閑話 2
平成最後の投稿です
~リーフェン王国地方都市メセ所属 警備兵ロインの視点~
俺はロイン。
このメセの街の警備兵だ。
実家は商店をしているが、三男の俺には分けて貰えるものは何一つない。
とはいえ、冒険者は怖い。
ならばと選んだのが警備兵だ。
街中をうろうろするか、城門で立っていれば良いだけ。と、軽い気持ちで入った。
の、だが。
街中の警邏はトラブルが山ほどあるためにめちゃくちゃ忙しく、逆に城門は退屈極まりなかった。
毎日毎日、商人や城壁外にある畑に行くおっちゃんおばちゃんをお見送りしては、お出迎えするの繰り返しだ。
今日も朝から商隊が数珠繋ぎだ。
「良し。次~」
大きめの商隊の次にやって来たのは、フードを被り、荷物を担いだ行商人だった。
「外套の前を開けて、フードを取れ」
問題はなかったとしても、フードを被っているやつには、防犯上指示しないといけないのだ。
ごねるかなと思ったが、意外と素直にフードを取り、外套の前を開けた。
そこから出てきたのは、
誰にも踏み荒らされていない新雪のように真っ白な肌。
東方にあるという、薄桃色の花の花びらのような艶やかな髪。
大粒のルビーの様な真紅の瞳。
みずみずしい果実の様な艶やかな唇をもった、目の覚めるような美人だった。
おまけにその美しい顔の下には、魅惑の山脈がそびえたっているのだ。
彼女が行商人と言うことなら、これから頻繁にここにやって来るのだろうか?
だとすれば、これからの城門の仕事は楽しくなること請け合いだ!
「こんにちは、ロインさん。また寄らせて貰いますね」
嬉しそうに笑顔を浮かべる彼女。
「やあ、また何か仕入れて来たのかい?」
爽やかな笑顔で迎える俺。
「はい。色々探してくるのが大変でした」
顔を伏せ、つらそうな表情をする彼女。
「そんなに大変なら、いっそこの街に住めばいいじゃないか」
彼女の肩を抱く俺。
「でも、私はよそ者ですし…」
顔を背け、涙を浮かべる彼女。
「それなら…俺の伴侶になればいい。そうすれば君もこの街の住人だ!」
彼女の手を取り、強く見つめる俺。
「ロインさん…ぜひお願いします♪」
嬉し涙を流しながら俺に抱きついてくる彼女。
てな感じに…
ガンッ!
「なにをぼんやりしてんだテメエは!」
俺を現実に引き戻したのは、警備隊長の拳だった。
「なにするんですか隊長!せっかく彼女にプロポーズを…ってあれ?彼女は?」
いつの間にか彼女が居なくなっていた。
「さっきのお嬢ちゃんならもういっちまったぞ」
「なんで?俺まだ何にも話してないのに!」
「お前がぼーっとして動かなくなったから、俺が対応したんだ」
「そんなぁ!なんて酷いことするんですか!」
「動かなかったお前のせいだろうが」
どうやら俺が妄想の世界にいっているあいだに、彼女は行ってしまったらしい。
よーし。
こうなったら商業ギルドで尋ねて…
あ、あの子の名前知らなかったー!
~商業ギルド・リーフェン王国地方都市メセ支部ギルド長 リガルト・セテル・ブラナトスの視点~
「ふう…」
ヤムという薬師の女性が商談室をでると、私は品物鑑定用の眼鏡を外して目頭をおさえた。
「お疲れ様でした」
「今日はいい縁を結べたようだ」
彼女から買い取ったポーションの瓶をながめながら、私は先ほどの取り引きの成果に満足していた。
「この品質でこれだけの数を制作できるなんて、相当な腕ですよね」
受付主任であるミルカード君が、ポーション収納用のボックスにポーションを眺めつつ収納をしている。
「見る目のなかった薬師ギルドには感謝をしないといけないかな」
他人の不幸を喜ぶような真似はよろしくないのだが、これだけのポーションを制作できる彼女・ヤム嬢との縁が持てたのは僥倖と言わざるをえない。
「あれだけの美人で世間ずれしてない感じだと、保護してないとちょっと危ういですしね」
確かにその印象は間違いない。
が、そんなに弱い印象は受けなかった。
「そうでもないだろう。彼女は最後に、しっかりした取引をしていただきありがとうございます。といったんだ。おそらく、品質も買い取り額も承知の上で、こちらの言うままにしていたのだろう。買い叩いたとしても、品物は渡してくれただろう。が、2度とここにはこない。多分別の街に向かっただろう。まあ、推測に過ぎないがね」
「試された…と?」
私の推測にミルカード君は眉をひそめる。
が、すぐに表情をもとに戻し、残りのポーションをボックスに詰め終わると、しっかりと施錠をする。
「なににせよ。いい取引先が出来て良かったですね」
「そうだな」
だが懸念もある。
彼女の製薬の腕を知った薬師ギルドや、近年評判のよくない冒険者ギルド長が、強引な手段にでる可能性だ。
まさかの事態に陥った時に、これだけのポーションを制作出来る人材は貴重だ。
「ミルカード君。薬師ギルドと冒険者ギルドの動向を調べるように指示してくれたまえ」
「わかりました」
ミルカード君はにっこりと微笑み、ボックスを倉庫にしまいにいく。
「何事も起きないのが、一番なのだがね」
そう願いながら、私は鑑定用の眼鏡を拭き、ポケットにしまうと、商品の積み降ろしの手伝いに向かうことにした。
今回は男性視線。
次回も閑話です
ご感想お待ちしております




