第21話 安全確認・ロブン青果店
お待たせしました
僕はまず商店街の方にむかった。
その道すがら、チンピラ冒険者が何人かうろついているのを見かけたことで、さらに心配になり、商店街へ急いだ。
商店街は特に変わった様子はなく、八百屋のおばさんも普段どおりの様子だった。
だが、店の陳列棚が派手にこわされ、所々黒く焼け焦げていた。
回りにチンピラ冒険者がいないのを確認して、『透明化』の魔法を解除して、おばさんに声をかける。
「こんにちは…」
「おやヤムちゃん。いらっしゃい。今日はレジルスのいいのがはいってるよ」
おばさんは、いつもと変わらない態度で、挨拶をしてくれた。
「これ。御存じですよね?」
僕は、冒険者ギルドの手配書を見せる。
おばさんは手配書を眺めてから、軽くため息をついた。
「もちろん知ってるさ。冒険者ギルドのチンピラみたいな冒険者が店の棚を破壊してから置いていったからね」
それを聞くと、締め付けられるような気持ちになった。
「ごめんなさい!僕のせいでお店が…修理代はお支払します…」
僕は深々と頭を下げる。
申し訳なさすぎて、それ以上言葉が出てこない。
「そうだねえ。店も一部焼かれちゃったし。でもね」
おばさんは、項垂れる僕の手から手配書を取り上げると、
「今の冒険者ギルドが出す手配書を信用するのは、余所者と、甘い汁をすすってる頭の悪い連中だけさ。発火」
魔法で火を付けて燃やしてしまった。
「これでも元冒険者で魔法使いだったんだよ。その辺のチンピラには負けやしないさ」
おばさんはにっこりと笑顔を向けてくれた。
おばさんのくれた言葉に嬉しさと申し訳なさを感じていると、
「何をカッコつけてるのよ母さん」
いつのまにか、僕と年齢の近そうな女の子が話に入ってきた。
「確かに始めに陳列棚を壊したのはチンピラ冒険者だけど、せいぜい板1枚だったじゃないの!」
「ハルナ!しーっ!しーっ!」
おばさんは人差し指を口の前にもってくる、喋るなのゼスチャーをするが、女の子。おそらく娘さん、は止まる気配がない。
「冒険者時代には『炎華の女王』なんて呼ばれる金級冒険者だっていってたのに、チンピラ冒険者2人を丸焦げにしたはいいものの、制御をミスして棚を燃やしたあげく、燃え移りそうになったから破壊消火しただけじゃないの!しかも、棚が虫に喰われてたのが発覚して倒壊寸前だったからって、大工のゴンジーさんに注文したばっかりじゃない!」
おばさん=イザベラさんは、娘さん=ハルナさんに色々暴露されて、恥ずかしそうに顔を隠してしまった。
ハルナさんは、僕に向き直ってにっこりと微笑むと、
「はじめまして。私はハルナ。いつもは『英魂亭』って酒場でウェイトレスをやってるの。貴女がヤムさんね!この前もらったエリプのお菓子はおいしかったわ!」
僕の手を握りしめ、嬉しそうにぶんぶんと上下に揺すってきた。
「はじめまして、ヤムと申します。今回は私のせいで大変なことに巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
僕は改めて頭をさげる。
とはいえ、どれだけあやまっても謝りきれるものではない。
しかしハルナさんは明るい口調で、
「さっき母さんも言ってたけど、今の冒険者ギルドの手配書を信用するのは、余所者と、冒険者ギルドから甘い汁をすすってる頭の悪い連中だけよ。と、いうわけだから、修理代は支払わなくていいからね。まあ、母さんも請求する気はなかったと思うし」
イザベラさんと同じような笑顔を向けてくれた。
「当たり前よ!私はヤムちゃんの味方ってことを言いたかっただけだもの!」
イサベラさんはぷんぷんしながらハルナさんに抗議する。
目の前で繰り広げられるそんな親子のやり取りを、僕は羨ましく思ってしまった。
「ありがとうございます。事態が納まったら、また改めてお詫びに伺います」
僕は深々と頭を下げ、感謝の言葉をつげる。
すると、なぜかハルナさんにがっしりと肩をつかまれ、
「お詫び。期待していますからね?この季節は、前にいただいたエリプだけじゃなくて、レジルスも美味しいんですよ~♪」
以前に、商業ギルド長と買い取り担当部長のそれぞれから感じたものと同等のプレッシャーが放たれてきた。
後にわかったことだが、ハルナというのは、300年以上前に、暴れるドラゴンの群れをたった1人で退けたといわれる女性勇者の名前で、強い子になりますようにと女の子につけられる、わりとポピュラーな名前らしい。
その時のハルナさんからのプレッシャーは、その勇者と同等のように思えた。
逞しいメセの街の住人達その1
300年前の勇者は異世界転移でやって来た人です。
名前の元ネタは、日本海軍所属高速戦艦金剛型三番艦榛名です。
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