第42話 初めての旅行③ 悪い予感は当たるもの
お待たせをいたしました。
ようやく50話です
ありがとうございます!
冬の寒さが、馬車の中にまで入り込んでくるのに耐えながら、僕は幌の隙間から外の景色を見ていた。
遠くに見える山は、軽く雪化粧をし、街の外の農地は、収穫もすっかり終わっており、木は葉を全て落として、冬が過ぎ去るのを待っている。
それでも移動があるのは、このリーフェン王国の建国記念祭が、王都クルストンで開催されるからだ。
同時に魔物達の活動が鈍くなるため、寒いということを気にしなければ、移動は比較的楽になる。
もちろん絶対に出ないと言うことはなく、ゴブリンやオークなどは群れで襲ってくることがあるし、冬ならではの魔物が現れることもある。
さらに、人間の盗賊なら冬でも関係はない。
もちろん、騎士団や警備隊がときどき街道を巡回してはいるが、でないとは言いきれない。
それでも、前世も含めて初めての旅行は実にわくわくするものだった。
ちなみに同乗のお客さんは、
毎年建国記念祭を見物にいくという老夫婦。
王都クルストンで働いている父親に会いに行くという若い母親と5歳くらいの女の子。
仕事が終わって王都に帰るところだという、商会の若旦那とその護衛の狼獣人の女の人。
気弱で人の良さそうな細身の行商人のおじさん。
という顔ぶれだ。
老夫婦は静かに目を閉じてうとうとしはじめており、女の子は騒いだりする事無く、大人しく母親の横に座っている。
しかし出発前は大変だった。
乗る寸前に顔を合わせた瞬間に、
「あ!あの時のお姉ちゃんだ!」
と、抱きつかれてしまった。
そう、フォルミナの騒動の時に人質になっていた女の子だったのだ。
親子揃ってお礼をいわれ、照れくさい気持ちになったのは間違いない。
若旦那さんは本を持ち出して熱心に読みふけっている。
となりの狼獣人の女の人は諦めた顔をしているけど。
ときおり、藁を積んだ荷馬車とすれ違ったり、歩きの旅人を追い越したり、空を行く鳥の鳴き声が響いたりと、のんびりした光景が続いていた。
そのうち、昼食を取るための休憩となった。
僕は、朝に暖炉亭の厨房を借りて作ってきたサンドイッチ(照り焼きチキン・卵焼き・チーズレタストマト)と水筒の紅茶で、昼食を取っていた。
すると、横からいきなり手が伸びてきて、サンドイッチを入れたバスケットを奪い取ろうとしたので、慌てバスケットを確保した。
その犯人は、出発前に御者にいちゃもんをつけていた家族の子供だった。
「いきなりなにをするんですか!?」
少しきつめに声をかけたのだが、元々そういうのが苦手なためか、あまり迫力がなかったのだろう。
なのでその子供は、
「それなりに食べられそうだったから、俺が食べてやる!さっさと寄越せ!」
と、返してきた。
「あなたは自分のしていることがわかっているんですか?」
「うっさいなあ!さっさと寄越せよ!」
子供はそういって、バスケットを奪い取ろうとしてきた。
杖術をそれなりに身につけている身としては、殴り飛ばすくらいはできる。
が、相手が子供なのでどうしようかと思ったとき、子供がいきなり宙に吊り上げられた。
「わっ!なにするんだ?」
子供を吊り上げたのは、護衛の女性冒険者の1人だった。
金属製のブレストプレートにガントレットにレガース。
腰にはバスタードソード。背中には大きな金属製のラウンドシールドを背負っていた。
「捕まえましたよこのクソガキ!いろんな所から食べ物を盗んでいきましたよねぇ?」
そのポニーテールの、わりと整っている女性冒険者の表情は、怒りによって、地獄で見た獄卒鬼のようになっていた。
「盗んでない!勝手にもらっただけだ!」
「それを『盗む』と言うんですよ。私のパンも盗んでくれたんですから、覚悟してくださいねクソガキィィィ!」
どうやら彼女の私怨もまざってるらしい。
そこに、子供の両親がやってきた。
「ちょっと!うちの子になにしてるのよ?」
「護衛の癖になにしてんだてめえ!」
両親はいきどおりながら女性冒険者に詰め寄っていく。
しかし女性冒険者は一切ひるむことなく、
「あなた方の子供が、食べ物を盗み回っていたので捕縛したんですよ!」
と、子供の罪状を述べた。
「子供のやったことだろうが!」
「それは被害者が言うもので加害者が言うものではありません!」
「うちの子供は育ち盛りなのよ!」
「育ち盛りの子供なら他にもいますが、誰一人貴方の子供のような真似はしていませんが?」
両親はとにかく文句を言いまくるが、女性冒険者は冷静に反論している。
どう考えても、冒険者の彼女がいっていることの方が正しいのはまちがいない。
そこに、御者の責任者と冒険者のリーダーらしい人がやってきた。
そして両親に向かって声を荒げ始めた。
「おいあんた達!いい加減にしろ!あんた達自身も、いろんな所から食べ物を盗み回っていただろう!」
「食い残しそうだったから食べてやったんだ!」
「食べ物くらいでけちくさいのよ!」
御者の責任者がどれだけ叱り飛ばそうとも、親子は聞く耳をもっていない。
冒険者のリーダーは、青い革鎧を身に付けた、銀髪をポニーテールにした蒼い瞳の女性で、鋭い目付きで親子を睨み付ける。
「貴方達がやったことは、行程時の規則に反するものだ。それを理解しているのだろうな?」
「ちょ…ちょっとしたふれあいみたいなもんだろ!」
「お裾分けするのなんか普通でしょ!」
「みんなケチだよな~」
親子はそのリーダーの迫力に気圧されていたが、それでも自分達の主張を曲げる事はなかった。
最初の女性冒険者も加わって暫く言い合いをしていたが、出発時間になったのか、御者の責任者は、
「とにかく!こんな事は2度とやらないでもらおう!」
そう怒鳴り付けてから、
「私達護衛としては、今のうちに置き去りにした方がいいとおもいますがね…」
冒険者のリーダーは非常識親子を睨み付けながら、
それぞれ自分の持ち場に帰っていった。
そして非常識親子は、舌打ちをしながら、自分たちの馬車に向かっていった。
時々、信じれないような我が儘を赤の他人に要求する人がいますね。
ご意見ご感想よろしくお願いいたします
私事ですが、松葉づえをつかないとならなくなりました。
その辺の事で、更新が遅れるかもしれません。
誠に申し訳ございません。




