第43話 初めての旅行④ 神様のテントの実力
なんとか書き上がりました
昼食休憩も終わり、一行は王都に向かって出発する。
馬車の中では、あの我儘親子に対して、狼獣人の女性がかなり憤っていた。
「まったく!親も親なら子も子だ!旅の間の大事な食料を盗み回るとは!十分犯罪行為じゃないか!どうして放り出さないんだ!?」
「金目の物じゃなかったのと、死人や怪我人がでなかった事と、あんまり簡単に放り出すと、御者側が身ぐるみ剥いで放り出したって思われるからだよ。盗んだのが金目の物だったり、死人や怪我人をだしたら一発アウトだけどね」
その憤る狼獣人の女性を、若旦那さんが本から眼を離さずに諫める。
「あの旦那さん。たしか港街の大きな商会の次男で、大分評判の良くない人だったはずですよ」
気弱そうな行商人のおじさんが、あの親子の情報を話してくれた。
「お母さん。雪が降ってきたよ!」
そこに、女の子の声が響く。
外を見ると、大粒の雪が舞い降りてきていた。
「あらほんと。じゃあ寒くなるから幌を閉めなさい」
「はーい」
女の子は幌を閉めると、母親の横におとなしく座った。
すると狼獣人の女性が、本を読んでいる若旦那さんをつつき始めた。
「若旦那」
「…」
しかし若旦那さんは夢中で本を読んでいる。
すると狼獣人の女性は、若旦那さんの読んでいる本をとりあげた。
「うわあ!なにするんですか?!返してください!」
本を取り上げられた若旦那さんは、狼獣人の女性に向かって声をあらげる。
しかし狼獣人の女性は慌てることなく話を始めた。
「雪が降ってきました」
「そうみたいだね」
「結界をお願いします。あれなら寒さが遮断できますよね」
「え~めんどくさいですよ」
若旦那さんは嫌そうな顔をする。
話を聞いている限り、どうやらこの若旦那さんは魔術師でもあるらしい。
狼獣人の女性は、取り上げた本を突き付け、
「やらないと本を全部燃やして暖をとります」
と、宣言すると、
「やらせていただきます」
若旦那さんは見事な土下座を披露し、精神魔法(無属性)魔法の『結界』を発動した。
魔法が発動すると、馬車内の寒さが軽減された。
「ありがとうございます」
「ありがたいわぁ」
「おじちゃんありがとう!」
全員が若旦那さんにお礼を言う。
女の子のおじちゃん呼びにはショックをうけたようだけれど。
それから夕方近くになって夜営地に到着した。
馬は、餌と水をたっぷりやったあと、木に繋ぎ、回りに木の杭を打ち、布を張り巡らせる。
馬車は円陣をくませる形で停車、その円陣の中は綺麗に除雪され、その雪で円陣の縁に壁を作り、風避けにする。
除雪は、御者と冒険者とお客さんの有志が実行する。
子供達は雪遊びと大差はなかったけれど。
それだけの作業が終わると、ようやく夜営が開始される。
テントを立てたり、馬車のなかでの寝泊まりの準備をしたり、冒険者は見張りをするための準備もしている。
僕は神様のテントをだして中に入り、夕食の準備をする。
すると暫くしてから、外から声がした。
「くそっ!なんでドアに触れられないんだよ?」
「魔道具だから中は絶対快適なはずよ!」
どうやらあの親子が僕のテントに不法侵入をしようとしているらしく、テントの結界をバンバンと叩いている。
技能神様からもらったこの携帯型ピラミッドハウスは、見た目はドアのついたタイプのピラミッド形のテントにしか見えないが、中は広く快適なうえに、持ち主である僕が許可した者しか入ることは出来ない。
さらにはどの様な攻撃だろうと、傷も埃もつくことはない。
例えエンシェントドラゴンの攻撃であろうと。
なので、人間が勝手に入ってこれるわけがない。
「あのひょろそうなのには護衛の犬獣人がいたが、こっちは女1人だからな。脅せば楽勝だ!」
「ママーお腹すいた」
「ちょっと待っててね。すぐに用意させるからね」
外の会話を聞き、頭が痛くなった。
むしろ感心すらしてしまった。
よくまあここまで自分勝手な考え方が出来るものだ。
そして、前世の兄だった人物は、常にこうだったのを思い出す。
どうせなら人生初、きっちり怒鳴り付けて、魔眼で黙らせてやろうとドアを開けた。
しかし。
ドアをあけてみると、その親子は、何人ものお客さんと冒険者と御者に囲まれていた。
「いい加減にしろよあんたら!他人のテントに勝手に潜り込もうとしやがって!」
「昼間もいったはずですがね?いったいどういうつもりだ!」
「このまま盗賊の引き込みと判断して、放り出したほうが良いのかもしれないな」
お客さん達と御者さん達は憤慨していて、冒険者リーダーの銀髪の女性も厳しい表情をしていた。
だが親子は反省する様子はなく、自分達が追い出される瀬戸際なのに、未だに身勝手な主張をしていた。
「俺達には子供がいるんだぞ!テントで寝かせるべきだろうが!」
「それに勝手に入っちゃ駄目ってことは、あの女が許可すれば入っていいのよね?」
母親は、僕がテントからでてきたのを見つけると、自分達を取り囲んでいる人達にそう主張した。
そして僕を睨み付けながら近寄ってきて、
「あんたのテントを使わせなさい!」
と、言ってきたので、
「お断りします」
と、即座に断った。
前世なら承諾してしまっただろうが、今の僕ならしっかりと断ることが出来るようになった。
「こっちには子供が居るのよ?!」
「他にも子供はいますが、誰1人テントを使わせろとは言ってきていませんよ?」
そう、母親と押し問答しているうちに、子供が僕のテントの方に走っていった。
「テントが落ちてたからもーらい!」
そしてテントに入り込もうとドアに突っ込んだ。
が、
「ぎゃあっ!」
結界に阻まれて顔面を打ち付けた。
おそらく、僕が外に出ているから入れると思い込んだんだろう。
「うわーん!痛いよー!」
「ちょっと!うちの子になんてことするのよ!」
「慰謝料としてテントと食い物をよこせ!」
勝手に結界にぶつかり、その上テントを盗む気満々だったくせに、完全な被害者面をしている。
呆れすぎて感心してしまった。
なんというか、ファンタジーの世界の我儘貴族というのは、こんな感じなのだろうかと。
しかしこの親子は平民なので、貴族はこれ以上なのだろうかと考えると、嫌な気持ちになってくる。
「お断りします」
もちろん、要求に対してはNOを突きつけた。
「この…」
父親が僕を殴り付けようとしたとき、冒険者のリーダーの女性が父親の腕をつかんでいた。
「てめえっ!手を離せ!」
「これ以上騒ぎを起こすなら、この場で斬り捨てるが?」
「ちっ!くそっ!」
父親がリーダーを怒鳴り付けるが、彼女に睨み付けられると、妻と息子をつれて、舌打ちをしながらその場を離れていった。
「ありがとうございました」
「いえ、仕事ですから」
僕がお礼を言うと、リーダーの女性はにっこりと笑いながらその場を後にした。
にしても、僕が魔眼を使おうと思った時に、大抵邪魔が入るのはどうしてだろう?
旅行先で、まったく知らない他人が自分の部屋にズカズカと上がり込んできたらムカつくではおわりませんよね。
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