だったけれど、女性の身体=サキュバスになってから数億年過ごしてきたから、女性の裸くらいで取り乱したりはしない。
それでもいきなり裸にひんむかれるのはたまったものではない。
それに、サヘラさんはともかく、身分のある王女様と王妃様だと、肌を見ただけで死罪とかありそうなのでひやひやものだ。
メイドさんから僕の荷物を受け取り、シャンプー一式を取り出していると、王女様が近寄って声をかけてきた。
「ヤム…と、言いましたね」
「はい。あ、もう少しお待ちいただけますか…」
振り向いて少しまってもらうようにお願いしたところ、
「どうやったら…こんなに胸が大きくなるんですかっ!?」
「うわあっ!」
いきなり正面から、バスタオル越しに胸を鷲掴みされてしまった。
「あっ柔らかい…。やっぱり食べ物ですか?それともマッサージですか?まさかそういう薬の実験台に自ら志願したとかですかっ?」
「ちっちがいますっ!」
一応同じ性別だし、相手は王女様なので、乱暴にはねのけるのも憚られる。
王女様のスタイルは十分整っていると思うが、本人は気になるものなのだろう。
どうしようかと思っていると、王妃様が近寄ってきた。
なので、
「たったすけてください!」
王妃様に助けを求めたのだけれど、
「貴女…肌が綺麗よね…。なにか肌にいいものでもつけてるのかしら?」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
今度はバスタオルの中に手を入れられた。
「いいわねぇ…肌がすべすべのつるっつる!」
「ウエストも細いし、お尻の形もいい…」
「ひいっ!やめっ…やっ…」
親子2人に完全におもちゃにされていたところに、カーンという音が2回鳴り響いた。
「止めないかこのバカ母娘が!」
サヘラさんが桶で王妃様と王女様の頭を殴り付けたらしい。
さすがは元教育係だ。
「ごめんなさい…。あまりにも羨ましくて…」
「あんまり貴女の肌が綺麗だったから…ごめんなさいね」
2人はしょぼんとしながら僕に謝ってきた。
王族が平民に対して謝罪をするというのは、なかなか貴重なことだと思った。
ともかく、助けてくれたサヘラさんにお礼をいわないと。
「ありがとうございました…助かりました…」
「ウェルナは昔からこうさ。おまけに娘まで似た者母娘になっちまって…」
どちらも生まれた頃から知っているせいか、サヘラさんの表情は、手のかかる娘と孫をみているようだった。
「そうそう。このお礼は、お前さんがメセの町の商業ギルドの小娘共に無理矢理売らされたっていう、薬用の肌用軟膏とやらで手を打とうじゃないか♪なんでも肌の張りが20歳は若返るってきいたよ?」
いつのまにそんな情報を?!
それにさらっとデマがまじってる?
というか今のに見返りを要求するんですか?
そして今のサヘラさんの言葉は、当然王妃様の耳にも入るわけで。
「それは当然、私にも販売してもらえるのよね?」
僕の肩を掴んでにっこりと微笑みかけてきました。
「では、御説明いたします」
薬用オールインワンクリームを用意することを、約束させられたあと、洗髪剤=シャンプーと整髪剤=コンディショナーの実演が、ようやく開始となった。
実演にあたっては、王女様が自らが志願してきました。
①まずお湯で髪を濡らします。
②次に、この洗髪剤を掌に硬貨ほどの大きさだけとります。
③それを髪の毛につけ、指で頭皮をマッサージしつつ、髪の毛と毛穴の汚れを落としていきます。
④全体が洗えたら、お湯で綺麗に洗い流します。
この時泡が残らない用に注意してくださいね。
⑤そうして髪の毛の水気を拭き取ったら、次は整髪剤です。
⑥同じように、整髪剤を掌に硬貨ほどの大きさだけとります。
⑦今度は、髪の毛に染み込ませるように、掌を押し当てたり、掌ではさんだりしていきます。
⑧髪全体に染み込ませたら、布で頭をくるんで、20分ほどおきます。
お風呂なら、この時間に身体を洗ったり、湯船に浸っていれば無駄がありません。
ついでならと、身体を洗うことになったのですが、やっぱり石鹸にもくいつかれました。
「このせっけん真っ白ね!香りも良いわ!」
「泡立ちも良いわね♪」
「儂も使わせてもらったけど、香りもいいし垢も良く落ちるようだね」
王妃様・王女様ともに好評だった。
この自家製のせっけんは、サヘラさんのお屋敷には提供させてもらったので、サヘラさんは既に体験済みだ。
⑨20分たったら、布を外してお湯で綺麗に洗い流します。
⑩あとは綺麗に水気をとって、温風の魔法で乾かせば終了です。
「凄い…ごわごわだった髪がさらっさらになってる!」
王女様は自分の髪を触って、本当に嬉しそうにしている。
王妃様も、娘の髪を触りながら真剣な表情をしていた。
もしかすると、母娘だから髪質が近かったりするのだろうが?
「ねえ。これって…貴女がメセに戻ってからも手にはいるのかしら?」
やっぱりそこは気になるところなのだろう。
「私の自家製ですから難しいかと…」
申し訳ないことではあるが、それが事実だ。
もちろん僕が王都に留まれば解決することだが、それを強要するような人ではないのは理解している。
瞬間移動の魔法を使えば一瞬だし、空を飛んでいけば1日で到着するので、それを提案しようとした矢先に、
「じゃあ商人あたりに運ばせましょうか」
「それなら丁度良いのがいるさね」
王妃様とサヘラさんの2人が、解決策を出してしまっていた。
自宅から徒歩2分圏内に、コンビニが開店しました。
もう少しコロのやつが収まってからの方がよかったのではと心配してしまいます。
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