第60話 支払わされる対価
ちょっと短めです。
「…解除」
サヘラさんの詠唱が終わると、『隷属の首輪』はカチャリと音を立てて外れた。
「ふう…」
「大丈夫かい?」
「はい。ご心配おかけしました」
お説教をされるかとおもったけれど、サヘラさんは黙って頭を撫でてから自分のいたところにもどり、『隷属の首輪』は兵士が回収していった。
そうして改めて国王陛下にむきなおると、
「さてヤムよ。お前はなぜザザーコ男爵の庇護をうけている?」
改めて質問が飛んできた。
なので今度は、きちんと返答する。
「ザザーコ男爵に『隷属の首輪』をつけられ、従わされていたからです」
すると、ザザーコ男爵がいきなり大声をあげた。
「だとしても問題はございませんっ!そいつはメセの街に居たころから儂の配下で、メセでの功績も儂の命令によるものなのです!その首輪はそのころから装着させていたのです!」
この状態で信じてもらえると本気で考えているのが、滑稽を通り越して恐怖すら感じてしまう。
そこに、公爵閣下が前に踏み出てきた。
「それはおかしいな?私が陛下と一緒に昨年の年末に、サヘラ様のところでこのヤムと出会っている。そのときにはあんなものは着けていなかった」
「なっ…」
公爵閣下の発言には、その場にいた貴族達も驚いたが、それ以上に驚いたのが男爵だった。
直ぐ様僕の方を睨むが、その事は聞かれなかったから答えていないだけだ。
「それになザザーコ男爵。貴様がなにをしたかはすでに調べがついているのだよ」
そう囁いたあと、人混みの方に視線を向ける。
その公爵の視線の先には、公爵の部下が同行しているリノの姿があった。
その姿をみて、男爵は怒りに震えていたが、取り押さえられているために、身動きすら出来なかった。
さらに国王陛下が追い討ちをかける。
「ザザーコ男爵。我が国では正式な手順を踏んだ経済奴隷と犯罪者奴隷以外は許可しておらん。人攫いをして奴隷にする行為は、例え貴族であろうと極刑に処するという、我が国の法を知らぬとは言うまいな?」
「ぐっぐぅぅぅぅっ!」
国王陛下の言葉に、男爵は呻き声をあげながら身体を震わせる。
「さらには偽者を立てて余を欺こうとした事も忘れるなよ?連れていけ。沙汰は追って下してやる」
「お待ちください!その娘が本物なのは間違いございません!」
国王陛下のドスの効いた言葉に怯むことなく、男爵は身体をよじりながら訴えかける。
「見苦しいぞ!神妙にするんだな」
「陛下!何とぞ御再考を!陛下ぁ!」
兵士に引きずられていく男爵を、半数が怒り、残りの半数が嘲笑の表情を浮かべながら見つめていた。
男爵の姿が消えると、国王陛下が僕に向き直り、
「ヤムよ。今宵はサヘラの屋敷に戻って休むがよい。そなたへのもろもろは明日にしよう。とはいえあの男爵の配下に、一時的とはいえ入っていたのだ。身の潔白を証したいなら逃亡は許さぬ。よいな?」
「はい。陛下の御恩情有り難く存じます」
そう僕に釘を刺したあと、陛下はサヘラさんに視線をむけた。
「頼むぞ」
「お任せを陛下。ほら、行くよ」
それだけの軽い挨拶をかわしてから、サヘラさんは僕の手を引いて会場を出ていく。
「まったく手間をかけさせよって…」
「すみませんでした…」
サヘラさんは ため息をつきながらも優しい表情をしていた。
「帰る前に、菓子やら料理やらを作りおきくらいはしてくれないとね」
この台詞を聞くまでは。
なんとか解放。
犯人捕縛。
大喜びする偽者一行。
あとは足を滑らせるだけ…
大量に誤字を発見される今日このごろ…
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