第99話 会議室で踊ったりはしない(第3者視点)
第三者視点です
「では只今より、法王選出のための会議を開催いたします」
パルミッシモ大聖堂の内部にある、法王と枢機卿以外は、許可された者しか入室を許されない特別な会議室に、関係者が揃い踏みしていた。
「それは分かるが、その会議の場になぜ騎士団長のお前がいる?」
そしてその条件があるならば、議長を務めるこの男はこの場にいてはいけないはずである。
しかし男は、慌てることも怖じ気づくこともなく、
「それは簡単なこと。これがあるからです」
1枚の証書を眼前に掲げた。
それは前法王ラグウス・バリュヌスの署名に、聖印が押印された勅書であった。
「ちょ…勅書だと?」
法王が亡くなったという連絡しか受け取っていない枢機卿の1人は、勅書の存在を知らなかった。
「はい。これによれば、次期法王はこの私、ウェイアス・カルタス・フォン・イルガルクにせよ。と」
議長を務める男は、ものすごく真剣な表情で、興奮も動揺も感じさせずに、言い放った。
しかし、勅書の存在を知らなかった枢機卿は納得がいかなかった。
あわよくば自分に法王の座が与えられるチャンスを、枢機卿でもないこんな若僧にかっさらわれるのは、癪にさわるからだ。
「しかしだ!もうひとつの勅書は偽物だったと聞く!それも偽物ではないのか」
先に来て、多少は事情を聞いている枢機卿が、偽物の勅書があったことを指摘する。
「筆跡は確かめました。法王猊下のもので間違いありません。聖女ラシャナ様に確認していただきました」
その指摘に対し、男は冷淡な表情で、冷静に返答した。
しかし、
「つまり、法王猊下の意志は尊重され、この勅書は効力をもつということだ」
次の瞬間には、自身に満ちた表情を浮かべ、会議室にいる全員を見渡した。
そうして、最後通告をしようとしたまさにその瞬間、
「お待ち下さい!」
会議室の扉が勢いよく開けられた。
「「「「「「ラシャナ様!」」」」」」
そこに現れたのは、前法王ラグウス・バリュヌスの孫娘であり、聖女と称されるラシャナ・バリュヌスであった。
そしてその後ろには、今回の勅書騒動で被害を被ったサキュバスの娘が付き従っていた。
全員が驚き、彼女達に注目する。
しかし、議長をつとめている男は、
「ラシャナ様。例え貴女が聖女と言われようと、この会議室に入るのは許されませんよ? 」
と、怒りの表情を向ける。
しかし聖女は、
「その会議に関係する事だからこそ、無礼を承知で乱入した次第です」
平然と男の視線を受け流し、自分が乱入したことを謝罪し、
「それで?次期法王を選出するこの会議に関係する事とは?」
男の怒気をはらんだ問いにも怯むことなく、
「お祖父様。前法王猊下の遺言が見つかりました。しかも、次期法王について書かれていました」
会議の議題を破壊する一言を投下したのである。
神の視点は若本規夫さんで考えています
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