第106話 不安な神様
ものすごい時間が開いてしまいました。
またこれぐらいあきます…
まず僕の頭に浮かんだのは、僕の兄を気に入り、僕から様々なものを奪い取った、最高神様に滅ぼされたはずの神だった。
そんな神なら、なにかしら分体の様なものを用意しておき、逃げおおせるくらいするだろう。
そして、澄ました顔で僕に近づき、また自分のお気に入りに、僕が努力して手に入れたもの、身につけたものを奪い取るつもりなのだろう。
でも、いまの僕は以前の僕ではない。
知嚢神様に魔法を教わり、闘神様に杖術を習い、技能神様に薬学や色々な事を教わった。
そして、転生して備わった淫魔の力も総動員して、
たとえ敵わなくとも全身全霊をもって抵抗し、
なんとしても企みを阻止してみせる!
僕は、すぐに席を立つと、神様のバッグから金剛杖を取り出し、角・羽根・尻尾を出現させる。
こんなところで戦闘はしたくないので、なんとしても身柄を拘束するために魔力を高めた。
「ちょっ…ちょっと待ちなさい!私は貴女から色々奪い取った神じゃないわ!」
その人は、慌てた様子で僕に話しかけてくる。
でも、その言葉を信用は出来なかった。
「証拠はありますか?」
「困ったわね…。神気を解放するのは簡単だけどどうしようかしら?」
なにやら悩んでいるということは、やはり企みがあるということになる。
そこに、意外な人が現れ、意外な真実を突きつけた。
「あ!やっぱりこんなところにいましたねパウディル様。紛れ込んでいると思いました」
その意外な人物とは、パルミッシモ大聖堂で忙しくしているはずのラシャナさんだった。
「え?!今なんて?」
そしてその言葉に、僕は耳を疑った。
しかし、驚いたのは向こうも同じで、
「ヤムさん?どうして角と羽根と尻尾をだしているんです?」
僕がサキュバスの姿をしていることに驚いていた。
その事には、僕が答えるより先に、シスターさんが口を開いた。
「私を、自分の人生を狂わせた邪神だと思い込んじゃってるのよ」
すると、ラシャナさんが盛大にため息をついた。
「ヤムさん。この方が、この世界の創造神パウディル様です。時々こうやって地上にきて、お菓子やご飯を食べるんです」
「ちょっとラシャナちゃん。それだけできてるんじゃないのよ?」
「本当ですか?」
ラシャナさんは疑いの目でパウディル様(仮)を見つめる。
たしかに、本物の神パウディルだったとしても、あのお菓子好きの様子から考えると、お菓子を食べにきてるとしか思えない。
ラシャナさんがわざわざ嘘を言うとは思わないけれど、完全鑑定を使ってみることにした。
というか、最初に使えばよかった。
普段は失礼になるので、見るからに怪しい人や、向こうから話しかけてきた人。こっちを見つめてくるような、敵意・悪意・害意を持ってるような人にしか使っていなかったけれど、よく考えれば、敵意・悪意・害意を全く感じさせる事なく、平然と他人を傷つけれる人がいたりするのだから、今後はさらに今まで以上に使っていく事にしよう。
そうして目の前の神パウディルと呼ばれたシスターさんを鑑定したところ、間違いなく神パウディルであることが解った。
僕は、角・羽根・尻尾をしまうと、その場で土下座をした。
「申し訳ありませんでした!今、その、鑑定をしたら…」
「あーもういいもういい!ちゃんと正体を明かして、話をして納得してもらってから、お願いすればよかったんだから。私の方に責任があるんだから!」
神パウディル。パウディル様は慌て声をかけてくる。
「そうですよ。そもそもちゃんと私から話をしてからって約束だったのに勝手に、しかも雑に、怪しまれるような感じでばらしたりするからです」
ラシャナさんから、情け容赦のないツッコミが入る。
「さっきもいったけど、それだけできてるんじゃないの。最近地上が色々騒がしいでしょう?どこからか無許可で私の世界に入り込んでる奴が、裏で糸を引いてるんじゃないかなと思って、それを調べてるの」
ラシャナさんからの追及を受け、パウディル様が発した言葉に対して、
「ぼ…私じゃありませんよ?」
こういう何らかの疑いがあった時に、僕は間違いなく犯人にされていたことがあり、反射的に否定してしまった。
「あなたじゃないのはわかってるわよ。あなたはちゃんと許可をもらってやって来たんだもの」
パウディル様は、やれやれという表情を浮かべる。
それを聞いて安心すると同時に、前世に読んだ小説の設定を思い出した。
「もしかして…前世での僕の兄でしょうか?その…勇者召還とかの魔法でこっちにとか…」
選ばれる基準なんかはわからないけれど、そういう魔法で他の世界の人達を呼びつけ、自分達の利益を得ようとする手段がある。
そうやって呼び出され、有能なら優遇されて我が儘放題を許されるというのはよくある話だ。
「きな臭い国がいくつかあるけど、そこまでなのは居ないわ。もう少し調査が必要かしらね」
「でもそれって、神様が直接調べるものなんですか?」
「神でなければ分からないのよ。それに、一番暇なのが私だから」
なんだか不安な一言だった。
「ともかく気をつけなさい。まあ、難しいだろうけどね。あ、エール1つね」
パウディル様は難しい顔をしながら、近くにいたウェイトレスにエールの注文をした。
何とか主人公に出番を…
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