第102話 にているひと
お待たせしました
ウェイアスの発言に、呆れ返る者・苦々しく睨み付ける者・哀れみの視線を向ける者と様々だった。
そのなかで、ラシャナさんがゆっくりと口を開いた。
「そんなことで…。そんなことでお祖父様を殺したんですか?」
その声には、静かではあるものの、相当の怒りが込められていた。
その怒りに気がつく事もなく、ウェイアスはラシャナさんを睨み付ける。
「そんなこと?重大な問題に決まっているだろうが!私は神パウディルの伴侶だぞ?貴様らのような凡俗と違うのだ!」
ウェイアスのその発言に、全員が驚愕した。
法王の座を狙うのは、人間の欲の範疇だが、神を伴侶にするというのは人間の欲の範疇を越えている。
その発言に、ラシャナさんの我慢が限界にきたらしく、
「神パウディルが伴侶を選ぶなど聞いたことがありません!よしんば選ぶとしても、貴方のような人は選ばれません!」
声を張り上げ、ウェイアスの発言をきっぱりと否定した。
しかし、ウェイアスはその発言に怒ることもなく、恍惚の表情を浮かべながら、自分語りを始めた。
「私は既に神…いや、我妻パウディルと制約を交わしている!私が法王になり、即位式の場に降臨し、私がパウディルの夫となり、神々の王に君臨することをな!同時にパウディル聖教はウェイアス神聖教と名を改めるのだ!」
僕は、このウェイアス・カルタス・フォン・イルガルクによく似た人を知っている。
自分は万能・全能・絶対といった雰囲気を纏い、自分以外の全てを下に見ていた人を。
僕の知っている人とこの人との違いは、名前と外見と住んでいる世界の違いによる経験だけだ。
その場にいた殆どの人が、神様に不敬な発言をしたウェイアスを睨み付けるが、何人かは羨ましさを内包しながらの悔しそうな顔をしていた。
「まあ、凡庸な連中であろうとすぐに理解する」
余裕の表情を浮かべたウェイアスの合図とともに、教会騎士の一部が会議場に雪崩れ込み、全員に剣や槍を突きつけてきた。
「即位式が終わるまでは生かしておいてやる。私に頭を垂れるなら地位を考えてやってもいいぞ?」
勝ち誇った笑いを浮かべるウェイアスの言葉に、悔しそうな顔をしていた人達が、一転して考え込むような表情を浮かべた。
そこに、テウゴク枢機卿が、突き付けられた武器を気にする様子もなくウェイアスに話しかける。
「人間至上主義者をこの神都に入り込ませたのも貴殿かな?」
「知らんな。神になる私にとっては全て下等な生き物にすぎん」
このやり取りに、考え込むような表情をしていた人の1人が、ピクリと身体を震わせた。
僕以外にも、その様子に気がついた人はいたらしく、何人かが視線を向けていた。
「ラシャナ・バリュヌス。そしてヤム。お前たち2人は私の側妻としてやる。我妻パウディルとともに神の王たる私に侍れるのだ。明日の即位式では、その幸運に歓喜の涙を流しながら、頭を垂れるがいい」
そんなことなど意にも解さず、ウェイアスは自分の要件だけを言い放った。
そして、当然という表情を浮かべながら、会議場をでるために一歩を踏み出そうとした瞬間、床から何本もの鎖が飛び出してきて、ウェイアス・カルタス・フォン・イルガルクの身体に巻き付いた。
決して転生はしていません。
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