第34話 戦場での出会い
お待たせしました
街の外から、怒号が聞こえる。
冒険者達の鬨の声と、モンスター達の咆哮の混ざった轟音。
ついにモンスターとの戦闘が開始されたのだ。
アイーダさんは怒号を聞いても慌てた様子はなく、渡された書類にサインをしていた。
「始まったみたいね」
「街の人達は大丈夫なんでしょうか?」
いくらこの街の人達がたくましいといっても、モンスターとは戦えない人だっているはずだ。
僕のその不安がわかったのが、アイーダさんはにっこり笑いながら、その不安に答えてくれた。
「子供とか老人とかを中心に、住民は港町のある方向に避難できるように、南側の城門前に集まってるわ。モンスタースタンピードは直線的に移動するから、港町方向はある程度は安全よ」
その情報に安堵していると、不意に爆発音が響き渡った。
「あれ姉さんだわ。相変わらず派手な魔法が好きなんだから」
アイーダさんはため息をつきながら、手を顔にやる。
「ギルドの人達も戦闘に参加するんですか?」
「当たり前よ。街の人達でも、戦える人は色んな形で参加しているわ。私やギルド長やミルカード主任も、やることを終えたら参戦するわ」
そのアイーダさんの表情は、覚悟の決まった真剣なものだった。
前々から思っていたことだが、この街の人達は本当にたくましい。
理不尽にあったとしても、それに負けない強さがある。
前世の僕からすれば羨ましい限りだ。
僕は、この街の人達のようになりたいと思った。
そして、強力な攻撃魔法を持っていない僕ができるのは、怪我人を治療することだけだ。
「戦闘で出た怪我人とかはどこに集められるんですか?」
「救護所は聖堂の前よ。下町にある教会の司祭や修道士や修道女達が、テントを設置して救護所にしているわ」
「聖堂の前?」
アイーダさんの返答に、僕は困惑した。
普通は建物の中を救護所にするものだ。
が、理由はなんとなく察することができた。
聖堂の司教達が、逃げ出す時に聖堂を勝手に使われないように鍵をかけていったのだろう。
怪我人の血で聖堂が汚れたりしないように。
僕はそれを理解して頭が痛くなった。
だが、それを理解したら、尚更じっとはしていられなかった。
「じゃあ、お手伝いしてきます!」
「ちょっちょっと!」
城壁の方から聞こえる轟音を背に、救護所が設置されているという聖堂の前に向かった。
僕が最初にこの街に来た時に見た、教会だと思った建物が聖堂だ。
正しくは、パウディル聖教リーフェン王国地方都市メセ支部・パタン聖堂という。
創造神である女神パウディルを信奉する、このルタースで一番巨大な宗教組織だ。
その聖堂の前には、テントが設置されていた。
その救護所では、司祭や修道士や修道女のような人達、さらには街の人達までが、さっそくでた怪我人の手当てをしている。
さらにはその横で、デニスさんや英魂亭のご主人が、炊き出しのためのかまどを設置していた
「お手伝いにきました!」
僕は大きな声をだして、救護所に近付いた。
「そうかい。じゃあそっちの連中を頼むよ!」
すると、責任者らしい修道女姿の人が、いきなり指示を飛ばしてきた。
最初は色々聞かれるかなと思っていたので、正直肩透かしを食らってしまった。
逆にいえば、そのくらい忙しくなる事が予測されるのかもしれない。
ともかく僕はその指示に従い、近くにいた怪我人を治療していく。
今のところ軽傷の人ばかりだが、いずれ重傷者も出てくるだろう。
そこに、商業ギルドから、僕が製作したハイマジックポーションが150本届けられた。
後の250本はハイポーションと共に前線に運ばれたらしい。
戦闘が開始されてから約2時間。
轟音はいまだに鳴り響き、重傷者も増え、何より、冒険者達も、治療する司祭・修道士・修道女達も、疲労が積み重なっている。
そんなおり、僕が担当していた怪我人の治療が一段落すると、近くにいた修道女が、水の入ったコップを手に、話しかけてきた。
「お疲れ様です。少しは休憩してくださいね」
「ありがとうございます」
その人は、美しく整った顔に、緑色の瞳をしており、眼鏡をかけていた。
修道女のフード(?)から覗く髪は、美しい金髪だった。
疲労しているはずなのに、それを感じさせない笑顔。
見えない筈なのに、何故か気圧されるオーラを感じる。
前世でもみたことがない、いわゆる、誰もが認める本物の美人というやつだ。
コップを受け取り、喉を潤していると、
「おいでになった時から見ていましたが、素晴らしい治癒魔法の腕ですね」
その修道女さんがにこやかに話しかけてきた。
「わっ…私の先生に比べればまだまだです…」
本物の美人に話しかけれ、かなり緊張してしまい、ちょっとどもってしまった。
だが彼女は気にすることなく、
「どのような方かお伺いしても?」
興味深い様子で質問をしてきた。
なので、一番当たり障りない返答をしておく。
「ここには…いらっしゃらない方ですから」
「あ…」
僕の魔法の先生は智嚢神様なので、人間界には居ないという意味なのだが、どうやら都合のいいほうに解釈してくれたらしい。
というか、そう解釈するように答えている。
それを聞き、彼女はやってしまったという表情を浮かべ、慌て頭を下げてきた。
「知らなかったとはいえ申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください」
神様達との取り決めで、『何処で覚えた?』とか、『誰に習った?』とか聞かれた場合は、智嚢神様・技能神様・闘神様をまとめて、『先生』と呼ぶことにしている。
「次来たぞ!」
そこに、責任者の修道女さんの指示が飛ぶ。
僕と彼女は慌て持ち場にもどろうとする。
「申し遅れました。私はラーナと申します」
美人な修道女さん=ラーナさんは、もどる直前に、眩しすぎる笑顔を浮かべて自己紹介をしてきた。
「私はヤムといいます」
なので、僕も慌て自己紹介をする。
すると、
「何時まで休んでるんださっさと持ち場に戻れっ!」
「「はいっ!」」
責任者の修道女さんに怒鳴られてしまった。
モンスターとの戦闘に参加しない主人公
理由としては、
本人が一番勉強したのは、医学・薬学・栄養学・治癒魔法・製薬技術・であり、精神魔法や杖術は補助的なものと考えていて、戦闘に関しては自身を過小評価しているからです。
ヤムが言う強力な攻撃魔法とは、火炎や水流や電撃といった、精霊魔法での攻撃のことです。
さらにルタースでは、精神(無属性)魔法唯一の攻撃魔法の『魔法弾』は、見習いが最初に覚えるような攻撃魔法であり、すぐに精霊魔法にシフトアップするのが常識。
ちゃんとした魔道士で、攻撃魔法は『魔法弾』しか使えませんとなると、死ぬほどバカにされます。
物理戦闘職が不意打ちにつかったり、非戦闘職が護身用に使用する分にはバカにはされません。
杖術での戦闘も、自分のは護身術の域を出ていない。
今まで戦ったのは口だけのチンピラだから余裕だっただけで、ちゃんとした実力者には勝てない。と思っています。
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