第38話 嬉しいお説教
お待たせいたしました
時間を置かずして、フォルミナ一派と恥ずかしい詠唱の魔道士は、魔法封じの首輪をつけられ、ゼルハンド伯爵の配下に連行されていった。
だが僕の方はまだ終わっていない。
僕は、角と羽根と尻尾をしまうと、
「黙ってて申し訳ありませんでした…」
リガルトさんや街の人達に丁寧に頭を下げた。
「気にすることはない。さっきも言ったが、この街には魔族が普通にすんでいるし、我々商業ギルドにも、純魔族や吸血鬼や淫魔の職員は働いている」
リガルトさんはそういってから僕の肩に手を置き、
「君が心配するようなことにはならないから安心したまえ」
僕が抱いていた不安を払拭してくれた。
「ヤムさん!」
そこに、ラーナさんが駆け寄ってきて声をかけてくれた。
「ラーナさん。御迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
僕は深々と頭をさげる。
「いえいえ。悪いのはあの人達なんですから、気にしないで下さい。って!この首輪は大丈夫なんですか?」
ラーナさんは慌てたようすで僕の肩を掴み、『隷属の首輪』と僕の顔を交互に見つめていた。
無理もない。
『隷属の首輪』は設定した相手には絶対に逆らえないし、不利益な行動をすることも許されない魔法が付与されている。
それに逆らえば激痛が加えられるからだ。
「あ、これなら大丈夫ですよ。最初に触った時に無効化しておきましたから」
僕はそう答えながら、首輪をするっと取り外した。
その様子に、ラーナさんだけではなく、リガルトさんや街の人達も物凄く驚いた表情をしていた。
そこに、再び歓声がきこえてきた。
冒険者達が、魔物の回収を終えて戻ってきたのだ。
荷車には大量の魔物の死骸や、何台かに分けられたランドドラゴンも乗せられていた。
そして、回収が遅れてしまった冒険者の遺体も同時に搬送されていた。
その遺体を見た瞬間、なんともいえない罪悪感に襲われてしまった。
今回のモンスタースタンピード事件は、大元をたどると僕が元凶ということになる。
僕が冒険者ギルド長のディウスに従っておけば。
僕がこの街に来なければ。
この事件は起きなかったかもしれない。
たとえこの国、この街がサキュバスを受け入れていたとしても、僕は出ていくべきなのかもしれない。
ずっと森の中から出てこない方が良いのかもしれない。
もしくは、智嚢神様の言いつけを破ってでも、蘇生魔法を習得していればよかった。
そんな事を考えていた時、誰かに背中を思い切り叩かれた。
「うわっ!」
それは、救護所で指揮をしていた責任者の修道女さんだった。
「あんた、まさか自分のせいで今回の事件が起こって、犠牲者がでてしまった。なんて思ってるんじゃないだろうね?」
その修道女さんは、厳しい顔をしていた。
その修道女さんの問い掛けに、僕はうつむきながら答えた。
「だって、私があの受付嬢の思惑通り奴隷になっていたり、以前のギルド長の命令にしたがっていれば、今回の事件は起きなかったかもしれないじゃないですか…」
さらにいえば、僕がこの世界に転生してこなければ、事件は起きなかったのだから。
すると次の瞬間。
修道女さんに思い切り平手打ちをされた。
「見くびってくれるんじゃねえぞ小娘ぇ…。てめえが奴隷になって、自分の命が助かったからって、やったー!死なずにすんだー!って喜ぶとおもってんのか?ああん?!」
そして胸倉を捕まれ、物凄い目付きで睨まれた。
美人なだけに、より迫力がある。
「たしかにそう考える馬鹿もいるさ。だがな、そんなことで手放しで喜ぶような馬鹿はここには居ねえんだよ!それともなにか?薬作らされたり、ここで怪我人の治療するのがめんどくせえとか思ったのか?!」
「そっそんなことはありません…」
「だったら!『責任は全部私にあるの』みてえな悲劇のヒロインみてえな事考えてんじゃねえ!余計な事考える暇があったら、さっさと怪我人の治療を再開しな!」
そういって襟首をつかんでいた手を放した。
「それから、自分さえ犠牲になって丸く納まるならいいか。なんて考えは止めるんだね。周りが胸糞悪くなる」
修道女さんに言われた事の全部が、嬉しくて仕方がなかった。
叩かれたのも、怒鳴られたのも、僕を心配してのことなのが分かったからだ。
ストレスをぶつけるためじゃない。
楽しむためじゃない。
自分がすっきりするために、僕をなぐったり罵声を浴びせたのではない。
それだけで嬉しかった。
「なにを泣いてんだよ。さっさと行きな!」
「はい!」
いつの間にか涙がでていたらしい。
僕は顔を擦りながら、怪我人のいるテントに向かった。
怪我人のいるテントに向かう途中、
「おめーらもさっさと自分の仕事に戻れっ!」
修道女さんの一括で、リガルトさんや街の人達までもが慌てかけだしていったのがわかった。
この修道女さんのイメージは、更生した硬派な元ヤンです。
私事で、少しモチベーションが下がりぎみ
何とか頑張ります
ご意見ご感想よろしくお願いいたします




