第86話 聖女の謝罪と提案
キリのいいところができず、長くなってしまいました
枢機卿の姿が消えると、ラシャナさんは安堵のため息をついた。
「私…あの方はどうにも苦手です…」
「不思議な人でしたね…」
匂いを嗅がれたのは気持ち悪かったけれど、印象としては変人という感想が一番しっくりくる。
しかし、騎士団長さんはかなり気に入らないらしく、
「拝金主義の元締めですよあの男は」
と、吐き捨てた。
そしてあらためて僕に向き直ると、
「ヤムさん。本当に申し訳ありません。私の部下にあのような背教者が混ざっていたとは思いませんでした。さらにはあの拝金主義の元締めのような男と接触させてしまうとは…」
と、深々と頭を下げて謝罪をしてきた。
他人に謝罪をして貰うことが、この世界に来てから何度かあったが、いまだに慣れない。
前世では、僕に全く非がなかったとしても、むしろ被害者だったとしても謝罪をさせられていたことを考えると、大きな進歩だ。
「私はともかく、街の人達に被害がなくてよかったです」
「非常識な部下を派遣したことと一緒に、その点についても追求させていただきますからね!」
それに、味方が出来たのも嬉しい。
ラーナさん。いや、ラシャナさんが、僕以上に怒ってくれている。
これも前世ではあり得なかったことだ。
「ラシャナ様は相変わらず手厳しい。しかし、拝金主義者が狙っているのも事実ですので、貴女を保護しておきたいのですが…」
騎士団長さんの言っていることはもっともだとはおもうが、加害者が近くにいるというのは、なんとも落ち着かない。
そんなことを考えていると突然、
「では、まずは私の部屋に行きましょう!」
と、ラシャナさんが突然声をあげた。
「私の部屋なら、無粋な人達が踏み込んでくる可能性は低いですから、多少は安全ですし、来ている服を修道女のものに変えれば目立たなくなるでしょうし」
「それはたしかにそうですね。よいのではないでしょうか」
騎士団長さんがその意見に賛同したため、僕は2人に引きずられるように、ラシャナさんの部屋に連行されていくことになった。
ラシャナさんの部屋は、お祖父さんがパウディル神聖国国主であり、パウディル聖教法王猊下であり、本人が聖女様ということもあってか、かなり広くはあったが、何処と無くスタイリッシュで、前世のデザインによく似ていた。
ちなみに騎士団長さんは、着替えをするからという理由で遠慮してもらった。
なので早速着替えをするのかと思ったら、
「まず、以前にお会いした時には偽名を名乗っていて申し訳ありませんでした。さらにはこちらの不手際で呼び寄せる事になった上に、貴女や街の人達に怖い思いをさせてしまいました」
ラシャナさんが、悲痛に満ちた表情で謝罪をしてきた。
査察の時に偽名を使っていたのは、必要だからしていただけだろうし、呼び出し?に関しては、ラシャナさんは一切関わっていない。
「それはラーナさんの責任じゃないですよ」
「そういっていただけると、ありがたく思います」
僕の言葉を聞き、少しは安心したのか、軽く息をついた。
しかし直ぐに表情を引き締め、
「拝金主義者に人間至上主義者。パウディル聖教はいつから金儲け主義の差別者集団に成り下がったのか…。こうなったらパウディル様に許可を…」
なにやらぶつぶつと言い始めてしまい、声をかけられないし、かける言葉がなかった。
とはいえ、こちらの意思は伝えないとと思ったので、思いきって声をかけることにした。
「あの…ラシャナさん」
「はい?あ、すみません!考え事をしちゃって…」
「保護して頂けるというのはありがたいのですが、薬の納品関係のこともありますので、リーフェン王国に帰らせてもらえませんか?」
僕は、理由と要求を正直に伝えた。
理由のもうひとつ、『パウディル神聖国の人達が完全に信用出来ません』とは、伝えずに。
ラシャナさん・騎士団長さんはともかく、あんなことをする人がいるのだから、『自分は神様に選ばれた』といって、前世の兄みたいな人物がいる可能性の方が高い。
それを考えると、ラシャナさんには悪いけれど、一刻も早くパウディル神聖国からでていきたい。
「拝金主義者に人間至上主義者までいるここのほうが余計に危険ですよね…」
ラシャナさんも、そのことは理解してくれているらしく、頭を抱えていた。
魔眼を使って強引に出ていってもいいのだけれど、後々のトラブルにならないように、堂々とでていったほうがいいだろう。
するとラシャナさんが、
「そうだ!お祖父様…いえ、法王猊下にこの事をお伝えして、帰り支度を整えていただきましょう!」
と、満面の笑みを浮かべた。
ちょっと煮詰まってるので、気分転換に番外編とかを考えて、リフレッシュしたいと思ってます
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