第105話 別れと出会い
本当にお待たせいたしました。
ウェイアスが生きながら冥府につれていかれた日より3日後。
新しく法王に就任したテウゴク法王の仕切りにより、
ラシャナさんのおじいさん、第218代パウディル聖教法王兼パウディル神聖国国主、ラグウス・バリュヌスの葬儀が執り行われた。
先代法王は人格者であり、様々な人達から慕われていた。
国同士の争いを止めさせたり、孤児たちの保護・教育など、様々な功績もあった。
そのため葬儀には、崩御が伝えられてから葬儀までの2日の間に、何千という人達があつまり、様々な国の王達からは、崩御を悔やむ書簡が送られてきた。
一部の悪意ある国からの、形だけの書簡を除いて…。
しかしその葬儀は、決して暗いだけのものではなかった。
『自分が死んだ時には、葬儀の後に必ず宴を開いてほしい。皆が楽しそうにしていれば、安心して神のみもとに行けるから』
と、言い残していたこともあり、葬儀の後、都市中を上げての盛大な感謝の宴が開かれたからだ。
町中に屋台が立ち並び、町中のあちこちにイスとテーブルが置かれ、先代法王に対する感謝の乾杯が行われていた。
串焼き屋台のおじさんがうっすら涙をうかべながらも、威勢の良い売り声をあげていたり。
法王様がお気に入りだったのよと、本当か嘘がわからない売り込みをしているおばさんがいたり。
他にも、うちの子供に祝福を下さったとか。
若い頃に一緒に酒を飲んだとか。
色々な思い出話が飛び交っていた。
その宴の最中の街中を、ゆっくり見物しながら歩いていると、王都で出会ったあのシスターさんをみつけた。
「あの。お久しぶりです。覚えていらっしゃいますか?」
「覚えているわ!エリプのお菓子と焼き菓子の子!」
「あはは…そうです」
名前を名乗っていなかったから当然だけど、『お菓子の子』で認識されてたんだ…。
しかし、僕にとっては覚悟を促してくれた恩人と言ってもいい人だ。
覚えていてくれたのは本当に嬉しい。
シスターさんは急に真面目な顔になると、
「法王猊下のことは残念だったわね。でも、人間は、生き物はいつか死ぬものよ。そしてその時に、人間の真価ってやつが問われるわ。そして今のこの状況が、218代パウディル聖教法王兼パウディル神聖国国主、ラグウス・バリュヌス猊下の真価なのよ」
と、先代法王の事を長年の友人のように語った。
おそらく、いまこの都市にいる人だけでなく、この世界の多くの人が、ラシャナさんのおじいさんの死を悲しんでいる。
お酒を飲み、料理を食べ、賑やかに笑っていたとしても、やはり悲しいはずだ。
でも、法王猊下に安心してほしいから、宴を楽しんでいる。
本当に愛されて慕われていた人だったんだろう。
前世の僕の時は、どうだったのだろう?
「ほら、そんなところに立ってないで座って座って」
そんな事を考えていると、シスターさんが僕にイスを勧めてきたので、とりあえず席についた。
「ところで。今日はなにかないのかしら?」
するといきなり、お菓子のおねだりをしてきた。
さっきの真剣な表情はどこへやら。
獲物を狙うハンターのような顔をしていた。
「宴のご馳走があるじゃないですか」
僕が、あきれながらそういうと、シスターさんは信じられないことを口にした。
「だって、異世界のお菓子なんだから食べたいじゃない。あ、あのカッカルチップとかいいわね!たしか、もらった焼き菓子にも使ってた!」
僕はそれを聞いた瞬間に、身体と思考の両方が凍りついた。
そして全身の力を使って、
「だれですか?貴女は」
そう尋ねた。
そろそろ主役が目立つはず…
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