第32話 災難への対処の違い
お待たせいたしました。
暖炉亭をお手伝いした翌朝。
不意に大きな音がしたので目が覚めた。
窓から外を見ると、街中が慌ただしい雰囲気になっていた 。
大勢の人達が家財を荷車や馬車に乗せて、城門のある方向に向かっている
僕は身支度を整えると1階に降りた。
「おはようございます」
「おはよう。悪いけど、食事はそこのを勝手に食べておくれ」
女将さん達は宿の中のものをまとめているようだった。
「何があったんですか?」
「モンスタースタンピードが確認されたんだよ」
モンスタースタンピード。
魔物の暴走と呼ばれるそれは、モンスターパレード(魔物の行進)とかデスマーチ(死の行進)と呼ばれる、モンスターの大移動のことである。
この進路上にある様々なものは、破壊され、蹂躙される。
それはこの城壁のあるメセの街であっても例外ではない。
さっきの街の様子と、目覚ましになった大きな音はそれが原因なのがわかった。
「荷造りお手伝いします」
そういって手伝おうとした時、
「ヤムちゃんは居るかしら?」
アイーダさんが暖炉亭にやって来た。
普段外に出ているのを見たことがないからか、かなりビックリしてしまった。
「どうしたんですか?」
さらに、いつもの妖艶な雰囲気はなく、真剣だった。
「至急商業ギルドに来てもらえないかしら?詳細は道すがら説明するわ」
僕がカタリナさんに視線をむけると、
「こっちはいいから行っておいで」
と、ブート(パン)を投げ渡してきた。
僕はそのパンを食べながら、アイーダさんと商業ギルドに向かった。
その道すがらにアイーダさんが話してくれた内容は、
夜営をしていた冒険者がモンスタースタンピードを発見したのが、昨晩の23時頃。
報告に戻ってきたのが朝の6時。
街には正午頃に到着予定と推測され、午前7時には避難を呼び掛ける緊急用の鐘が鳴らされた。
モンスタースタンピードの進路を考えると、メセを通ったあとは、王都に向かう感じらしい。
僕には、そのモンスタースタンピードの到着までに、ハイポーションとハイマジックポーションをつくれるだけ製作して欲しい。
と、言うもののだった。
「商業ギルドは、現在所有している物、組合員に販売予定の物・既に販売をした物の買い戻しを含めた全てのハイポーション・ハイマジックポーションの材料を提供します。だから直ぐに、大量に製作をお願いしたいの」
理由はわかった。
「薬師ギルドはどうしたんですか?」
しかし、薬を用意するならまずは薬師ギルドに話を持っていくものだと思ったのだけれど、
「モンスタースタンピードの発見報告が届いた瞬間に、全ての荷物と財産を持って逃亡したわ。おまけに、聖堂にいた司教達も、同じようにトンズラしたらしいわ。警報がでる前にね」
「いいんですかそれ…」
それは既に行われていたらしい。
ギルドや教会には、一般の人達より早く情報がもたらされるらしい。
それは、事態に対処するためにもたらされるのであり、自分達が先に逃げ出すためではないはずだ。
「これで冒険者ギルドが前のままだったら最悪の事態がさらに悪化してたわね」
アイーダさんは吐き捨てるようにいい放つ。
「それで、協力してくれるので良いのよね?」
「嫌なら引き返しています」
僕に、断る選択肢があるわけがない。
商業ギルドに到着するやいなや、臨時の調合室になったギルドの中庭に連れていかれた。
そこには大量のローア草とテナン草を始めとした、様々な材料が置かれ、中央には製薬道具の置かれたテーブルがあり、そしてその前には、大きな鍋が設置されたかまどが4つ用意されていた。
「職員と、商会の奉公人を何人かお手伝いにつれてきたから、必要ならいってね」
「解りましたありがとうございます」
僕は、眼を閉じて、顔をぱんぱんと叩いて気合いをいれた。
ファンタジー定番のモンスターの襲撃です。
ざまあはもう少し御待ちください
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