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第46話 初めての旅行⑦ やってはいけないこと

何とか捻り出しました

翌朝。

親子が捕縛されてからは、全員の顔が明るくなっていた。

これ以上、あの我が儘放題の言動を聞かなくて良くなったからだ。

とはいえ、収監された馬車の中からは、やかましく声が聞こえてくるが、すぐに静かになっていた。

そのお陰もあって、起床してから昼食休憩まで、実に穏やかな時間が過ぎていった。


その昼食の休憩地に到着した時、冒険者と御者の両方の責任者が、僕のところにやってきた。

「ちょっといいだろうか?」

「はい。なんでしょうか?」

「初日に飴をいただきましたよね?」

「ええまあ」

「まずはそれについて礼を言いたい」

「あの飴のお陰で、随分と快適に過ごさせてもらいました」

「オークの襲撃時も機敏に動く事ができた。感謝の言葉もない」

「いえ。私が勝手にしたことですから」

2人とも、お礼を言っているにしては、奥歯に物が挟まったような話し方をしていた。

が、その理由はすぐに判明した。

「その…非常に申し訳ないとは思うのだが…あの飴を売っていただけないだろうか?」

「最初にいただいた分の代金も支払いますので、何とかお願いできませんか?」

どうやらあの飴は、随分と気に入って貰えたらしい。

「すみません。残りが10個しかないのですが…」

本当のことをいえば、一晩あれば用意できるのだけれど、それは余りよろしくないので黙っていることにした。

「では、それだけでもいいので売ってもらえないだろうか?」

冒険者リーダーの女性が僕の手を掴んで、売ってくれるようにお願いしてきた。

なので、馬車の人達と同じく、1つ30クラムで譲ることにした。

もちろん最初に渡した飴の代金は請求しなかった。

あれは僕の自己満足のために行っただけなのだから。

しかし、こんなに気に入って貰えたなら、商業ギルドに商品として卸してみてもいいかもしれない。


そんなやり取りをしている最中。

不意に大勢の足音が近付いてくる音が響いた。

「盗賊団だ!」

「お客さん達は馬車の中に!」

見張りの声が響くと、御者さん達がお客さん達を馬車に避難させた。

冒険者達は直ぐ様迎撃体勢を整えた後、

「魔法及び遠隔攻撃開始!」

即座に先制攻撃をしかけた。

「ぐわあっ!」

「ひいっ!」

それらが命中した盗賊達は悲鳴をあげながら倒れていく。

僕も少しは手伝おうと、威力を最小限にしぼった『魔法弾』を20発程同時に発射した。

たしかこういった盗賊などは、首実検をして報酬がでる仕組みのはずなので、胴体を狙ってみた。

気絶したのもいれば、吹き飛ばされただけの連中など、威力を絞りすぎたために、倒れない連中もいた。

ならばもう一発と思ったが、冒険者達が斬り合いを始めたので、射つのを止めた。


それから十数分と立たずに、盗賊達は全員が捕縛ないしは殺害されていた。

捕縛された盗賊は貨物用の馬車の屋根にくくりつけられ、冒険者の魔法で眠らせられた。


その様子を眺めていた時、後ろに人の気配を感じた次の瞬間、僕の首筋にナイフがあてられた。

「動くな!大人しく俺の言うことを聞け!」

その人物は、一緒に乗っていた気弱で人の良さそうな細身の行商人のおじさんだった。


そのおじさんの声に回りの人達が気がつき、乗客達も馬車を降りてきた。

「近寄るな!」

直ぐ様、冒険者達が僕とおじさんを取り囲むと、おじさんは僕の首に腕を回し、ナイフで周囲を威嚇する。

「まずは盗賊達を全員開放してたたき起こせ!」

その言葉に、全員が驚愕する。

その言葉の意味するところは、このおじさんが盗賊を引き込んだという、紛れもない事実なのだから。

「そんなことができるわけはないだろう!」

おじさんの理不尽な要求に、冒険者のリーダーの女性は要求をつっぱねる。

護衛としては、その要求は絶対に飲むことは出来ないだろう。

開放すれば、盗賊達は間違いなく若い女性への暴行と、乗客への殺戮を始めるからだ。


「どうしてこんなことを?」

僕はおじさんの腕をつかみながら、こんなことをした理由を訪ねてみた。

「この定期便で運ばれている荷物を奪うのが当初の目的だ。だが、お前がメセの街で極上品のハイポーションを大量に作っていたのをたまたま目撃していてな、お前を捕まえてポーションを作らせれば、さらに大金が手に入るんだ!もう貧乏行商人なんていわせるものか!」

興奮するおじさんの腕に力が入る。

「金持ちの商人の家に生まれたってだけで、目利きも仕入れも販売もしたことのないボンボンが一流の商人きどりやがって!この商品の買い付けも部下に丸投げの癖に自分が目利きしたとかぬかしやがって!」

怒りを思いだし、理由以外もぺらぺらと話し始めた。

「お前だって!自分の手柄をあいつに盗まれてばかりでムカついているといってただろうが!」

おじさんは、1人の若い商人にナイフと視線を向けて怒鳴ると、若い商人は視線を反らしてしまう。

どうやらあの若い商人が、このおじさんが憎んでいる人物の商会の人間なのだろう。

「だがこれで、あいつの信用はがた落ち。目撃者は殺すか奴隷として売り飛ばす。おまけに金の成る木も手に入った!これで俺も一流、いや、超一流の大商人だ!さあ、早く盗賊達をたたき起こせ!」

おじさんは、愉悦に満ち満ちた表情で笑い、冒険者達や御者さん達に命令をした。


このおじさんの気持ちはよく解る。

自分はどれだけ努力をしてもむくわれない。

それとは対照的に、なんの努力もしていないのに他人から評価される人がいる。


前世の僕と同じ状況だ。


でもだからといって、人の道を外れるのは良くないことだ。

「お気持ちはわかります。でも、こんなことをしてしまっては駄目でしょう」

僕は掴んだ腕から、おじさんの精気を吸いとった。

「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

するとおじさんは、怒鳴りながらぐったりと倒れこんでしまった。

おじさんはすぐに冒険者に捕縛され、盗賊達と同じように貨物用の馬車にくくりつけられることになった。


縄を掛けられているおじさんをみつめながら、僕も一歩間違っていたら、ああなっていたのかもしれない。

それを考えると、切なくなってしまった。

盗賊の扱いは、多くの作品でモンスター同様の扱いをされていますね。

やることがえげつないからなのかなと考えてしまいます。


かなり寒くなってきました。

温かくしてお過ごしください。


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします



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