第95話 枢機卿の思惑
何とかして主人公を目立たせないと…
テウゴク枢機卿以外のその場にいた全員が、灰になった勅書を呆然と見つめていた。
「これで何者が書いたかわからない偽物の勅書に従う必要はなくなる。ヤム殿。貴殿はいつ帰られても構わないぞ。枷は亡くなったのだからな」
「は、はい…」
ニヤリと笑ったテウゴク枢機卿の言葉に、僕は思わず返事をしてしまった。
そしてその言葉に、異を唱える人がその場にいた。
「ふざけるな!あれが法王が許可したものだったらどうするのだ?!」
マガコス枢機卿が、物凄い形相でテウゴク枢機卿を怒鳴り付けた。
しかしテウゴク枢機卿は意に介すこともなく、
「だとしても燃やすがよろしかろう。あのような他者の人生をドブに捨てさせるような勅書など、存在してよいものではない」
マガコス枢機卿に鋭い視線を向け、きっちりと言いはなった。
「その通りだ!何よりあの勅書は法王猊下を殺害した犯人が製作したもの。効力を持って良いわけがない!」
すると、ウェイアスさんもそれを肯定する発言をする。
「五月蝿いっ!その淫魔を監禁して薬を作らせれば、更なる資金が手に入るのだぞ!」
マガコス枢機卿は、なんとしても僕を監禁して薬を作らせたいのか、しつこく食いついてくる。
「マガコス枢機卿。やけにあの勅書に執着しておるようだが、もしかして貴殿が主犯かな?殺害犯は貴殿と同じ人間至上主義者。繋がりがあってもおかしくはない」
その行動を見かねたテウゴク枢機卿が発した言葉に、マガコス枢機卿の取り巻きを除いた全員が、マガコス枢機卿に視線を向けた。
中には睨み付けている人もいる。
どうやらこの場にいたのは、人間至上主義者を嫌う人達だったらしい。
「ぐ…」
マガコス枢機卿はそれ以上は口を開く事無く、その場を離れていった。
「あやつが暗殺の主犯ではないようだな。まあ、あれにそんな度胸はないか」
テウゴク枢機卿は、足早に立ち去っていくマガコス枢機卿の姿を見つめながらそう呟いた。
するといきなり僕の方にふりかえり、
「ところで、ヤム殿。もしお願い出来るなら、祖国に帰ったあと、薬やポーションをこちらに販売していただけるとありがたいのだが?」
最初に会った時と同じような表情を向けてきた。
一応?助けてもらったわけだし、普通に薬やポーションを販売するぶんには問題はない。
「お世話になってる商業ギルドも交えてよろしいなら」
協力的な僕の返答に、
「もちろん。それからもし今手持ちの薬やポーションがあるなら、商業ギルドへの卸値ほどで販売していただきたい」
テウゴク枢機卿は、そういってニッコリと微笑んだ。
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