第62話 王女様のお悩み
コロの奴に負けないように書き上げました。
ガックリと膝をついてうなだれる薬師ギルドマスターを尻目に、陛下は僕に声をかけてきた。
「薬師ヤムよ。そなたへの用件はこれで終了した。下がってよい」
「はい」
陛下のお言葉に従い、謁見の間から下がろうとした時、扉の方から声がかかった。
「お話は終わったかしら?」
その声の主は、王妃様だった。
「どうしたんだ一体?」
陛下が王妃様に声をかけるが、王妃様は気にせずに僕に近づいてきて、
「薬師ヤム。ちょっと相談があるの。サヘラ先生も来ていただけますか?」
僕はもちろん、陛下を始め、その場の全ての人に有無を言わせない雰囲気で僕の手を掴んだ。
僕とサヘラさんが案内されたのは、なんと王族が生活するためのエリアにある、王妃様の私室だった。
サヘラさんはなれている様子だったが、僕はあまりの豪華さにキョロキョロと回りを見渡し、汚したり壊したりしたら大変なので、おとなしくソファーに座っておくことにした。
そして目の前には、王妃様自らがお茶を入れるという光景が広がっていた。
普通は使用人がやるものだと思うのだけれど。
僕の表情からそれを理解した王妃様が、
「修行時代はいつもやらされていたし、夫や子供たちには、毎朝私がお茶を入れてるのよ」
と、答えてくれた。
そして王妃様とサヘラさんは、お茶を飲みながら相談を始めた。
「それで。なんの相談だい?」
「実は、娘が最近、髪がごわついて悩んでるんですよ」
「若い娘にゃよくあることだね」
そして王妃様が僕に視線をむける。
「それで、その娘の相談にのってほしいのよ」
「そういう相談なら、宮廷薬師の方になさった方が…」
幸いにして宮廷薬師にされるのはさけられたが、他にも宮廷薬師の方はいらっしゃるのだから、その方に頼んだ方がいいはずだ。
「いまの宮廷薬師は男の人が多い上に、女性の薬師は王都にはいないのよ。新しいあの娘はあいさつ回りで忙しいはずだし」
たしかに、入ったばかりなら、色々と忙しいだろう。
そこにノックの音が響いた。
王妃様が入室の許可を出すと、中学生くらいの女の子と、4~5歳くらいの男の子が入ってきた。
「失礼いたします」
「お母様~♪」
女の子は、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままの挨拶、いわゆるカーテシーをしたのに対し、男の子は一目散に王妃様に走ってきた。
「娘のディエンドラと、息子のショルフォスです」
「サヘラ様お久しぶりでございます」
「おばば様こんにちわ!」
2人はサヘラさんとは面識があるらしく、サヘラさんに丁寧に、そして元気よく挨拶をした。
「こんにちは。2人とも元気にしていたかい?」
そのときのサヘラさんは、本当に嬉しそうな顔をしていた。
そして、僕に気がついたディエンドラ王女様が、視線を僕に向けたまま王妃様に尋ねた。
「お母様。こちらのかたは?」
「サヘラ先生のお客様よ」
「薬師のヤムと申します」
僕は、失礼がないように、慌て頭を下げた。
「はじめまして。ディエンドラと申します」
王女様は僕に対しても、綺麗な挨拶をしてくれた。
「それでサヘラ様。本日はどのようなご用なのですか?」
「あんたのお悩みをなんとかしてくれって、あんたの母親に連れてこられたのさ」
「まあ♪」
王女様の顔がぱあっと明るくなった。
どうやら、本人にとっては深刻な悩みだったらしい。
それを解決しにきてくれたというのだから、それは笑顔になるだろう。
「それで、どのような対策が?」
「それを教えてくれるのは儂じゃない。こっちさ」
サヘラさんは僕の方に視線をむける。
すると王女様は、不意に僕の手を掴み取り、
「お願い!髪がごわついて髪型を纏めるのが大変なの!」
眼の端に涙をうかべた必死な表情で訴えかけてきた。
どうやら本当に深刻な悩みだったらしい。
最近誤字が多くて凹んでいます。
投稿が遅れてでも見直しの機会を増そうと思っています。
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