閑話 10
おまたせ致しました
リーフェン王国貴族・トーマス・フェルバリー・モーリフェノスの視点~
建国記念の宴の会場の王城の大広間での立食式のパーティー。
その会場で、私は壁際で果実水を飲んでいます。
はっきりいってこういったパーティーは苦手です。
部屋で本を読むか、色々なところにいって見聞を広める方が余程楽しいと言うものです。
「皆様、国王陛下のお成りに御座います」
係りの者が陛下の登場を告げると、全員が頭を垂れます。
「皆楽にせよ。此度は我がリーフェン王国の建国記念の宴によく集まってくれた。これからもこの国の発展のために、余は尽力する覚悟である!乾杯!」
陛下の音頭で、全員がグラスを掲げます。
その乾杯が終わると、間を置かずに、2人の人影が陛下に近づいて膝をつきました。
1人は中年の男性、1人は若い女性でした。
「陛下。お時間をよろしいでしょうか?」
「おお。そうであったな」
陛下は近くにいた係りのものを呼びつけ、
「皆様!陛下よりお言葉がございます!」
近寄った2人の内、若い女の方を御自身の横に立たせました。
「この者は、先だってメセで発生したモンスタースタンピードのおり、薬師ギルド長の指示のもと、極上品のハイポーションとハイマジックポーションを大量に生産して提供し、その絶大な治癒魔法で数多くの者達の命を救うという功績を成し遂げた者だ。
名をフリジア・アイアナ・メルンケート。メルンケート男爵令嬢だ。この者には、年明けに宮廷薬師の称号を授けようと考えている。そしてこの者に指示をしたのが、メセの薬師ギルド長、ダルスノン・バドゲン・パスメノス子爵だ」
私は陛下のその言葉を聞き、自分の耳を疑いました。
そして、陛下がまだ話しているのを他所に、父、クゼル・アーロレス・モーリフェノスの元に向かいました。
「父上。ちょっとよろしいですか?」
「どうしたんだいトーマス?君が壁から離れるなんて珍しいじゃないか」
「とにかくこちらへ」
私は、呑気な様子の父を会場からはなれた場所に連れていきます。
父上を連れてきたのは、中庭の渡り廊下。
ここなら誰かが接近したら直ぐにわかります。
「いったいどうしたんだい?」
「父上。あの薬師の娘なんですが、あの功績はでっち上げです!」
「…」
自分としてはかなり重要な発言をしたつもりだったのですが、父上は私の言葉に反応することなく、細い目を私に向けてきます。
「メセでモンスタースタンピードがあったのは事実です。ですがメセの薬師ギルドは第一報が入った瞬間に、全ての財貨や薬を持ってメセから逃げ出しているんです。冒険者・商業の両ギルド。街の人達の証言から間違いありません」
私は真実を述べました。
すると父上はにこりと笑い、
「そのあたりはすでにつかんでいるよ」
事も無げにそう言いました。
「ではなぜあの者達を…そうか!」
その発言に私は抗議しようと思いました。
が、直ぐに父上の思惑が理解できました。
「さすが我が息子だね。その通り、影武者にしておくのさ。フリジア嬢もパスメノス子爵も惜しくないからね」
「陛下も御存じなので?」
「もちろん。でも問題があってね。本物が見つかっていないんだよ」
どうやらこれは、父上を驚かせる事ができそうです。
「でしたら運が良かったですね父上。私は本物であろう娘と、定期便で乗り合わせましたから、彼女は今王都にいるはずですよ。詳しいことは商業ギルドにいけばわかるはずです」
「なんだって?本当かい?」
父上が細い目を見開いて私に詰め寄りました。
「これを見てください。御自慢の鑑定用の眼鏡で」
「飴?」
父上は、懐から出した眼鏡で、私の取り出した飴を手にとって眺めました。
『耐寒飴・極上品:蜂蜜とガジンの根っこ(生姜)とレジルスの果汁で作った飴。口に含んでから溶けるまでの30分と、溶け終わってからの 2時間30分の間、身体が暖まり、寒さをあまり感じなくなる』
父上は大きくため息をつくと、飴を袋に戻し、
「なるほど…こんなものが作れるなら、本物と思いたくなる」
眉間を指で押さえます。
これは、父上が考え込む前の癖です。
「もし本物でなくとも、確保しておくべき人材ですよ父上」
「とりあえず陛下に報告しよう」
父上と2人で陛下の元に向かおうとしたとき、不意に後ろから声がかかりました。
「それなら私もいっしょにいいかい?」
「サヘラ先生!」
「サヘラ様!」
その声の主は、元・王宮魔道師であり、3代前の魔道師団長であり、現・国王陛下の元・教育係でもあり、王妃様・公爵夫妻・我が父上の魔法の教師であり、現在は我が国の商業ギルドマスターを務めるサヘラ・フェテセイロ・アルセルフ様でした。
「ちょいと国王陛下に土産があってね」
私も子供の頃から可愛がっていただいているのですが、この方のにやっとした笑いは、子供のころからなぜか苦手です。
~リーフェン王国国王 フォルス・ダガード・セルプセスの視点~
俺は馬車にのりこんだあと、暫く進んでからクロードに声をかけた。
「…どう見る?」
どう見るというのは、サヘラ婆さんの家で俺達に料理を振る舞ったヤムという娘のことだ。
「野心はありませんね。誰かと繋がってる様子もない」
「むしろ貴族王族とは距離を置きたい…か」
サヘラ婆さんから渡された土産の製作者で、メセの街に大量の極上品ハイポーションを提供し、救護所で治癒魔法を駆使して怪我人を治療していたという薬師ヤム。
その人となりを見るため、こうして身分を偽って夕食を共にしたのだ。
「それと、ポーションと治癒魔法以外の価値も見せてくれましたしね」
妻ウェルナの弟であるクロードは、子供のころから頭がよく、人を見る目も確かなため、今回のことに同行してもらっていた。
こいつが問題ないと判断するのならば、あの娘の人格や思想に問題はないのだろう。
「たしかにあの料理の腕だけでも、手近に置いておきたくはなるな」
土産もそうだが、今回俺達に出された食事も驚愕に値するものだった。
宮廷の晩餐会に出しても遜色ない、むしろこれが出されるから晩餐会に参加する。
そういっても過言ではないほどの素晴らしいものだった。
「ストーンダル男爵が知ったら突撃しますね確実に♪」
あの旨い物に眼がないあの男のことだ、間違いなくそうなるだろう。
商業ギルドで発行されている『ストーンダル男爵の美食探訪』は城内にも愛読者が多い。
「それだけに、狙われるわね。国内の者にも他国にも」
ウェルナは、土産に貰った袋を開け、中身を覗いてにやにやとしている。
その中からは、甘い匂いが漂ってくる。
だが、その指摘は甘くはなかった。
「ならやはり、あの偽者には頑張って貰わねばな。監視は怠るな」
「わかっております陛下」
クロードは臣下の礼を返してくる。
こいつに任せておけば、問題が起きたとしても対処は可能だろう。
だが、我妻に関してはなんとも不安がぬぐいきれない。
「ウェルナ。とくにお前は注意しろよ?あの娘がお前に怯えて他国に逃げ出したら国益を損なう」
「しないわよ!良い子だったし、貰ったお土産も美味しそうだし♪」
「菓子の為にむやみに呼びつけるなといっとるんだ…」
我が妻ウェルナは、子供のころから一緒にサヘラ婆さんの授業を受けた仲だが、その頃から奔放な性格だった。
それが頼もしくもあり、不安でもある。
「ともかくあの娘はそっとしておいて、身代わりを上手くつかいましょう」
下手に刺激をして、我が国を見限られては甚大な損害だ。
で、あるからこそ、あの娘に危害を加えそうな連中への迅速な対応が必要になってくる。
「なあクロード。子爵のやつは、浮かれて階段で足でも滑らさねばよいな」
「左様ですね。身に余る光栄に舞い上がってしまって、足を滑らせるということは良くあることですからね」
俺の心配事にクロードは共感する。
それはつまり、いずれ子爵は足を滑らせるということだ。
「美味しい!濃厚なキムルと卵の甘さがたまらないわ!」
しかし、その緊張感を我が妻が見事に壊してくれた。
「姉上!1人で勝手にたべないでください!」
「1つくらいいいじゃないの!」
ちなみに菓子を巡っての姉弟喧嘩が、未だに勃発するのが俺の悩みの1つだ。
大半の方が予想していたとおり、お偉いさんのお客さんでした。
毎回キリのよい所で止めるようにしているのですが、文字数が安定しません
今地元でお祭りをしていて屋台がでているのですが、それを見て露店のでている町並みを想像しながら歩いてみました。
やっぱりドネルケバブはモ○ハ○のこんがり肉チックでした。
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