第26話 事態の終息と怒濤の衝撃
お待たせいたしました
ディウスと、彼の手下が連行去れていくのをながめながら、僕はホッと胸を撫で下ろす。
せっかくの覚悟が無駄になったが、まあ、とりあえずは事態がおさまったのはいいことだ。
僕は直ぐにリガルトさんに向き直り、
「リガルトさん。ご迷惑をお掛けしました。それに、先程はかばっていたただいてありがとうございました」
とっさに庇おうとしてくれた事に、僕は深々と頭をさげる。
産まれてから初めて、他人にかばってもらえたことは、本当に嬉しかった。
「いや、私はギルドの利益のために動こうとしたまで。感謝は不要です」
「それでも、ありがとうございます」
謙遜するリガルドさんに、僕は改めて頭をさげる。
そこに、人影が近づいてきた。
「やあ、エリプのお菓子のお嬢さん。またあったね」
さっきまで御領主の横にいた、金髪のイケメンの人の一行だった。
てっきり一緒に帰ったと思っていたのだけれど。
「ありがとうございます。助かりました」
僕はまた頭をさげる。
「いやいや。これは僕の仕事だからね。それに、君たち全員に領主のゼルハンド伯爵からの通達もあるしね」
その言葉に、嫌な予感がした。
権力者が、
『お前達も実は協力者ではないのか?』
という、あらぬ疑いをかけて、自分たちに有益なもの。
僕ならポーション。
商業ギルドなら利益と販売網。
を、奪い取るというのは、天界で読んでいた本の、色々な作品のなかに良くあるシチュエーションだ。
そんな不安を思いながら、リュゼートさんの言葉を待った。
「『後日全員に事情聴取を行うので、しばらく街からでないように。お前達があの痴れ者の被害者であるということは理解している。これはあの男の罪を確定させるためのものだと理解してほしい。滞在用の宿代も心配はしないように』だ、そうだよ。所在は今教えておいてもらうと助かるかな」
しかし、リュゼートさんからの御領主様の通達は、完全にとは言えないが、ひとまずは安全らしい。
それと同時に、そういえば、自己紹介をしていないことをおもいだした。
「ぼ…私はヤムと申します。今回のことでは、色々とありがとうございました」
「俺はリュゼート。このパーティーのリーダーをやっている」
金髪のイケメン=リュゼートさんは、爽やかな笑顔を浮かべると、手を差し出してくる。
僕は、少しためらいながら手を差し出す。
するとリュゼートさんは僕の手を握りしめ、
「以前も思ったけど、美人だねえ。俺の秘書にならない?」
「ええっ?」
ナンパ?をしてきた。
僕が100%女性ならヤバかったのかもしれない。
リュゼートさんからのナンパ?に慌てていると、
「いい加減にしなさい」
スキンヘッドマッチョオネェの人が、リュゼートさんの頭を叩いた。
「ごめんなさいね。この人の悪い癖なのよ。それと、今回の事は気にしないでいいわよ。私達の仕事だもの。アタシはグリオル。改めてよろしくね♥️」
スキンヘッドマッチョオネェ=グリオルさんは、ウィンクと投げキッスをしてくる。
その外見でそれをされると、なかなか迫力がありすぎる。
するといきなり、肩の辺りに柔らかいものが押し付けられた。
「うわっ?!」
「ん~いい匂い♪私はルイーゼ。ねえ、髪はなにで洗ってるの?」
後ろから頭を掴まれ、髪の匂いを嗅がれてしまっている。
こたえないと放してくれそうにないので、
「自作した洗髪剤です…」
「お金払うから作ってくれないかな?多分石鹸とかも作れるんでしょうから、それも一緒に」
「商業ギルドを通していただけるなら」
「そういえばアイーダはどうしてるの?」
「彼女なら買取査定中ですよ」
エロいお姉さん=ルイーゼさんの質問には、リガルトさんが返答した。
よくにていると思っていたけど、姉妹だったらしい。
そして最後は、唯一名前を知っているツインテールの女の子=モーティアちゃんだ。
「モーティアちゃん。ちゃんとした挨拶をしなさいな」
グリオルさんのお小言を無視して、モーティアちゃんは僕に近寄ってくる。
そして鼻をくんくんとならし、
「今日は甘い匂いがしない…」
お菓子を持っていないのがわかると、物凄く残念そうな表情をした。
「毎度毎度お菓子をもってませんよ」
「じ~」
「もってませんよ」
「じ~」
本当は隠してるんじゃないの的な視線を向けてくるが、無いものはない。
「やめなさいモーティアちゃん。それからルイーゼちゃんもいい加減にしなさい」
あまりにも僕を凝視するモーティアちゃんと、ずっと髪の匂いを嗅いでいたルイーゼさんを、グリオルさんが引き剥がしてくれた。
何とか解放され、僕は気になった事を訪ねてみた。
「皆さんはこのまま王都に戻られるんですか?」
「私達はこのままここのギルドの運営に携わることになるのよ。もともとその為にメセの街にやってきたんだもの」
確かに責任者不在のままでは、チンピラ冒険者が増えてしまうだろうから、琥珀金級の冒険者のこの人達なら向いているのだろう。
「で、この僕がギルド長」
リュゼートさんは歯を見せて爽やか?な笑いを浮かべる。
「私は解体責任者」
「私…諜報…」
ルイーゼさんはモーティアちゃんを捕獲しながらニコニコ笑っていて、モーティアちゃんは特に表情は変えていない。
「そしてアタシは受付の責任者よ♥️」
そして、グリオルさんは魅力的?なウインクを放った。
その発表に、商業ギルド内にいた全員が衝撃をうけ、一瞬時が止まった。
固まっていないのは、パーティーメンバーの3人だけだった。
「グリオルさんが…受付なんですか?」
なんとか再起動した僕は、グリオルさんに確認をしてみる。
「そうなのよ。憧れだったギルドの受付のカウンター、その責任者になるんだから今からわくわくしちゃう♪」
僕は困惑しながら笑っていた。
リガルトさんは驚愕したまま目をみひらいていた。
そしてこの空間にいた誰もが思った。
どう考えても、グリオルさんとルイーゼさんの役割は逆だと!
「まあ…その反応が普通だよな…」
リュゼートさんは、その場の全員の反応をみて、うんうんと頷いていた。
「じゃあ俺達は冒険者ギルドでやることが残っているから、これで失礼するよ」
リュゼートさん達はそういって商業ギルドを後にする。
彼等がでていったあと、僕は真剣な表情でリガルトさんに声をかけた。
「そうだ。リガルトさん、ポーションを多めに持ってきたので、納めていただけませんか?」
「わかりました。では商談室へ」
そう言うと、リガルトさんは商談室へ脚を向けた。
「そうそう、今回のことで我々に迷惑をかけたとおもっているなら、これからも質の良い品物を納めて頂きたい。無料でなどというのは、こちらが足元を見て取り上げたと思われてしまいます」
商談室に向かうリガルトさんは、歩きつつ、背中を向けたままそう言った。
「それに、お詫びと言うなら、甘いものの方がありがたいと言うものです」
リガルトさんは、会心の笑顔を向けてきた。
それでも、少しだけ割引いた値段で売らせてもらった。
偏見は良くない
ですが、受付にハゲマッチョオネエがいたら衝撃的ですよね…
この世界は甘味(砂糖・蜂蜜・メープルシロップ等)が少ない&高価なので男性でも甘いものはすきです
勿論苦手な人もいます
ご意見ご感想お待ちしております




