第87話 謁見(お祖父さんにご挨拶)
ちょっと長め
方針を決めたラシャナさんの行動は早かった。
僕に修道女の服を着せると、優雅に歩きながら法王猊下の執務室に向かっていった。
ラシャナさんはかなりの人気者らしく、すれ違う人達全員が、嬉しそうに彼女に挨拶をしていく。
そして男女問わず、僕にいぶかしげな視線を送る人が一定数いたことも事実だ。
仕方ないとは思う。
なにしろパウディル聖教の中枢に、明らかな修道女見習いが、教団内でも相当なえらい人と一緒にいるのだから。
そうこうしているうちに、ラシャナさんの足が止まった。
「ここがお祖父様の…いえ、ラグウス・バリュヌス法王猊下の執務室です」
どうやら目的の場所に着いたらしい。
その扉は濃い茶色で塗られていて、ものすごい重厚感と威圧感を放っていた。
ラシャナさんは、その重厚感に押し潰されることもなく、軽やかにノッカーにてをかけノックをした。
「入りなさい」
すると、なかから男性の声で入室の許可がでた。
「「失礼致します」」
部屋のなかは、明るめの茶色の壁に、テーブルとソファーのセットがあり、その奥には黒い重厚なデスクがあった。
なんというか、校長室のような感じだった。
偉い人の執務室というのは、みんなこんな感じなのだろうか。
そしてそのデスクの豪奢な椅子に座っているのが、ラシャナさんのお祖父さんで、現・パウディル聖教法王兼パウディル神聖国国主である、ラグウス・バリュヌス法王猊下だった。
「どうかしたのかねラシャナ?」
「おじい…いえ、法王猊下にお話があって参りました」
法王猊下は彫りの深い顔をしており、白く長い髭に、少しウェーブのかかった白い髪を首の辺りで切り揃えていた。
「この方が、以前報告いたしましたリーフェン王国でお会いし、モンスタースタンピードの時に助力いただいた薬師のヤムさんです」
2人の視線が僕に向いたので、あわててお辞儀をする。
法王猊下は鋭い目付きで僕を見つめ、
「ほう…。以前の報告をきく限り、彼女に協力してもらえるなら、病人や怪我人も減少するだろうな」
そしてニッコリと笑みを浮かべた。
どうやら僕が聖職者となり、奉仕をしに来たと思ったのだろう。
「確かにそうですが、彼女は自分の意思でやってきたわけではありません。実は…」
ラシャナさんは、僕がここにいる経緯を説明した。
すると、話を聞き終わった法王猊下が、立ち上がって僕の前に来て、
「薬師ヤム殿。私の監督不行き届きで迷惑をかけ、不愉快な思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」
膝を折って謝罪をしてくれた。
「あっあのっ!法王様が命令したのでなければ…」
実際どうなのかはわからないけれど、こんな偉い人に膝を折らせているところを見らたりしたら、どんな言いがかりをつけられるかわからない。
なので直ぐ様僕も膝を折った。
「それに、貴女を金儲けの道具にしようとしている連中も問題じゃ。ヤム殿にちょっかいを出させぬように通達しよう」
「あ…ありがとうございます…」
とにかく今の状況は良くないので、すぐに椅子に座ってもらった。
「しかし困ったものだ。拝金主義は昔からいたものだから対処はわかっているが…。フレーメル王国の者達はどうして人間至上主義などを唱え始めたのか…」
「調査に向かわせたほうがいいかもしれませんね」
「うむ。そうじゃな」
法王猊下はため息をつき、ラシャナさんは対策を思案し始める。
2人が話し込み始めたので、退室したいなとは思うのだけれど、黙ってでていくのも失礼なのでどうしようかと思っていると、
「おお。すまんすまん。話し込んでしもうた」
「ごめんなさいっ!話し込んじゃうとつい…」
法王猊下が僕の存在を思いだし、今度はラシャナさんが謝罪をしてきた。
「とにかく、後は儂に任せなさい。それから、帰りの為の馬車の用意はどうしても明日になる。その間、短い時間ではあるが、街中を見物していくと良いじゃろう」
「私が案内をしますね!」
2人は嬉しそうに話している。
本当は、その日の内に自分の羽根で飛んで帰ろうと思っていたのだけれど、いいだせる雰囲気ではなかった。
強引なことはしていませんが、法王も、ヤムを人材として手元に置きたいと考えています。
しかし、強引に手元に置く様なことをしたら、嫌がったり、逃げ出したり、敵対したりするのは間違いないので、絶対にやろうとはしません
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