第92話 不安と勘違い
ちょっと長くなりました
僕が死んだ直接の原因は、兄であった人物に捨てられた女性に刺殺されたことだ。
その犯人は、兄であった人物と同じ学校の女生徒だと、神様達から聞いた。
が、どんな人物かは教えて貰えなかった。
そして僕は、その人の顔を見ていない。
そして声も、物凄い渇れた声だったので、判別も難しい。
もしラシャナさんが、その時の女性だったら?
そして、僕を苦しめた神の呪いが未だに効いていたら?
浮かぶのは最悪の結果だけだった。
「あ、女子高生っていうのは学者の見習いの見習いみたいなものなんです」
ラシャナさんに僕の葛藤がわかるはずもなく、用語の説明をしてくる。
彼女は自分の秘密を打ち明けてくれた。
それでも、神聖国の人であると言うこと。
そして、前世が日本人で、兄であった人物とおなじ学校の人。
それだけで怖い。
でも、僕は向き合わないといけない。
例えこの人が、僕を殺した人だとしても。
なので僕は、彼女の説明に、
「はい。存じてますよ…」
と、こたえた。
すると、ラシャナさんの顔がパッと明るくなり、
「やっぱり貴女も転生者だったんですね!」
と、僕の手を握りしめてきた。
ものすごく驚いたけれど、大事なことを聞いておかないといけない。
「あの、矢嶌龍志郎という人物を知っていますか?」
「ええ、しってますよ」
その言葉に僕は身体をびくりと震わせた。
「私が高1の時に、学校に講演に来ましたね。自慢話ばっかりでしたが」
そして、ラシャナさんの言葉にホッと胸を撫で下ろす。
どうやら大地恵さん=ラシャナさんは、僕よりも年下らしい。
しかしよく考えると、兄であった人物は世間的には有名人だったのだから、知っていてもおかしくはなかった。
「それがどうかしたんですか?」
そんな、僕の様子に、ラシャナさんが不思議そうに声をかけてきた。
「私、いや、僕の前世はその矢嶌龍志郎の弟で六三ともうします」
「え?弟…あ、死亡した後にサキュバスになったんですね」
変態!とか言われるかと思ったけれど、そんなことはなかった。
「やっぱり私の最初の推測は当たってました。あなたが冒険者の人にパウンドケーキを渡す約束をしているのを聞いて、もしかしてって思ってたんですよ」
ラシャナさんはにっこり微笑みながら、自分の推測を得意そうに話してくれた。
どうやら、モーティアちゃんとの話を聞かれていたらしい。
「矢嶌さん。いえ、ヤムさん。同じ転生者として、言っておきたいことがあります」
大地さん、いや、ラシャナさんは真剣な表情を剥けてきた。
「実は私は、パウディル様に直接逢う事ができるんです。だから、神パウディルは絶対に『祝福は人間のみに与えられる。それ以外の種族は下等である』などとおっしゃってはいません!絶対に!」
そして怒涛の勢いで、なかなか凄い情報を喋っていた。
「わかりましたわかりました!神様までは疑っていませんから」
圧に負けてそういったが、もしあんな神様だったら願い下げだ。
「では、機会があったらご一緒しましょうね?」
僕がそんなことを考えているとは思わないラシャナさんは、本当に嬉しそうにしていた。
のだが、
次の瞬間、僕の肩をがっちりと掴み、
「ついてはその時に、是非ともパウンドケーキをお願いしますね?そういえばせっけん・シャンプー・リンス・スキンケアクリームもあるらしいですね?ひょっとして歯みがき粉もありますか?」
物凄い迫力の笑顔で迫ってきた。
僕は勘違いをしていた。
この世界は砂糖の流通が少ないため、甘いものが好きな人が多い。
魔法があるせいか、技術的なものがあまり発展していない。
そのため、せっけんなんかの品質がいまいちなので、質のよい衛生用品は喜ばれる。
そう思っていた。
しかし真実は、どんな世界であろうと、女性の甘味と美容への情熱は全く一緒だということだ。
この後、ラシャナさんに押しきられ、持っていた『髪とお肌の清潔セット』と、自分用の予備の歯みがき粉(粉状の歯磨剤)を強奪させられた。
歯みがき粉は、いまのチューブにはいった練り歯みがき粉が、出来るまでは、本当に粉だったそうです。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします。
ちなみに、ラシャナさんが亡くなったのは高校3年生の時、異世界で17年生活しているので、精神的な年齢はさんじゅう…おっと、来客のようです…




