第93話 法王の崩御から始まる混乱
口内炎が2ヶ所できてしまった…
パウディル聖教の総本山であるパウディル神聖国。
その中枢である『パルミッシモ大聖堂』に、悲鳴が響き渡ったのは、朝の礼拝の時間の直前だった。
法王猊下の世話係の修道女が、法王猊下を起こすために寝室に繋がる執務室に入ったところ、法王猊下が仰向けに倒れ、その胸には1本の剣が刺さっており、その剣の持ち主は、教会騎士達によってすぐに判明した。
「探せ!あの大罪人をなんとしても探し出すんだ!」
夜の内に、矯正室と銘打った牢屋から脱獄した、あの女騎士、マリア・テレジア・フォン・ケルビレアーナだった。
それを知ったラシャナさんは驚愕し、法王猊下の部屋の前で、遺体を見た瞬間に崩れ落ちてしまった。
生まれ変わってからとはいえ、自分をずっと可愛がってくれた人が亡くなったのだから当たり前だろう。
それとは対照的に、騎士団長のウェイアスさんは、部下の人達と念入りに法王猊下の部屋を捜索を始めた。
「犯人はケルビレアーナで間違いはないでしょう。懸念としてはなにか持ち出していないかということです」
確かにその通りだけど、さっと部屋の中を見た限りでは、荒らされたような様子はなかった。
しかし、捜索を始めて直ぐに、とんでもないものが見つかった。
「ラシャナ様。これを」
それは、僕を監禁して薬を作らせるようにという勅書と、次期法王を騎士団長ウェイアス・カルタス・フォン・イルガルクにせよという勅書だった。
それを見たラシャナさんは、信じられないとばかりに肩を振るわせていた。
「そんな!?お祖父様がそんな勅書をお書きになるはずがありません!」
「はい。私もそう思います。これは明らかに別人の字。おそらく書いたのはマリア・テレジア・フォン・ケルビレアーナです。私は報告書での彼女の字を知っていますから間違いはありません」
ウェイアスさんは、勅書を見つめながら冷静に言い放った。
「しかし、こちらは法王猊下の字ですな」
そこにいきなり別人の声がかかった。
「「「「テウゴク枢機卿!」」」」
その声の主は、気配すら感じさせずに、いつの間にか後ろから現れた、テウコグ枢機卿だった。
すると、ウェイアスさんが枢機卿の前に立ち、
「これをマリア・テレジア・フォン・ケルビレアーナに作らせたのは貴方か?!」
あの女騎士が作ったらしい、僕を監禁して薬を作らせるようにという勅書を突きつけた。
テウコグ枢機卿は勅書を見つめると、ふんと鼻で笑い、
「ふむ…我輩なら法王猊下の字に似せてつくらせる。こんな素人がみてもわかるような真似はせぬ。しかし、聖印が押されているとは厄介な」
最後に不安になる一言を発した。
なので僕は、思わずラシャナさんに尋ねた。
「あれ…偽物なんですよね?」
するとラシャナさんは申し訳なさそうな顔になり、
「聖印が押されている限り、この勅書は効力を持ってしまうんです。体調が悪くて代筆させたとか、忙しいから代わりに書かせたという場合がありますから…」
冗談じゃない!
あの勅書が効力を持つという事は、僕はこの神都に監禁され、ポーションを作らされ続けることになる。
もし本当にそれが実行されるのなら、どんな手段を使ってでも脱出することに決めた。
すると、ウェイアスさんが僕の肩に手を置き、
「大丈夫です。撤回ができるのは法王のみです。しかし、私がこの勅書に従って法王となり、直ぐにその勅書を撤回しましょう。そのあとにちゃんと会議をして、正しく次期法王を選出すれば良いのです」
と、熱弁を奮った。
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