第12話 商業ギルド
ちょっと長めで、説明多めです
一旦八百屋のおばさんの所に戻り、多分最後になる商業ギルドの場所を聞き、ここが駄目なら、別の街に行こうと決めた。
商業ギルドの建物は、薬師ギルド程は豪華でなく、冒険者ギルド程は武骨ではなかった。
建物横の駐車場らしき場所には、何台もの馬車が止まり、様々な荷物が運ばれていた。
僕は、さっきの2つのギルドでの事を思いだし、多少不安になったが思いきって中に入った。
建物の中は、やはりカウンターがあり、左手には廊下があり、商談室と書かれた矢印があった。
右手には、幾つもの長椅子が並んでおり、壁には街道や町の情報、さまざまなニュースが張られている掲示板があり、何人かの人が熱心にみつめていた。
僕は、フードをはずしてからカウンターに向かい、受付の人に声をかけた。
「すみません。ちょっとよろしいでしょうか?」
「いらっしゃいませ。商業ギルドへようこそ。どの様な御用件でしょうか?」
薬師ギルドとも冒険者ギルドとも違うまともな対応に、ありがたいと思ってしまった。
「はい。此方で身分証は制作できますか?それと、品物の買い取りを御願いしたいのですが…」
「はい。どちらも大丈夫ですよ。買い取りの方は、身分証、商業ギルドへの登録が終了してからでよろしいでしょうか?」
「はい。それでお願いします」
買い取りも身分証の入手も、滞りなくすすんでいった。
「では此方の書類に、御名前と取り扱う取引の規模を
御願いします」
この瞬間までは。
名前を聞かれた時、僕は嫌な記憶を思い出した。
前世での、矢嶌六三という名前は、産まれる前から無数の名前を考えられ、その中から厳選された兄と違い、たまたま病院の待合室にあった時計の時刻が六時三十分だったことからつけられた名前だった。
だが家族?からは、『おい』とか、『クズ』とかしか呼ばれていなかった。
学校でも、『矢嶌弟』『出来損ないの方』とか呼ばれていた。
「あの…どうかしましたか?」
十分に克服してはいるものの、嫌な記憶ではあるので振り払おうとしたところに、受付の人が心配そうに声をかけてきたので、
「いえ。あの…取引の規模ってどういうものかなって」
「あ、それはですね…」
思わずして質問してしまった。
そんな質問にも、受付の人は丁寧に答えてくれた。
とはいえ知りたかったのも事実であるので、しっかり聞いておこうとおもった。
その内容は、
商業ギルド登録者にはランクがあり、
露店や屋台や行商はストーンランク。
個人商店。さっきの八百屋のおばさんの所なんかがカッパーランク。
小規模商会。大通りのしっかりした店舗を構えたりしているのがシルバーランク。
中規模商会。国内に支店があったりするのがゴールドランク。
大規模商会。国外にまで支店があったりするのがプラチナランク。
ランクによって登録費・年会費・税金などが代わるらしい。
僕は持ち込みだけなので、当然ストーンランクだ。
勿論、罰則や禁則なんかも教えてくれた。
まあ、違法な取引をするな、年会費を払えというような、当たり前のことであったが。
それよりも名前だ。
なにより滞った理由として、僕は転生した後の名前を考えていなかったのだ。
本来なら、まったく関わりのない名前を考えるべきだが、名前を呼ばれた時に反応出来そうにない。
かといってそのままだと、もし転移や転生でこっちにきた日本人に確実にばれる。
そして、あまりもたもたしていると不審に思われる。
切羽詰まった僕は、思わず名字と名前の頭文字を取り、
『ヤム』
と、書いた。
「御名前はヤム様で間違い御座いませんね。ランクはストーンランク。登録費は1万クラム。年会費は2万クラム。合計3万クラム。銀貨3枚となっております。お手持ちが心もとないなら、買い取りの後でも構いませんよ」
「あ、大丈夫です」
僕は、入都税同様に神様に餞別にいただいた銀貨を渡した。
これで手持ちは残り銀貨6枚鉄貨7枚。後で城門にいって鉄貨2枚を返してもらわないといけない。
「身分証発行は少しお時間がかかります。現在商談室が空いていますので、4番の商談室へどうぞ」
「はっはい」
とりあえず言われたとおり、4番の商談室にむかい、ソファーセットの下座に座る。
それから2分もしないうちに、ノックのあとに背の高い男性が入ってきた。
「お待たせしました」
鋭い眼をしており、こちらを見すかされそうな感じだった。
「はじめまして。ヤムと申します」
僕はとっさに立ち上がってお辞儀をする。
「私は当ギルドの責任者のリガルトと申します。どうぞ、お掛けください」
「失礼します」
相手が座ってからソファーに座る。
「今丁度、買い取りの担当者が全員出払ってますので代わりに私が担当させていただきます。それで、売り物は何でしょうか?」
「はい。ポーションの買い取りをお願いしたいのですが」
そういうと、リュックに隠しておいた無限バッグから、売り物にするためのポーションをとりだしていった。
その間リガルトさんは、取り出されたポーションをじっとみつめていた。
「これで全部です」
僕が用意したのは、
ポーション50本。
ハイポーション20本。
マジックポーション20本。
ハイマジックポーション10本。
まあ、妥当な数だとは思う。
だが良く考えれば、それぞれ1本ずつ取り出してからでも良かった。
これでは足元を見られてもしかたがない。
今回は授業料と割りきった方がいいかもしれない。
「ポーションにハイポーション。さらにマジックポーションにハイマジックポーション…」
リガルトさんは、胸元のポケットに仕舞ってあった眼鏡を掛けてからポーションを1つ手に取ると、じっくりと眺め始めた。
「全て高品質とは…」
リガルトさんはぶつぶつと呟きながらも、書類に色々と書き込んでいく。
「査定は終了です。買取額は、ポーションは1つ1000。ハイポーション、マジックポーションは1つ5000。ハイマジックポーションは1つ25000。合計50万クラムでよろしいですか?」
完全鑑定で調べておいた価格と同じだったので、
「はい。それでお願いします」
喜んで買い取ってもらうことにした。
ちなみにこの世界の貨幣はクラムという単位で統一されている。
1500年程前に世界統一を成し遂げた、クラムルス帝国の通貨で、貨幣には表に金額、裏にスルカス貝(まるっきりホタテ貝)が描かれている。
貨幣の種類は8種類。
石貨=1クラム
銅貨=10クラム
青銅貨=100クラム
鉄貨=1000クラム
銀貨=1万クラム
金貨=10万クラム
琥珀金貨=100万クラム
白金貨=1000万クラム
鉄より銅や青銅の方が価値があると思うが、長年の馴染みがあるため変えられないらしい。
「では支払いは身分証が届いた後で…」
リガルトさんがそういいかけた時に、さっきの受付の人がギルドカードを銀色のトレイに乗せてもってきてくれた。
「お待たせしました。これが貴女のカードになります」
「ありがとうございます」
カードは名刺より少し大きいぐらいで、灰色をしており、名前と管理番号が書かれていた。
僕がカードを眺めていると、リガルトさんが話し掛けてきた。
「ところでこのポーションは御自分で制作を?」
そこは秘密にする気はなかったが、話してないのに見抜かれたのは驚いた。
「どうしてそう思われたんですか?」
「ポーションを評価した時に、嬉しそうな顔をしましたからね」
受付の人に書類を渡しながらくすりと笑った。
やっぱり商売のプロの洞察力は凄いと思うと同時に、顔に出ていたと思うと恥ずかしくなってしまった。
受付の人が書類をもって商談室をでていくと同時に、別の人がお茶を持ってきた。
リガルトさんはそのお茶を飲みながら、また話し掛けてきた。
「しかし、貴女ほどの腕があれば、薬師ギルドに行くべきなのでは?」
「初めに行ってみたんですが、紹介状がない馬の骨は寄り付くなといわれました」
愛想笑いを浮かべながら、リガルトさんの質問に答えると、
「呆れ果てていいのか、お陰で得をしたと喜んでいいのか…」
リガルトさんはなんともいえない苦い顔をしていた。
暫くして、さっきの受付の人が、代金の50万クラム。金貨5枚を銀色のトレイに乗せてもってきた。
「ではポーション各種の代金50万クラム。お受け取りください」
トレイは僕の前に置かれ、金貨は鈍い光を放っていた。
「ありがとうございます。しっかりした取引をしていただいてありがとう御座います。またよろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をしてから、金貨を財布にしまいこんだ。
転生してから初の収入。
つまりは、自分が制作したものを身内以外の人にきちんと評価されるのは、やっぱり嬉しいものだった。
丁寧な応対をされると、ありがたいですね。
でも、あまりにも丁寧な応対をされると、申し訳なく思ってしまいます
このあとは少し閑話が入ります
ご意見ご感想は柔らかめでおねがいします




