第100話 追い込まれた男(第3者視点)
今回も第3者視点です
その言葉に、会議室にいた全員が驚愕し、聖女であるラシャナ・バリュヌスが取り出した遺言書に視線が集中した。
「内容をよみます。
『この文書が読まれているということは、私は既にこの世には居ないのだろう。もしこの文書が発見された時に、次期法王が決まっていたら、無視をして破り捨てて欲しい。もし決まっていないなら、コーテリウズ・テウゴク枢機卿を推薦する。幾度か話をして断られたが、私としては彼以上の適任はいないと思っている。何度も言うが、既に法王が決まっているなら、無視をして破り捨ててほしい。この世にいない老人の言葉でいたずらに乱すようなことをしないでほしい。
ケルティシュ歴3792年
積雪の月13日星の日
第218代パウディル聖教法王兼パウディル神聖国国主ラグウス・バリュヌス』
以上が内容になります」
そう言って彼女は、遺言書を全員に見えるように広げた。
「たしかに法王猊下の字だ!間違いない!日付は一昨年のものだな」
「聖印も押されている。これは勅書として扱っても問題ないだろう」
その遺言書を目の当たりにし、1人を除いた全員が1つの結論に達していた。
「ではこの遺言書の事実を踏まえた上で、会議を改めてやり直そうではないか」
しかし、その除かれた1人の男は違った。
「ふざけるな!」
台を派手にばしん!と叩き、
「法王の勅書はこれだ!お前達はこれに従えばいいんだ!」
普段の冷静な顔はどこへやら。
顔を歪め、瞳に怒気を燃やし、自分を法王にするよう書かれた勅書を見せつける。
すると、それを見たコーテリウズ・テウゴク枢機卿はあることに気がついた。
「ふむ。そういえばその2つの勅書には、小さいですが1つ気になる箇所がありますな?」
「なんだと?」
テウゴク枢機卿の言葉に反応し、議長であるイルガルク騎士団長はテウゴク枢機卿を睨み付けた。
「聖印の位置である。ラシャナ様が持ってきたものは名前の一番最後の文字の横。対して貴殿が持っているものは名前の一番最初の文字の横。これはなぜでしょうな?」
その指摘に、イルガルク騎士団長は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をするが、すぐに余裕のある表情になり、
「たまたまでしょう?」
と、返すものの、
「お祖父様は几帳面な方でしたから、印を打つ位置を変えたりすることはありません。他の書類でも、打つ位置は同じのはずです」
孫娘であるラシャナに一蹴される。
だがそれでも、イルガルク騎士団長は食い下がる。
「今回だけそうしたのかもしれない!法王猊下も人間だ!たまには気分が変わるときもあるかもしれない!」
「ふむ。やけにこだわりますな騎士団長殿。貴殿なら再調査を提案すると思っていたのだがな。どうやらこの勅書の内容は、貴殿にとって都合の悪いもののようですな、ウェイアス・カルタス・フォン・イルガルク教会騎士団長殿?」
テウゴク枢機卿は、人の悪い笑顔を浮かべながらイルガルク騎士団長に視線を向ける。
「それは貴様にも言えることだろう!」
「我輩には何一つありませんな。その遺言書に書かれているとおり、何度か次期法王を打診されましたが断っていましたので」
イルガルク騎士団長の反論に対し、テウゴク枢機卿は焦ることなく返答する。
その返答を聞いているうちに、イルガルク騎士団長の表情が更なる怒気に包まれていった。
そして、
「ふざけるな!次期法王は!第219代パウディル聖教法王兼パウディル神聖国国主は!このウェイアス・カルタス・フォン・イルガルクだ!」
繰り出した合図と共に、教会騎士団の団員が会議室に雪崩れ込んできた。
主人公が会話に混ざれないので、
今回も神の視点(若本規夫さんでイメージしながら執筆)です
さすがに次からは戻します…
でもめちゃくちゃはかどるんです…
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします
やっと本編だけで100話こえました。