第44話 初めての旅行⑤ 相手の喜ぶ差し入れ
お待たせ致しました
翌朝。
トーストに目玉焼きにベーコンにイチゴジャムにコーヒーという朝食を終えてからテントをでると、雪は止んでいたが、昨日の雪は残っていて、直ぐにでも振り出しそうな天気だった。
外へでて神様のテントをしまい、自分の乗る馬車に向かう。
その途中、見張りの冒険者以外の殆どの人達が、あの親子を睨み付けるか、関わらないように顔を背けていた。
まあ、当然ではある。
あれだけの迷惑行為をしておきながら、平然と焚き火に当たり、反省する様子もなく、大声で会話をしているのだから。
僕も彼等を無視し、自分の乗る馬車に乗り込んだ。
馬車には、商人同士でなにやら話し合いをしている行商人のおじさん以外の全員が乗り込んでいた。
「おはようございます。皆さんお早いですね」
「わしらは馬車で寝泊まりしておったからのう。夜具を片付けるくらいじゃ」
「おじちゃんが寒くなくなる魔法をかけてくれたんだよ!」
若旦那さんがかけた結界の魔法は、夜営地につくと同時に効果が切れた。
僕と行商人さんと若旦那さん一行は馬車を降りていたが、若旦那さんがそんなことをしていたとは知らなかった。
「あの親子に見つからないようにかけたけど、大丈夫でしたか?」
若旦那さんは、女の子におじちゃん呼ばわりされている事にショックをうけているようだが、護衛の狼獣人の女性はくすくすと笑っていた。
ちなみに若旦那さんは、見た感じ20代半ばくらいとだけいっておこう。
「はい。お陰で何事もなく」
老婦人は嬉しそうに若旦那さんにお礼を言う。
そんな和やかな会話をしているうちに、出発の時刻になった。
出発した後、ちょっと風防の布から顔をだし、近くを馬で並走している冒険者に声をかけた。
「すみません」
「どうかしましたか?」
その冒険者は、初日の昼に子供を捕まえていた女の人だった。
「あの親子って先頭の馬車ですよね?」
「はい。そうですが」
「じゃあこれを、外にいる護衛の人や御者の人達に配ってもらえますか?」
僕は大きめの袋を彼女に差し出す。
「なんですかこれ?」
袋を受け取った彼女は、不思議そうに袋を眺める。
「蜂蜜とガジンの根っこ(生姜)とレジルスの果汁で作った身体が暖まる飴です」
雪が降り、冒険者の人達や御者の人達が寒そうにしていたので、昨晩に制作しておいたのだ。
本当は柚子なのだが、柚子に近い柑橘がなかったので、レジルスということにした。
すると、その女性冒険者の目の色が変わった。
「飴?あの甘い飴ですよね?」
「そっそうですけど…?」
「ありがとうございますぅ♪」
彼女は、歓喜の声を小さくあげると、さっそく袋から飴をとりだして口に入れる。
すると、その顔は実に幸せそうに緩んでいった。
「ん~♪やっぱり甘いものは最高です♪」
その幸せそうな顔のまま、馬がゆっくりと離れていった。
それを見届けて幌を閉めると、若旦那さんと商人さんが声をかけてきた。
「失礼ですが、先ほど何を渡されたんですか?」
「蜂蜜とガジンの根っこ(生姜)とレジルスの果汁で作った飴です」
「ちょっと見せていただいても?」
女の子は反応しなかったのに、大人の男性2人が反応してしまった。
まあ商人としては気になるのかもしれない。
まだ在庫はあったので、1つ30クラムで売ることにしてみた。
無料だと、もし話が漏れた時には、あの親子が絶対に突貫してくるに違いないからだ。
商人2人は1人30個、護衛の狼獣人の女性と老夫婦は10個、女の子と母親は5個買って、1つづつ口に放り込んでいた。
それ以降は何事もなくすぎていき、昼食休憩となった。
あの親子は、冒険者と御者に監視されていたため、騒動はおきなかった。
ちなみに昼食のメニューは、クローペ(コッペパン)にローストしたソーセージと玉ねぎとレタスを挟んだホットドックに紅茶だった。
休憩も終わって出発すると、商人さんがあの親子と一緒の馬車にいる商人仲間から、彼らの行動を聞いてきたらしく、詳しく話してくれた。
その内容は、
他の客の荷物を勝手に開ける。
注意すると、ちょっと借りただけだと逆ギレ。
子供は悪態をついたり暴言をはいたり暴れたりするが、親は注意しない。
とがめると、子供のすることにいちいち腹を立てるなと逆ギレ。
あげくの果ては、馬車を自分達専用にするから出ていけ。
と、聞いているだけで気分が悪くなってくるものだった。
そんな話をしていると、不意に冒険者達が慌ただしくなった。
思わぬ差し入れは嬉しいものですが、時々名状しがたい物を差し入れてくる人がいます…
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