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閑話 7

お待たせいたしました。


~商業ギルド・リーフェン王国地方都市メセ支部買取部門長 アイーダの視点~


モンスタースタンピードの情報がもたらされてからすぐに、領主のゼルハンド伯爵から指示がでた。

商業ギルドは、医薬品と、食料の手配をしろ。と。

それにしたがい、リガルトギルド長は薬師ギルドにポーションや薬を放出してくれるように足を向けたのだけれど、帰ってきたその顔には、怒りと呆れが同時に浮かんでいた。

「どうしたんですか?」

「薬師ギルドはもぬけの殻だった。おまけに、備蓄しているはずのポーションや薬や材料なども全て空だ!」

ギルド長は、カウンターに拳を打ち付ける。

「それって、全部放り出して逃げたってことですよね?」

私だけでなく、そこにいた全ての職員が絶句した。

薬師ギルドは、薬の研究だけでなく、緊急時や災害時において、ポーションや薬を無償提供することや、現場での出来る限りの薬の製作が義務付けられている。

それを無視して逃げ出し、備蓄のポーション類や材料まで、全て持ち出すというのは、まず信じられないことだ。

「さらに悪い話がある。聖堂の司教と司祭達が全員逃げ出して、聖堂の出入口を全部施錠していった!魔道具で障壁まで張る念のいれようでな」

呆れすぎて、声も出なかった。

「そのかわりに、教会の女性司祭が聖堂の前に救護所を建ててくれている。さらに、たまたま巡教団が来ていたらしく、彼らが手を貸してくれるそうだ」

その情報に、私は一応の安堵を覚える。

「問題は薬ですか」

「今ある数だけでは足りなくなるな…」

私とギルド長は思わず頭を抱えた。

「あの…ヤムって薬師には頼めませんか?」

だが、たまたまそう発言した後輩職員のテジン君の言葉に、私とギルドは眼を見開いた。

「私は材料を集める。君はヤム嬢を連れてきてくれたまえ!」

「わかりました!」

こうして私はヤムちゃんを捕まえ、商業ギルドに連れてくることができた。



ヤムちゃんを連れてきて、作業が開始されてから、驚愕のしどおしだった。

横着者のための魔法。などと呼ばれていた精神魔法の『念動』で、複数の物体を完璧にコントロールし。

同じく、精神魔法の中でも『生活魔法』と呼ばれる『水生成』の魔法では、初めから適切な温度のお湯を生成した。

さらにはその完成したハイポーションの品質は、全てが極上品というとんでもっぷり。

私が、王都の商業ギルドの保管庫にあるものを、一度だけ見せてもらったことがあるだけの代物だ。


それだけの品物を製作できる人材を、商人がほおっておくわけがない。

メリック商会会長のメリック氏は、既に友好な関係を築いている上に、こんな大事な時に話しかけて、作業の邪魔をするような非常識なことはしない。

そういう事をするのは、ヤムちゃんと知り合っておらず、さらにはこんな大事な時に話しかけて邪魔をする、非常識な商人だ。


「おい娘」

その非常識な商人は、テルペン商会会長のテルペンだった。

メセの街で貴族相手に商売をして、それなりの店を構えているが、同業者からの評判は良くない。

ヤムちゃんのことを知らないのは、ギルドに来ている従業員が、情報を教えていないせいだろう。

それが今になってギルドにやってきたのは、逃げ出す前に火事場泥棒でもしにきたからだろうか。

「なんでしょうか?今ちょっと急がしいんですが」

ヤムちゃんは、視線も動かさず、手も止めず、テルペンに返事をした。

「その作業の手を止めて、我がテルペン商会との専属契約書にサインしろ。我がテルペン商会に雇われるというのは大きな名誉であり…」

私は、ご高説が始まったのを確認すると、警備の人間をつれ、あの非常識な馬鹿を引き剥がし、建物内に引きずり込んだ。

もちろん、この非常識な馬鹿は喚き散らす。

「貴様!ギルドの職員風情がなんの真似だ!」

「彼女のポーション制作の邪魔をしないでもらいませんかねぇ?」

「なんだと?!この私との契約の方が重要に決まっているだろうが!」

「一本でも多くポーションが必要なこの状況で、ポーション制作の邪魔をする。それはつまり、街の人間を殺そうとしている事になりますねぇ?」

「うっ…」

「場合によっては、あなたがモンスタースタンピードの黒幕だと思われたりして…」

「ううっ…」

さすがにこれだけ言ってやれば、テルペンも口を閉じるしかないだろう。


それからしばらくは順調にハイポーション作りは続いていき、ハイポーションの材料が無くなった。

そしてハイマジックポーションのほうに差し掛かったとき、ギルドの建物内から悲鳴が聞こえた。

現場を確認にいった職員の話によると、テルペン商会の人間が、各部に配布するための区分けをしていた極上品のハイポーションを盗もうとした所を、ミルカード主任に見つかったらしい。


実は今ヤムちゃんが製作しているポーションは、全て領主のゼルハンド伯爵の注文品扱いになり、それを盗むことは貴族の物を盗むことになり、大抵は重罪になる。

直ぐ様首謀者を含めた関係者全員捕縛され、ゼルハンド伯爵の屋敷に護送されたらしいけれど、自分も前線に出るための準備中だったらしい伯爵の耳に入ったらどうなるかは、押して知るべしだ。


そして全部の材料がなくなり、

「終わりました」

「お疲れ様。いつもあんな感じでつくってるの?」

「普段ならあら熱はもっとゆっくりとりますよ」

監督をしながら、労をねぎらいつつ、からかっていると、城壁の方から怒号が鳴り響いた。

ヤムは、商業ギルドの大半の人達からは、

『製薬の腕はすごいが、世間知らずで世間ずれしていない田舎の人』

と、思われています。

ほぼ正解です。


ちなみにアイーダさんの台詞は、斎藤千和さんでイメージしています。

にっこり笑いながら相手を翻弄するエロいお姉さんは素敵ですね!


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