閑話 14
お待たせをいたしました。
~リーフェン王国在住・リノの視点~
私は、手渡された毒薬を手に、家路についていた。
綺麗な透明の瓶に入った、透明な液体。
時々、きらきらと光を反射する。
こんなに綺麗なのに、毒だという。
あの人の私への恨みはどれ程なのか計り知れない。
命を助けて貰った。
親切にもしてもらった。
私はその恩を、仇で返したのだ。
さらに、言われたことも正しかった。
『貴女は私の様に強制されてはいない様子です。貴女の様子からして、妹さんを監禁されているわけでもないのでしょう。その貴女がどういう理由で男爵に従っているかはわかりませんが、私の事を男爵に報告せず、正直に相談してくれていれば、診てあげられたかもしれない。でも、こういう状態になった。それは貴女の判断の結果です』
私は妹の病気を治すために盗みを働き、男爵に捕まった。
そしてお金のために、男爵の部下になった。
でも、お金はなかなかたまらなかった。
だから、あの人が凄い薬師だとわかった時は嬉しかった。
もしかしたら妹の病気を治してもらえるかも知れない。と。
でも駄目だった。
私がやり方を間違えたからだ。
家につくと、上の妹のリミと、下の妹のリタが待っていた。
「おかえり姉さん」
「おかえりなさい…リノ姉さん」
リミは、子供の姿の時に母親の役をしてくれたり、一緒に男爵の館で働いたりしている。
そしてリタは、テルス病にかかり、死に向かってゆっくりと進んでいる。
リタは、全身に痛みが走り、皮膚の一部がどす黒く変色していて、首を動かすのも辛いはずだ。
「ただいま」
私達は、本当の姉妹ではない。
3人とも、スラムに捨てられていた孤児だ。
名前も自分たちでつけた。
それからは、3人で肩を寄せあって生きて来たのだ。
男爵の部下になる前から、私達は色々やってきた。
お金のために、金持ちそうな人を襲ったこともある。
その罰が、いま下されているのだ。
私は、ごみ捨て場からひろってきた椅子にすわり、おんぼろのテーブルに美しい毒の瓶を置き、身体を小さくしながらそれを眺めた。
『捨ててしまおう』帰る途中に何度も考えた。
でも出来なかった。
理由は、自分でもわからなかった。
「姉さん。それは?」
そのうち、リミが置いてあった瓶を見つけた。
「もしかして、薬をもらってきたの?」
違う…
「ありがとう…リノ姉さん。綺麗なお薬ね…ゴホッゴホッ!」
違う!
「すごく…綺麗でしょう?でも…」
これは毒。
私が飲み、罰をうけるべき毒。
「じゃあ早速リタに飲ませないと!」
リミがあっという間に瓶を奪い蓋を開けた。
いきなりの出来事に、私は反応がおくれた。
リミがこんな行動をとったのには理由がある。
私が、あの人との交渉は順調。作るのに時間がかかっている。などと言ってしまっていたからだ。
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
私はテーブルを蹴倒して、必死に妹2人に近寄ろうとした。
狭いボロ小屋だ。
数十センチ程しかない距離。
それがあまりにも遠かった。
リミが、リタの唇に瓶を当てると、リタはリミに促されるままに毒を口に含んだ。
そして、あの美しい毒を飲み干してしまったのだ。
私はその場で崩れ落ちた。
私のせいだ。
私があの毒をテーブルに置かなければ。
私が帰る途中に廃棄しておけば。
私が貰った時に突き返しておけば。
私があの人を拐ったりしなければ。
私があの人を拐ったりせずに、正直に頼んでいれば。
私が交渉は順調などと嘘をつかなければ。
私は妹を失うことはなかったのだ。
私もすぐに後を追うべくナイフを取り出した時、
「美味しい!エリプ(りんご)の味がする!」
リタの嬉しそうな声が聞こえてきた。
死んでない?
そんなはずはない!
あの人は毒だといった!
「リタ。身体はどうだ?」
「凄いよ♪もうどこも痛くないの!」
はしゃぐ妹達を見て、もしかして死ぬまでのタイムラグなのかとおもった。
しかし、そうはならなかった。
身体中にあるどす黒い斑点が綺麗に消えていた。
身体を動かしでも痛そうにはしていない。
つまり。
あの美しい毒は、本当は薬だったのだ。
ならばなぜ、毒だといったのか?
それは、あの場に男爵がいたからだ。
もし薬だといえば、確実に取り上げられていただろう。
なぜ妹の病気が解ったのか?
それは、あの人のところに頻繁に出入りしていたごろつき達に、身体を差し出して聞いていたからかも知れない。
なぜ、男爵がいないときに真実を話してくれなかったのか?
あの屋敷のなかでは、誰が聞き耳を立てているかわからなかったからだ。
気がつけば、私は泣いていた。
妹の命が助かった嬉さ。
あんなことをしたにも関わらず、妹の為に薬をくれたあの人への感謝と罪悪感で泣いていた。
あの人は必ず、宮廷薬師の任命式典にひっぱりだされる。
そして間違いなく宮廷薬師に任命され、その一生を男爵にもてあそばれるのだ。
助けたい。
そう決意した私は、妹達に
「ごめん。ちょっと出かけてくる」
そう声をかけてから、ゆっくりと立ち上がった。
「リノ姉さん?」
「姉さん。せっかくリタが治ったのに…」
妹達は、出ていこうとする私に不満そうになる。
しかし、私は行かないといけない。
「治ったからこそ…。出かけてくるの」
「わかった…行ってらっしゃい…」
一連の事を知っているリミが、なにも聞かずに送り出してくれた。
私は家をでると、真っ直ぐあるところに向かった。
あの人、ヤムさんを助ける事が出来る人。
宮廷薬師の任命式典に必ず参加する人。
間違いなくあの男爵より偉い人。
国王陛下のいる王城へ…
誤字報告本当にありがとうございます。
どうして気がつかないんでしょうねぇ…
今後の展開をどうしようか悩んでいます。
もともとは、謁見の場で参列していた隣国(友好国)の第二王子に実力を看破され、『この子が宮廷薬師じゃないならうちがもらっていいよね♪』と、脅されたため仕方なく宮廷薬師にされたのち、『実はうちの国で疫病が流行りそうだから協力してね♪』と、ドナドナされていく展開だったのですが、太陽の名前を冠する忌々しい菌のことを考えてボツにしたためです。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




