閑話 5
主人公以外の視点です
今回は一人だけです
~商業ギルド・リーフェン王国辺境都市メセ支部所属 ミルカードの視点~
ヤムちゃんがやってきたのは、昼食の時間には少し早い時だった。
不安そうな、申し訳無さそうな顔をし、ゆっくりとカウンターに近寄ってくる。
「こ…こんにちは…」
「いらっしゃいヤムさん。買取なら待ち時間なしで大丈夫ですよ」
彼女の申し訳無さそうな理由はわかっている。
今、破落戸共が街をうろついている原因だろう。
「あの…」
確かにあの破落戸共が、街を我が物顔でうろついているのは不愉快極まりない。
が、私にはそれ以上の不愉快な事件があった。
「あの頭の悪い冒険者ギルド長。先日ここに来た時に、『おい女。このディウス様の情婦にしてやるから、有り難く思いながら我が屋敷に来い!』などという、頭のわるーいお貴族様がお抜かしやがるようなお言葉をお抜かしやがりまして」
思い出すだけでまた腹が立ってくる。
尊大のつもりらしい表情をしながら、私の胸をガン見しながら言い捨て、
「おまけに、『ついでに商業ギルドの綺麗所もまとめて連れてこい。それくらいはこのディウス様の情婦としては当たり前の勤めだ』などと既に私を情婦扱いしてくれやがりまして」
と、私以下女性職員全員を侮辱しやがったんですよねあのカス。
怒りを思いだし、思わず力が入って備品のペンを折ってしまった。
「たまたま帰ってきたギルド長が止めて下さらなかったら、脳天から真っ二つにして差し上げたのに…実に残念でした」
本当に、どうしてあの時タイミングよくリガルトは帰ってきたのかしら?
もう少し遅く帰ってきてくれたら、あの頭にウジの沸いていそうな男を真っ二つに…いやいや。襲われてないのに街中で抜剣したらこちらが罪に問われるのだから、帰ってきてくれてよかったのよ。
「とまあ、あの男に対しては、私を筆頭に全員が嫌悪感しかありませんから安心してください」
私は表情を何とかもどし、改めてヤムちゃんに視線をむける。
「でも、貴女が原因で今回の事件が起こったのは事実。そういう事の原因になりそうな相手への対処は、よく考えてから行動しなさい。いいですね」
そして彼女にしっかりと釘を刺しておく。
「はい…。申し訳ありませんでした」
かなりしょんぼりしてしまったが、言っておかないといけない。
とはいえ、
「まあ今回の原因は、貴族程ではないにしても、厄介な相手ですから仕方ありませんけどね」
一介の薬師の彼女が、仮にも街の権力ある立場のあの冒険者ギルド長に、どう対処しろという話よね。
「あの、ギルド長さんはどちらに?」
「2階にいるはずだけど…あ、降りてきたわ」
リガルトが2階から降りてきて、ヤムちゃんに話しかける。
その時私は、ギルド内の小さな変化に気がついた。
そして、それからあまり間を置かず、
「今日こそ我が冒険者ギルドの指名手配者を引き渡して貰うぞ!」
あのカスがやって来た。
~時間経過~
ヤムちゃんがあのカスと対峙しているところに、領主のゼルハンド伯爵がやってきた。
王都の冒険者ギルドに所属する、琥珀金級冒険者パーティーの『星嵐』を引き連れて。
あのカスが金で雇ったらしい破落戸に、忠誠心なんかあるわけがない。
あっさりと裏切られ、あのカスは窮地に追い込まれる。
ついに観念するかと思ったけど、流石はカス。
責任はヤムちゃんにあると抜かして襲いかかった。
私はとっさに折れたペンを、カス=ディウスの足下に投げた。
すると狙い通り、ディウスは転んだ。
まあ…ヤムちゃんに杖で股間を直撃されるとは思って無かったけど…。
ともかくディウスは捕らえられ、連行されていった。
それをみとどけたあと、後輩の娘に場を任せ、
「ちょっとお願いしていいかしら?」
「はい。わかりました」
私はギルドの建物内にある、職員用のロッカー室に向かった。
ロッカー室の前にやってくると、ちょうど、男性職員のラガヤ君が帰ろうとしているところだった。
「ラガヤ君、今帰り?」
「あ、ミルカード主任。はい、ちょうどあがりなんですよ」
「今日は大変だったわね~」
私は軽くため息をつきながら、彼に近づき、
「そうですね。じゃあ俺はこれで…」
「帰るのはちょっと待ってくれるかしら?」
彼の鳩尾に、爪先をめり込ませた。
「げほぉっ!」
彼=ラガヤはうめき声を上げながら、その場に倒れこんだ。
カタリナほどではないけど、私もそれなりに格闘技は修めている。
そしてラガヤの前に立ち、
「貴方でしょ?うちの情報を冒険者ギルド長に流していたのは」
尋問を始めることにした。
「な…なにいってるんですか?!それに、いきなり蹴りつけるなんて、どういうつもりなんですか?!」
ラガヤは腹を押さえながら、無実の主張と抗議をはじめる。
「おかしいと思ってたのよね。ヤムちゃんが腕のいい薬師だっていうのは、まあ普通に広がるわよね。彼女がどれくらいの間隔でこの街に来ているかも、門番や馴染みの宿屋に聞けばわかるわ。でもね」
そこまで説明したところで、私の『部下』が、ラガヤを取り囲む。
「透明化の魔法を使って商業ギルドにやってきた彼女は、町の連中に姿を見られていない。なのになんで、あの冒険者ギルド長がやってきたのかしらね?」
私の指摘に、ラガヤは焦った様子をみせる。
「ぐ…偶然にきまってるでしょう!」
「彼女の姿を見たあとに裏口に向かっていったのは?」
「ちょっと用が…」
「それにしてははやかったわね。もどってくるのが。どんな用事だったの?」
「それはプライベートなことですから…」
いいわけにもならない無駄口を開くが、証拠はしっかりあがっている。
ラガヤを情報漏洩の犯人と断定したのは、なにも今日の行動だけではないのだから。
「くそっ!」
ラガヤは、私の尋問の間にダメージが回復したのか、いきなり逃げようとした。
もちろん逃がしはしない。
私はラガヤの前に回り込み、ボディーブローを叩きこむ。
「げぶうっ!」
うめき声をあげて床にたおれこんだ彼に、
「じゃあ、ゆっくりお話しましょうね♪」
私は笑顔で声をかけた。
商業ギルドの影の支配者ミルカードさんの
お話でした
別の人物の視点を見せろ!
と、言われた場合、かける人なら書いてみたいとと思います
これから暫くは更新に時間が空くと思います
申し訳ありません
ご意見ご感想お待ちしております