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第59話 問答必要

おまたせしたしました。


リノに()を渡した翌々日の午前中。

僕は男爵に連れられ、城の内部にいた。


そこは、寸爵・男爵・子爵といった、王様に直接面会を申し込めない貴族の為の控えの大広間だった。

男爵は貴族の礼装。

僕は自前の服の上に、白いフード付きのマントを羽織らされ、フードを被らされていた。

「くそっ!未来の大侯爵たるこの儂をこんなところに押し込めよって…」

男爵は、自分自身の不当な扱いに不満を漏らしていた。

「だがまあそれも今日限りよ。貴族共はもちろん、国王陛下すらこの私のご機嫌伺いにやって来るようになるのだからな!」

使用人の人から聞いた話だと、男爵が自分の派閥に入れようと声をかけた貴族全員にまともに話を聞いてもらえず、爵位が上の貴族からは門前払いを食らったらしい。

そのためか、回りの貴族やその従者から、蔑むような視線が飛んできているのだ。


「皆様!式典が開始されます!許可のある方は謁見の広間へ!それ以外のかたは、お庭の方へお願いいたします!」

そのうちに係の兵士がやって来て、式典の開始が告げられる。

大多数の貴族は庭へ、そしてほんの一握りの者が謁見の広間へ移動する。

そして謁見の広間へ向かう者を、庭に向かう者達が、羨ましく、苦々しく、恨めしく、悔しく思いながら睨み付けていた。

そのなかで、ザザーコ男爵は許可がないにも関わらず、平然と謁見の広間へむかった。



式典は、まさに式典といったプログラムで進んでいく。

宰相閣下の開催のお言葉に始まり、何人もの大臣の挨拶、友好国からの祝辞の手紙など、定番のラインナップが続いた。

しかも、進行役の宰相閣下・王族一家・公爵一家・侯爵本人以外は膝をつき、決して顔を挙げてはいけないことになっているためなかなか大変だ。


そして、

「では最後に、ガルロン・ハグル・メルンケート男爵令嬢、フリジア・アイアナ・メルンケートに、宮廷薬師の称号を与える!」

僕の偽者が称号を手にしようとする寸前、

「お待ちくだいませ!」

男爵が、国王陛下の御前に飛び出していった。

即座に兵士達が男爵の前に立ちふさがったらしい足音が響いた。

「陛下!その者は偽者で御座います!」

「なに?」

国王陛下の驚きの声があがり、回りからもどよめきの声があがる。

そこをチャンスとばかりに、男爵は一気に畳み掛けた。

「たしかに、メセの街において活躍したという女薬師はおります。しかし、それはその女では御座いません。その女は、都市復興の優先を許されたゼルハンド伯爵がこの場にいないことを利用し、ダルスノン・バドゲン・パスメノス子爵が用意した真っ赤な偽者でございます!」

その発言に、貴族達はさらにざわつき始めた。

するとすぐに、

「なっなにを言うかっ!男爵風情が下らぬでたらめをぬかすなっ!」

パスメノス子爵が、おそらく真っ赤になって反論をしたのだろう。

「残念だがなパスメノス子爵。私は本物を連れてきているのだよ!『こちらへ来て陛下に(ひざまず)け』!」

隷属の首輪の効力で、僕はゆっくりと男爵の横まで移動し(ひざまず)く。

「おい!『フードを取って挨拶をしろ』」

「ヤム…と、申します」

僕はフードを取って頭をさげる。

その一瞬でみた国王陛下の顔は、サヘラさんの教え子だったという、フォルス・ダン・ドルロス子爵様だった。

つまりは、サヘラさんに騙されたという事になるのだろう。


緊張する僕と違い、国王陛下は堂々たる風格を醸し出しながら、僕に声をかけてきた。

「ヤムよ。そなたが、メセの街で大量のハイポーションを制作し、治癒魔法で治療をしたのか?」

「おい!『お答えしろ』」

「はい、陛下。その通りでございます」

「話によるとそのハイポーションは極上品であったと聞く。その技は誰から習った?」

「おい!『お前の師匠は誰か答えろ』」

「私の師はチギト。今は神のみもとにおられます」

このチギトという名前は、智嚢神様・技能神様・闘神様の頭文字をとった名前だ。

所在も、神のみもとにいると答えれば、すでに亡くなったのだと勝手に解釈してくれる。

神のみもと。最高神様のところにいるのだから、嘘は言っていない。

「なぜザザーコ男爵の庇護を受ける事になった?」

「おい!『どうしてお前が…』」

「まて、ザザーコ男爵。なぜそなたが娘に発言を促す?余はその娘自身の発言が聞きたい」

「ははっ…」

国王陛下が、質問する度に男爵がいちいち許可を出しているのを(わずら)わしく思ったらしく、男爵に口を出さないように命令する。

そして改めて僕に向き直り、

「ヤムよ。なぜザザーコ男爵に庇護を受ける事になった?」

同じ質問をしてくるが、男爵の許可がないために、話す事ができない。

当然それは不敬なことであり、パスメノス子爵が声を上げた。

「陛下がお尋ねになっているのに、無言とは無礼な!」

しかしながら国王陛下はそれを手を掲げて制止させ、

「誰かその娘のマントを剥ぎ取れ」

僕の身に付けていた白いフード付きマントを剥ぎ取るように命じた。

そうして宰相閣下がマントを剥ぎ取ろうとすると、

「『抵抗しろ』!」

という、男爵からの命令が発せられ、僕はマントを剥ぎ取れないように押さえた。

それを見た国王陛下は、

「ザザーコ男爵。次に勝手な発言をしたら容赦はないと思え」

と、男爵を睨み付けた。

「ははっ!」

男爵は頭を下げたまま、ぷるぷると震えていた。

国王陛下は戦士として超一流の腕前だと、サヘラさんとの食事会の時にうかがった記憶があった。

固太りで明らかに運動の苦手そうな男爵では迫力負けだ。


そして再度、宰相がマントを剥ぎ取ろうとした時、

「おい!『じが』ごぶうぅぅっ!」

僕に、物騒な命令をしようとした男爵の口に、騎士の鎧を着た人が、金属製のブーツで蹴りを入れた。

男爵は折れた歯を飛ばしながら、床に転がり、そのまま兵士に押さえられた。

「申し訳御座いません陛下。ザザーコ男爵が勝手に発言をしようとしたので」

騎士の鎧をきた人は、礼をしながら平然とした顔をしていた。


そうして宰相閣下にマントを剥ぎ取られた僕をみて、回りがざわついた。

「やはりな…誰ぞはずせるか?」

国王陛下は厳しい顔をし、配下の人達を見回した。

「儂がやろう」

そこに出てきたのは、サヘラさんだった。

僕はその姿を見て、ちょっと嬉しく、そして安心した。

男爵からの解放寸前です。


R18版は鋭意製作中です。


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします。

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