第94話 死者の残したものと生者の思惑
また主人公が空気に…
「そういえば、聖印は無事なのであろうな?あれが盗まれればどんな命令でもやりたい放題になってしまうのだが」
ウェイアスさんの熱弁を遮るように、テウゴク枢機卿が声をかけた。
その指摘に、ウェイアスさんは慌てテーブルの上を見る。
「盗まれてはいないようです…」
ウェイアスさんの視線の先には、黒くて四角く、小さな突起があるものがあった。
それが聖印で、後で聞いた話だと、聖印本体は正四角形で2㎝四方で7㎝の長さの長方形の印章で、その台座は5㎝の正方形をしている。
その中央に聖印本体がきっちりはいるだけの穴(深さが4㎝)が空いており、その穴に聖印を入れる事が出来るようになっているらしい。
「良かったですな。それが盗まれていたら、法王猊下はさらに御無念だったでしょう」
テウゴク枢機卿はうんうんと頷いたあと、表情を改め、
「さて、法王猊下をいつまでもこのままにしてはおけませんな」
修道士に指示をだし、法王猊下を運び出させ、ラシャナさんは、涙を堪えながらその修道士たちについていった。
そしてその場には、僕とウェイアスさんとテウゴク枢機卿。
捜査員の騎士団の人達。
部屋の片付け、飛び散った血の掃除。をする人達。
事件を知って集まった人達が残っていた。
そこで僕は、
「それで、私はその勅書のとおりにされるんですか?」
ポツリとそう尋ねてみた。
「私が法王になって解除するまでは、神都にいて貰いたいですね。法王の意思が無視されたと思われてしまうので。ああ、勿論監禁などいたしませんよ!」
ウェイアスさんがそう力強く答えてくれた。
しかしそれに待ったをかける人がいた。
「なにを言っている!その娘を監禁して薬を作らせろと言うのが法王猊下の御意志なのであろう!ならば即座に監禁し、有用な薬やポーションをつくらせんか!」
現れたのは、何人もの取り巻きを引き連れた、背の低い、でっぷりとした体格の中年男性で、着ている服はテウゴク枢機卿と同じだけど、身体のあちこちに高価そうなアクセサリーを大量に身につけていた。
「この勅書は、法王猊下を殺害した人間の製作したものなのは明らかです!効力を発揮するべきではありません!」
ウェイアスさんがその中年男性に抗議をするけれど、中年男性は怯む様子もなく鼻息を荒くし、
「だまれ大司教の若造風情が!そもそもその小娘はサキュバスだろう!ならばそのような扱いをするのが当然だろうが!」
と、言い放った。
そして僕に視線をむけると、にたりとした笑いを浮かべ、
「それに、サキュバスであるなら別の使い方もあるのだからな」
僕に手を伸ばしてきたので、慌てその中年男性から離れた。
「そのおっしゃりようから考えると、間違いなく人間至上主義のようだな。マガコス枢機卿」
ウェイアスさんが、物凄い形相でマガコス枢機卿を睨み付けた。
その迫力に、マガコス枢機卿はヒッ!と声を上げ、取り巻きの後ろに隠れた。
「だっだがっ!法王猊下の勅書には、間違いなくその淫魔を監禁して酷使しろと書いてあるのだぞ!法王猊下の御意志を無視するのかっ!」
そして取り巻きの後ろに隠れたまま、ウェイアスさんに抗議した。
「その勅書は、法王猊下を殺害した犯人が製作したものだ!効力は無いに等しい!」
マガコス枢機卿とその取り巻きを睨み付けながら反論する。
「ではこうすればよろしい」
そこに、テウゴク枢機卿が割って入り、僕を監禁して薬を作らせるようにと書かれた勅書を手に持つと、
「『発火』」
火をつけて、あっというまに灰にしてしまった。
この事件のあとをどうしようか悩んでます
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SFの短編を書いてみました。
なぜか月間ランキングの3位に…なぜ?
ありがとうございます!
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