第28話 メセの街の風景②
お待たせしました
街に入ると、まず向かったのがロブン青果店。
イザベラさんの所だ。
先日のお詫びと、前回は後回しにしてしまったせいで、少し減ってしまったので、その対策だ。
「こんにちわ!」
「おやヤムちゃん。いらっしゃい」
前日の棚とお店は綺麗に修復されていた。
「先日は大変ご迷惑をお掛けしました。申し訳ありませんでした」
「気にしなくていいわよ。お陰であの冒険者ギルド長がいなくなったんだから」
僕は知らないことだったが、事情聴取の時に聞いた話だと、ディウスが冒険者ギルド長になってから、冒険者の質がかなり下がってしまい、そのため依頼をしても未達成や放棄が多かった上に、街中での行動もかなり悪かったらしい。
「それより、今日はシュサカフト(さつまいも)がお買い得だよ。だんだん寒くなってきたから、そろそろパッサ(白菜)とシュッダ(大根)の漬け物しか売れなくなるからね。今のうちだよ」
「ああ。冬は野菜の漬け物を売るんでしたね」
「自分で漬けるとこもあるけど、大概は買うからね」
この異世界ルタースでは、昔の日本同様、冬は野菜が取れないため、塩漬け酢漬けにしたものを八百屋さんから買うのだ。
「じゃあ明日の朝に受け取りに来ますから、シュサカフトを2キダラム(㎏)ほどお願いします」
「あいよ、まいどあり」
イザベラさんは、木札に注文の内容と注文者の名前を書き入れていく。
「それからこれ、先日のお詫びに」
そういって僕はバスケットを差し出す。
「あらありがとう♪ん~いい匂いだねえ♪」
「先日のレジルス(オレンジ)をパウンドケーキにしてみました」
「ぱうんどけーきってのはよくわからないけど、美味しいのは間違いなさそうだね」
「それと、そのレジルスの皮を乾燥させた保存食です。よろしければこれも…」
要するにオレンジピールだ。
ガラス瓶はまずいと思ったので、小さめの陶器の壺と木の蓋にしておいた。
「あら、こんなものまで?ありがたくいただいておくよ」
イザベラさんは、嬉しそうにオレンジピールの入った壺を見つめていた。
このときの僕は知るよしもなかったが、僕の渡したこの2つのお菓子が原因で、母娘による仁義なき戦いが繰り広げられることとなったらしい。
商業ギルドは、以前にも増して人がいた。
元々出入りしている人は多かったが、なんとなく行商人が増えたような気がする。
ともかく、まずは受け付けに行かないと話にならない。
「こんにちはミルカードさん。買取の受付をおねがいします」
「いらっしゃい。今日はちょっと混んでるから少し待っててね」
ミルカードさんは、こちらに対応しながらも、書類らしきものを書く手は止めていない。
そして、片手で番号札を手渡してくると、直ぐに書類に目をおとした。
どうやら本当に忙しいようで、レジルスのパウンドケーキを渡す暇すら無いようだった。
僕が待ち合いの長椅子に座ると、
「やあ、ヤムさんまた会いましたな」
「あ、どうも」
メリックさんが声をかけてきた。
「人が多いのが不思議ですかな?」
「はい。いつもの倍はいるみたいですね」
僕がこの街にくる前から出入りをしているメリックさんにとっては、久しぶりの光景なのだろう。
「元々このメセの街は陸路交易の玄関口。これくらいはあたりまえです。王都に流れてきた冒険者の話では、あの前任の冒険者ギルド長が、自分に従わず、自分の手下では敵わない有能な冒険者に対して、彼等だけ依頼の手数料を5倍にすることで、彼等を街から離れさせてしまったらしいですな。そのため街道の治安が悪くなって、私のような護衛をやとえる商人しかこれなくなっていたのですよ」
それを聞くだけでも、本当にあのディウスは迷惑極まりない存在だ。
「でも、前より冒険者の数が増えたような気がしますけど…」
「ああ、それは新しい冒険者ギルド長の手腕ですな。なんでも、王都でメセの街への移住者や、元々 メセにいたけれど、前任者のせいで出てきた冒険者達を集めておいて、前任者排除と同時に王都の冒険者ギルドに鳩便を出したそうです。それから4日後には、冒険者達がいっぱいやってきたそうですよ」
そういう話を聞くと、短い間にこれだけの情報を集めれるメリックさんはやり手なのだと実感した。
そして、そういう手腕を発揮するリュゼートさんも、有能な人物なのだと実感した。
まだ暫くは日常が続きます。
喉の調子だけ戻らない…
さらに、別作品が、連載が終わってからブクマが増えた不思議…
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